隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー

各務みづほ

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後編

第二十章 変わりゆく未来へ-1

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 ヴィクルー教授と大学の皆は、メルレーン王国に帰ることになった。
 もともとライサが王都に戦いに行った時に問題のないよう、この地方に避難してきていただけである。
 戦争が終わり、形だけでも平和が訪れた今、学生やスタッフ達が元の大学や家に帰ろうと思うのは自然な流れだった。

「いろいろお世話になりました、先生」
「まだ大変とは思うが、頑張るのだよ、ライサ博士」

 言いながら少し離れたところで待っているディルクに目を向ける。

「ディルク君ともな。結婚式には参席させてもらうよ」
「はい、ありがとうございます。また連絡させていただきますね」

 ライサの笑顔に教授はホッとした顔を見せる。

「ところで、ここに視察に来たいと言っている者がいてね。貴方は知っていたかな、新しい宮廷博士なのだが」
「ああ、ニーマ・ロイヤル博士ですか。研究所で一緒になったことがあります」

 挨拶程度ならともかく、話をしたことはあまりなかったかもしれないと思い出す。

「メルレーン王国はこれから私と彼が中心になる。彼にもこの国と、できれば魔法世界も見てもらえたらと思ってね」
「……大丈夫でしょうか。魔法使いを好ましく思わない方もいらっしゃいますし」
「それは問題ない。彼も魔法使い肯定派だからね」

 ヒスターの息がかかっていた王立研究所。魔法使いの肩を持つ者などおらず、ライサは孤立していた。
 でももしかしたら表立って言えなかっただけで、魔法使いに興味がある人もいるのかもしれない。

「わかりました。詳細が決まり次第またお知らせください」

 教授は微笑むと、迎えの車に乗り込み、手を振りながら去っていく。ライサは深々と頭を下げた。



 ディルクが離れたところでライサを待っていると、ヤオスが渋い顔をしながら声をかけてきた。

「俺は、やっぱりお前が嫌いだよ。東聖ディルシャルク」

 拳を握りしめ、悔しそうに続ける。

「父は、戦争に行って帰って来なかった。俺だけじゃない、同僚の中にだってそういう奴はいる」
「恨みつらみもあるだろうな、それは」

 恨むなと言われても無理だろうーーディルクは静かにその事実を受け止める。

「お前が魔法世界に行った後、それでショックを受けたり、泣き出した奴もいたんだ。全部許されるなんて思わないことだな。魔法使いを嫌いな奴はそこら中にいるんだから!」
「肝に銘じておくよ」

 ただの意地悪ではない、本当のやりきれない思いが感じられた。
 でもこれが普通の反応だ。
 王妃に許され、王都にも受け入れられ、正体を隠していたために面と向かって責められたことはなかったが、やはり確かに恨まれてもいるのだと確認する。
 ディルクは苦笑した。

「俺は気に入ってるけどな、お前も。そうやって、教えてくれるところとかさ……ありがとう」
「なっ!!」

 なんとなく敵に塩を送った気分になり、怒りでヤオスの顔がみるみる真っ赤になっていく。
 しかし何か言い返そうと口をパクパクしている間に、バスのクラクションが鳴った。
 メルレーン王国に帰る学生達は既に乗り込んでおり、ヤオスが最後の一人だったのだ。
 彼は慌てて荷物を掴み、ディルクをキッと睨む。

「お、俺は一生許してなんてやらないからな! ライサさんのことだって!」

 不幸にしたらいつでも横から奪ってやるんだからなーと言いながら走り去って行く。
 ディルクは苦笑すると、バスに向かって手を大きく振った。

「お世話になりました! 道中お気をつけて!」

 ライサも来て彼の横に立つと、二人は揃って走り去るバスに頭を下げた。


  ◇◆◇◆◇


「もっと余裕もって出来ないんですか? キジャ君の鍛錬……」

 ばったりと倒れこんだ少年に治療を施しながら、サヤは主人を窘めた。
 有言実行、最初に言った通り恐ろしく過酷なスケジュールを組み、キジャは鍛錬に勤しんでいる。

「毎度悪いなサヤ。俺ももう少しのんびりいきたいんだけど……」

 当の本人が、五年で西聖になると言って聞かないのだ。
 ディルクは日中ほぼキジャの側にいない。新国王からの任務と、魔法世界の王都と世界中を飛び回っている。
 一通り終えて戻ってみると、キジャは課題をこなし、力尽きて倒れているのだ。

