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魔女への入門
第三話 苦い思い出
しおりを挟む門の内側はすぐに民家やお店があるわけではなく、広大な麦畑や牧場が広がっていた。
先の見えない道が一本真っ直ぐ伸びている。そこに一台の馬車が待機していた。
(おお、馬車だ!)
なけなしのネット情報によると、魔女の村に自動車は存在しないらしい。電気はあるようだが、インターネットなど使えるわけもなく、持っているスマホもカメラくらいしか使えないかもしれない。
「シア・コナリーさん?」
「は、はいっ!」
御者台から声がしたかと思うと、馬車の扉が自動で開いた。フードをかぶった少女が振り向き、仏頂面でもないが笑顔でもない顔で静かに促す。
「どうぞ。村まで十マイル程ありますから」
キロにすれば十六キロ。歩くには辛い距離だ。シアは有難く乗せてもらうことにした。
「えっと、お代は?」
「十ポンド。でも今日はいいです。貴方の迎えとして、既に村からいただいています」
シアが乗り込むと扉がまた自動で閉まり、軽い衝撃とともに馬車がゆっくり動き出した。
天井のない、御者台とは背中合わせの椅子だけの車なので見晴らしは良い。
しかし周りは牛や羊、馬に山羊ばかりで人が一人もいない。特にもの珍しい風景でもなく、これではよくある田舎と全く変わらない。
御者台の少女は特に何も話さず、黙々と馬車を走らせた。
どう見ても年下だがバイトだろうか。馬車の扉は電動なのか、もしや魔法なのか。聞きたいことはあったが、表情がわかりにくく何となく話しかけづらい。
シアは前方の、少しずつ小さくなっていく門を眺めた。
まだカインはあの門の向こうにいるのだろうか。
(やだな、昔を思い出すなんて)
◇◆◇◆◇
今でこそ喧嘩腰の腐れ縁だが、小さい頃のカインとシアは、それは仲の良い幼馴染みだった。
何をするにも一緒で、それが楽しくて嬉しくて当たり前の日常だった。
そして血気盛んな十代前半、周りが色気づき始める頃、付き合おうなんて話をしたこともあった。しかし。
「俺はお前とは付き合わない!」
シアは本気で告白したのに、かなりの強い口調で断られた。
振られるとは夢にも思わなかった。そのくらい仲良しで、それが続くと信じきっていたのだ。
そしてそれ以降付き合うどころか、カインはずっとシアを避け続けた。話しかけても返事は一言、無視に近い態度で。
悲しくて泣いて泣いて、シアはカインを忘れるためにあらゆる努力をした。
自分から無視をしたり、嫌いだと何度も自分自身に言い聞かせたり。
そんなある日、
「私カインなんて大嫌いだもん」
それをちょうど通りがかった本人に聞かれてしまい、慌てて口を押さえた。
しかしカインは嫌な顔をするどころか、ホッと安心したような顔で、とても穏やかに、昔のように優しく微笑んだのだ。
正直、あの時の安堵の顔の方がこたえたかもしれない。
嫌いと言われるのが嬉しいなんて、カインはどれほど自分が嫌いなんだろうと。
しかし心の底から打ちのめされ、諦めきったこの時から、逆にカインに無視されることは徐々になくなっていった。
それでも微妙な緊張感はだらだらと続き。
そんなところでジェシカとマルクに会ったのだった。
◇◆◇◆◇
(二人には感謝しかないや)
どん底だったシアを引き上げて、カインとの関係は憎まれ口でも仲間と思えるまで修復することができた。
だからもういいのだと。
もう失恋した、あの頃の悲しさなどない。思い出してもこうして涙も出てこない。
この村に来て、離れて、今度こそ何の未練も残さずカインを忘れられると。
(もう頑張って嫌いなフリしたり喧嘩腰にならなくてもいいんだなぁ)
大学も就職も恋すら失敗したけれど、魔女の村が受け入れてくれた。
嬉しかった。
だからこれから一人で精一杯頑張るのだ。苦手な勉強も修行も。
心の中で、あらためて気合を入れる。
「シアさん、村が見えて来ましたよ」
少女の声にシアは心を躍らせた。
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