隣国は魔法世界

各務みづほ

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冒険編

第五章 意外な真実-1

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 ライサはそれから死の軍の基地で日々を過ごした。
 食事は運ばれ、ベッドにもありつける。だが依然として眠れない夜を過ごしていた。
 そして日に数回はダガー・ロウが同じ質問をしに来る。
 ライサは毎度毎度、変わり映えのない答えを返していた。

 彼女は機会くらいは狙っていたが、特に外に待っている人もいないので、命の危険を冒してまで逃げ出そうとはしなかった。
 部屋から出ることは出来なかったが、パソコンを持っていたので退屈はしない。そして何度も眠れない主原因について考え、やはり結論をだせずに悶々とする。
 ライサは期せずして、主原因であるディルクについて考える時間が多くなった。
 どうしてもっといろいろ話さなかったんだろうとか、酷い別れ方をしなくてもよかったんじゃないかなどと、後悔ばかりが過っていく。
 そして何も解決策が見つからないまま、ただ時間だけが過ぎ去っていった。


  ◇◆◇◆◇


「どうしても承諾する気はないのか?」

 四日を過ぎたある日、ダガー・ロウが確かめるように質問した。ライサはキッと睨みながら答える。

「何度も言ってる筈よ! 今更変える気はないわ!」
「そうか」

 しばしの沈黙。

「ここには残念ながら、強力な兵器が殆どない。貴殿の協力が我々には必要だ」

 入り口の扉から、頑丈そうな筋肉質の男が入ってきた。頭には髪がなく、サングラスをかけている。
 背は高く、ランニングの隙間からは、おそらく背中いっぱいに描かれているのだろう見事な入れ墨が見てとれた。
 そんな圧迫されるような雰囲気をもつ男に、ライサは恐怖を感じざるをえない。

「仕方がない。爪の一つや二つはがしてやれ。嫌でもやりたくなるだろう」

 ダガーの言葉に、ライサは今度こそ真っ青になる。

「冗談! 痛くて研究なんか出来ないわよ!」

 自分でも言ってることがちぐはぐだと思いながら叫ぶ。

「どうせ、やる気がないんだろう?」

 ライサは軍の訓練など受けていない。ましてや拷問など耐えられるわけがなかった。
 なんとか危機を逃れようと画策する。だが力技で勝てる相手ではなく、話術にもそんなに自信はない。
 サングラスの男がライサに近づき、腕を無理矢理引っぱり上げた。それだけでその痛みに目眩がする。

「いやっ! やめて! 助けて! 助けて、ディルク――――!!」

 精一杯じたばたと抵抗しながら、ライサは何故かディルクの名前を声の限り叫んだ。
 この一週間彼のことばかり考えていたせいかもしれない。

「無駄だな。こんなところに人が来る筈はーー」

 そのとき突然、ビービービーと警報ブザーの音が鳴り響いた。

「侵入者か。行け」

 ダガーが短く指示をすると、サングラスの男はライサから手を離し、サッと扉から出て行った。
 何だかわからないが、とりあえずの窮地を脱し、ライサはホッとする。
 するとダガーが自ら彼女の腕を捻り上げた。

「いっ……!!」
「仕方がない。この俺が直々に爪をはいでやろう」

 動きを封じられたライサは、今度こそ絶望を感じた。
 なぜ警報と共に逃げ出さなかったんだろう。そんな後悔が頭をよぎる。

「痛い!!」

 爪を少しつかまれただけで激痛がする。ライサは涙ぐみながら、自分にこれから起こる悲劇を想像し目を固く瞑った。

「……?」

 しかし、一向にそれ以上の痛みも衝撃も感じられない。
 すると突然、ゴッという重い物が転がる音、続いて呻き声がして、ライサはそっと目を開けた。

「うーん、やっぱ、警備ゼロとかにはならないか」

 すぐ傍に聞き覚えのあるのんびりした声が聞こえた。

「ま、陽動作戦なんてこんなもんか。上等上等」

 そこには彼女が呼んだディルクの姿があった。あまりのタイミングに、ライサは本気で幻覚を疑う。
 しかし呆けている場合ではない。
 ダガーの動きは速かった。ライサが止める間もなく、たった今現れた侵入者、ディルクに向かって刃物を振りかざしたのである。

「危ない――――!!」

 キィィィンという金属のぶつかる音が鳴り響く。
 慌てて見ると、ダガーの持つ短剣をディルクが別の短剣で受け止めていた。
 一瞬の出来事。ライサですらディルクはやられたと思った。ダガーも思いがけないことに一瞬躊躇している。
 その瞬間をディルクは見事についていた。

「ただの、衝撃波!!」

 ディクの掛け声と共に、本当にただの、なんの変哲もない衝撃波が発生する。

(もっとカッコイイ魔法使ってよ!)

 やはり呪文詠唱がなかったな、とライサは思いながら、少し余裕のある突っ込みを考えていた。
 彼が来た瞬間、ライサから恐怖が一掃されてしまったようである。
 相手はダガーだ。対魔法使い用の訓練もしている筈である。
 だがライサは、ディルクが勝つとなんの根拠もなく思った。

 ディルクの放った“ただの衝撃波”は、ダガーに見事に命中した。あっけなく最強軍団の指揮官は向こう側の壁に激突する。
 かなりの鈍い音とともに、その壁もひび割れた。見た目より威力は強いのかもしれない。

 それでも次の瞬間にはダガーは体勢を立て直し、懐から銃を取り出して素早くディルクに銃口を向ける。
 ライサは悲鳴を上げたが、容赦なく弾丸は標的を襲った。
 数弾の音が鳴り響くが、ダガーは手応えのなさに、瞬時に腰の光剣を構え直す。
 ディルクは銃弾全てを、咄嗟の結界で防いでいた。

 とにかく彼の魔法は速いのだ。ダガーの次の突進も、今度は別の硬そうな盾のような結界で受け流している。

「いい加減しつけぇよ! ーーーー地縛呪アースカーズ!!」

 ビシッとダガーの動きが捕縛された。
 そもそもディルクの最初の衝撃波のダメージが効いている筈である。もはや無駄な足掻きだった。
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