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魔女への入門
第二話 村へ
しおりを挟む魔女の村には基本、男はいない。
かの村で生まれた男児は五つの歳になる前に村を出され、母や姉妹とは別の生活を営む慣しだからである。
五つになる前にというのは理由があった。魔女の血を引いていても、男児は成長につれ魔力が失われ、五つまでには大方消滅してしまうからだ。
魔力の失くなった者に村にいる資格はない。
それは魔女狩り以降に始まった悲しい掟でもあった。
村から出た男児は、その後周辺の街に父と住むことが多い。
短時間で家族以外は会ってはいけないなど厳しい制限つきだが、村に残る母や姉妹とは一応会うことができるからだ。
シア達の住む都市は魔女の村の最寄りであり、魔女自身に会うことはないものの、男性出身者はそこまで珍しくもなかった。
隣りのクラスのリューズも魔女の村出身である。
「へぇ、よく許可がおりたね」
リューズはシアの適性検査結果を見て感心した。
「魔力値七十二! 使い方覚えれば立派に魔女ってこと? 珍しいね。御先祖に魔女や精霊の恩恵を受けた人でもいたのかな?」
普通は逆らしい。魔力値ゼロで筆記試験だけで入門するのが殆どだそうだ。
「やっぱり高いんだ、この魔力値」
「魔女の最低ラインが五十だからね。僕も四歳くらいの時は五十あったけど、五歳には三十きっちゃって、今じゃもう十もないよ。この間会った時、母は九十五、妹も今七十くらいって言ってたけど」
さすが魔女様だよね、などと父と苦笑したのも数ヶ月前だという。
やはり、村に入ってしまえば家族にすらあまり会えなくなりそうだ。友人など尚更だろう。
リューズはそれから、簡単に地図を描きながら村の説明をしてくれた。
「僕も村のことはそんなに覚えてないんだよ。海の方に城があったとか、そこの庭園は晴れてるとすごく綺麗だったとか。水車もこの辺だったかなぁ。ステイ先は?」
「えっと、ゲーラさんってお宅」
「ゲーラぁ!?」
リューズは驚きの声を上げ、ペンを落としそうになった。
「ゲーラ老師、領主様付きの大魔女様だよ! 今は代替わりしてるかもしれないけど」
「領主様に大魔女さんかぁ」
適当に相槌を打ちながら、「領主様、挨拶必要か現地に行ってからチェック」などと、村に行ったらやることを黙々とリストに挙げていく。
すると苦笑しながらリューズが突っ込みを入れてきた。
「てか僕よりカインに聞けばいいのに。あいつも村出身だろ」
シアのペンが一瞬ピタリと止まる。
そう、カインも魔女の村出身だ。会ったのも五歳の、村を出たばかりの頃だった。
「冗談。教えてくれるどころか、魔女なんて無理だとか気力を削ぐようなことばかり言ってくるし」
仲間と言われればそうなのだが、意地悪なカインには個人的に喧嘩友達、腐れ縁といった認識がシアにはある。
そんなカインに頼ったり借りを作ったりなど、何となくしたくなかった。
「本当は行かせたくないんじゃないの? 魔女になったら村から基本出られないし。外出許可も厳しいし。ご両親は?」
「うちは放任主義だから。どんな道でもちゃんと独り立ちしろって……リューズは寂しい?」
話を僅かに逸らし、逆に聞き返してみると、リューズは「いーや全然、頑張れよ」とグーサインをしてくれた。
◇◆◇◆◇
そびえる門を見上げ、シアはゴクリと唾を飲み込んだ。
学校を卒業し、いよいよ魔女の村に足を踏み入れる。期待と楽しみで心臓が高鳴らない訳がなかった。
「本当に行くのか、シア」
それなのにこの幼馴染みのノリの悪いこと。
ジェシカとマルクは下見でロンドンに行ってしまっている。なので、見送りに来てくれたのはカイン一人だ。
そのこと自体は嬉しくないわけではない。でも喧嘩友達とはいえ仲間なら、もう少し応援してくれてもいいのではないかとも思う。
ーー行かせたくないんじゃないの?
リューズの言葉をふと思い出すが、ぶんぶんと頭を横に振る。
(気のせい気のせい。幼馴染みの腐れ縁だからちょっと感慨深いだけ)
シアは思い直し、カインに笑顔を向け握手をした。
「見送りありがと。カインも大学頑張ってね!」
門番の魔女らしき女性に許可証を見せると、身分証と照らし合わせすぐに開門してくれた。躊躇いもなく足を踏み入れる。
ふと気になり後方を振り返ると、カインはまだ見てくれていた。
軽く手を振り合い、門が閉じる。
(さよなら、カイン……私の初恋)
シアは荷物をギュッと握りしめ、村の方へ目を向けた。
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