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魔女への入門
第八話 大魔女ルカ
しおりを挟む何とも衝撃的な領主様が通った後、続いて上空から凛とした声が響いた。逆光でよく見えないが、先程の領主とは正反対の、引き締まった理想的な風貌の魔女が、シア達の方に向かって飛んでくる。
「アイラ、何をやっているの? 報告はいつ?」
「はっ、ルカ様、申し訳ございません! 今すぐお持ちします」
声や体型のみならず、大人の魅力を兼ね備えた美しい魔女だった。歳は三十手前くらいだろうか。
長い黒髪に美しい瞳。誰かに似ている気もする。
誰だったかと考えていると、アイラがそっとシアに耳うちした。
「大魔女ルカ様だ。粗相のないようにな」
つまり老師ゲーラの次の代の大魔女様ということだ。
アイラがさっと姿勢を整え隊舎に戻って行く。大魔女様はそれを見送ると、残されたシアの前に音もなく降り立った。
「悪かったわね、話の邪魔をしてしまったかしら……あら、貴方……」
ルカが近づいてじっと顔を覗き込む。美しくも鋭い視線にシアの心臓がドクドク音を立てた。
「見かけない顔……外から来たのね。魔女にはなれたのかしら? 村に入ってひと月以内に、きちんと魔法を操れる魔女になれなければ追放よ?」
「えっ?」
追放ーーーー!?
初めて聞く重大事項に、シアは叫びそうになった。
「それはそうよ。魔女以外にこの村に住む資格はないもの」
もしそれが通るなら、悲しい思いをする家族や恋人などいない。
「あのっ!」
去ろうとするルカを咄嗟に引き止め、シアは疑問を投げかけた。
「魔女になるって、具体的にどうすればいいんですか?」
今まで漠然と、魔力の適性があって、魔法の勉強をし使い方を覚えれば、魔女になれると思っていた。
でもシアは珍しいケースだとリューズが言っていた。普通は魔力ゼロで筆記試験だけで入門するのだと。
何か大事なことを根本的に見落としている気がする。
「あら嫌だ、教わっていないの?」
変ねぇと唸りながらも、ルカはきちんと教えてくれた。
村はずれの海岸にそびえ立つ城。
そこに住まう五人の領主様。
つまり五つを過ぎても魔力が残った男性が現在五名いらっしゃるという。
「どのお方からでもいい、直接魔力を貰うの。そして使い方を覚えれば貴方は魔女よ」
「魔力を……貰う!?」
「魔女は魔力を貰わねば、それ以上強くはなれないわ」
それは新規でも既存の魔女も同様。子供の成長期でもなければ、個人の持つ魔力が増えることなどない。
もちろん魔力だけでは駄目で、新規ならばその使い方など覚えなければならない。
つまりはどんなに修行しようと、魔力をもらわねば魔女になることはない。
もしかして早く行けとアイラが言っていたのは、礼儀云々ではなくそのためなのか。
今し方通った領主を思い出し、シアの顔が青ざめていく。
「魔力を貰う……あの人から……なんかもう……エグい」
どう貰うのかは分からないが、出来れば関わりたくない。フラフラ目眩まで感じてきた。
「ああ、今の領主様? 確かに人気はないわね。でも別に他の人でもいいのよ。五人もいるのだから」
「そ、そっか。イケメンでとは言わないけど、もっとこう、人としてマトモそうな方が……」
「因みに領主の一人、ヴェルド・カランダルを選ぶなら、先に私を通してちょうだいね」
一応夫なのよと。
夫だからこそ魔力をいつでも貰い放題なのだろう。
領主様付きの大魔女とはすなわち、幸運にも領主を夫とし、膨大な魔力を得られた魔女が持てる称号なのだった。
「ゲーラ老師のご主人を除けば、他の三人は独身だし、気兼ねはいらないわよ」
「さっきのブヨブヨ……いえ、体格の大きい領主様を除いて、お二人のどちらかからいただけばいいんですね」
シアはルカに教えてくれた礼を言うと、身支度を整えるため、早速ステイ先へ戻って行った。
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