魔女の村

各務みづほ

文字の大きさ
8 / 31
魔女への入門

第八話 大魔女ルカ

しおりを挟む
 
 何とも衝撃的な領主様が通った後、続いて上空から凛とした声が響いた。逆光でよく見えないが、先程の領主とは正反対の、引き締まった理想的な風貌の魔女が、シア達の方に向かって飛んでくる。

「アイラ、何をやっているの? 報告はいつ?」
「はっ、ルカ様、申し訳ございません! 今すぐお持ちします」

 声や体型のみならず、大人の魅力を兼ね備えた美しい魔女だった。歳は三十手前くらいだろうか。
 長い黒髪に美しい瞳。誰かに似ている気もする。
 誰だったかと考えていると、アイラがそっとシアに耳うちした。

「大魔女ルカ様だ。粗相のないようにな」

 つまり老師ゲーラの次の代の大魔女様ということだ。
 アイラがさっと姿勢を整え隊舎に戻って行く。大魔女様はそれを見送ると、残されたシアの前に音もなく降り立った。


「悪かったわね、話の邪魔をしてしまったかしら……あら、貴方……」

 ルカが近づいてじっと顔を覗き込む。美しくも鋭い視線にシアの心臓がドクドク音を立てた。

「見かけない顔……外から来たのね。魔女にはなれたのかしら? 村に入ってひと月以内に、きちんと魔法を操れる魔女になれなければ追放よ?」
「えっ?」

 追放ーーーー!?
 初めて聞く重大事項に、シアは叫びそうになった。

「それはそうよ。魔女以外にこの村に住む資格はないもの」

 もしそれが通るなら、悲しい思いをする家族や恋人などいない。

「あのっ!」

 去ろうとするルカを咄嗟に引き止め、シアは疑問を投げかけた。

「魔女になるって、具体的にどうすればいいんですか?」

 今まで漠然と、魔力の適性があって、魔法の勉強をし使い方を覚えれば、魔女になれると思っていた。
 でもシアは珍しいケースだとリューズが言っていた。普通は魔力ゼロで筆記試験だけで入門するのだと。
 何か大事なことを根本的に見落としている気がする。

「あら嫌だ、教わっていないの?」

 変ねぇと唸りながらも、ルカはきちんと教えてくれた。

 村はずれの海岸にそびえ立つ城。
 そこに住まう五人の領主様。
 つまり五つを過ぎても魔力が残った男性が現在五名いらっしゃるという。

「どのお方からでもいい、直接魔力を貰うの。そして使い方を覚えれば貴方は魔女よ」
「魔力を……貰う!?」
「魔女は魔力を貰わねば、それ以上強くはなれないわ」

 それは新規でも既存の魔女も同様。子供の成長期でもなければ、個人の持つ魔力が増えることなどない。
 もちろん魔力だけでは駄目で、新規ならばその使い方など覚えなければならない。
 つまりはどんなに修行しようと、魔力をもらわねば魔女になることはない。

 もしかして早く行けとアイラが言っていたのは、礼儀云々ではなくそのためなのか。
 今し方通った領主を思い出し、シアの顔が青ざめていく。

「魔力を貰う……あの人から……なんかもう……エグい」

 どう貰うのかは分からないが、出来れば関わりたくない。フラフラ目眩まで感じてきた。

「ああ、今の領主様? 確かに人気はないわね。でも別に他の人でもいいのよ。五人もいるのだから」
「そ、そっか。イケメンでとは言わないけど、もっとこう、人としてマトモそうな方が……」
「因みに領主の一人、ヴェルド・カランダルを選ぶなら、先に私を通してちょうだいね」

 一応夫なのよと。

 夫だからこそ魔力をいつでも貰い放題なのだろう。
 領主様付きの大魔女とはすなわち、幸運にも領主を夫とし、膨大な魔力を得られた魔女が持てる称号なのだった。

「ゲーラ老師のご主人を除けば、他の三人は独身だし、気兼ねはいらないわよ」
「さっきのブヨブヨ……いえ、体格の大きい領主様を除いて、お二人のどちらかからいただけばいいんですね」

 シアはルカに教えてくれた礼を言うと、身支度を整えるため、早速ステイ先へ戻って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

処理中です...