「こんなに鍛えられるものなのですか、宮廷魔法使いの弟子って」

 キジャの額はもう完治している。サヤは毎日鍛錬によって倒れるキジャを介抱しているのだ。

「んーまぁ、例えば今こいつがやってる課題は、だな」

 時間退行魔法。サヤも医療に少し応用するが、かじれたのはごく最近だ。

「俺は八歳で始めて完全習得は十歳。他に長距離転移魔法と合わせ技を同時習得」

 キジャは現在十二歳。ディルクの時程幼くはないが、スケジュール的には半分の時間だからなと唸る。
 鬼がいるとサヤは思った。

「他に王室マナーや各種行事、歴史や戦術、教えることは山ほどあるんだけどさ」

 倒れた弟子を眺めながらぼやく。

「本当は医学をやってほしい。ラクニアの。俺にも教えられない最先端の」
「医学……ですか、またどうして?」
「キジャが目指しているのが、医学の街ラクニアの、西聖だからさ」

 サヤの手がピタリと止まった。

「そんな……ことを、言っていたのですか……」

 思い出すのは半年前。少年に軽く話したラクニアの慣習。
 サヤは思わず苦笑する。

「サヤ?」
「本当に……すごいお弟子を見つけられましたね、マスターは」

 貴族と平民の身分差、ラクニアの慣習を聞いたキジャは、何とかしようと彼なりに動き始めたのだ。
 もしかして、あの街に新しい風を起こしてくれるのかもしれない。
 西聖という武器と権力を手に入れて。

「マスター、私、俄然やる気になってきましたよ!」

 そう言ってサヤは珍しくガッツポーズをする。気合を入れて治療術を施すと、彼女もまた医学のおさらいをしてきますと部屋を出て行った。

「あんなサヤ、初めてだな」

 ディルクは笑うと、弟子の成果と予定を吟味し始めた。


  ◇◆◇◆◇


「えっ、キジャ君西聖を目指しているの? そっかぁ、だからかな」

 貴重な二人きりのディナータイム。ライサはふふっと笑うと、驚くことを教えてくれた。

「リーニャ、科学の勉強の他にね、婆やから習って王妃様の周りのお世話やお掃除、それにお料理も手伝っているのよ」

 元々彼女は王宮を目指していたし、習いたいのかと思っていたけれどと。

「そういえばお昼にはいつも、作ったお弁当持って何処かに行くのよね。もしかして、キジャ君に持って行ってるのかなぁ」
「へっ!?」

 ディルクは驚いて目を見開いた。

「え、つまり何……キジャとリーニャって、付き合ってんの?」
「う、はっきりと聞いたことはないけど。たぶん?」

 付き合う前かもしれないが、確実に好意はあるんじゃないかとライサは言う。

「はあぁぁぁぁ~」

 しかしディルクはこれでかなり合点がいった。ラクニア名指しなのも急ぐのも。西聖になりたいわけも。

「……ないと思ってたんだよ。身分が全然違うから。ラクニアなんてガチガチだし」

 しかも袋叩きに遭うのは確実にリーニャだ。だからこそ大それた考えを持ってはいけないと小さい頃から教え込まれるのだ。

「ふ、二人ともずっとこの国にいればいいじゃない」
「そうじゃない、生まれ育った街の慣習なんて、そう簡単に変えられるもんじゃないってことだよ」

 そんな難題にーーガルですらなし得なかったことに挑戦しようとしているのか、あの弟子は。
 でもラクニアが変わるなら、変えられるなら、今しかないとも思う。

「とんでもないことしでかしてくれるなーあいつは」
「流石ディルクの弟子だよね」
「ああもう、協力しないわけにいかないだろ。ライサにもリーニャのこととか手伝ってもらうからな!」
「古くさい慣習への意識を変えるのね! 任せてー洗脳でもなんでもするわよー」

 物騒なことを言いつつ、当人の周りでことは動いていくのだった。
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