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魔女への入門
第七話 村の領主様
しおりを挟むカインはそれ以来また、シアを少し避けるようになった。
以前と異なり、あからさまに無視をするようなことはなかったが。少しだけ大人になったということだろうか。
ゲーラ老師の手前、必要最低限、薬のことを聞けば教えてくれる。そして口数は少なく顔も見ないが、修行に付き合ってもくれる。
しかし最初のような懐かしさは失われ、二人でいても張り詰めた空気が漂っていた。
(早く……始まらないかな、カインの大学……)
いくら最寄りの都市と言っても、この村から大学は路線バスを使って二時間はかかるはずだ。本数も少なく、村の出入りを考えても、ここから大学に通うとは考えにくい。
大学が始まれば、流石に父親がいる家に帰るだろう。
それまでの辛抱だとシアは思った。
◇◆◇◆◇
薬作りは楽しいが息が詰まるので、シアは買い物と称して賑やかな中央広場へ出ることにした。
カインは女体化しているとはいえ、用心のためか人の多い所には行かない。老師も外出することが多く、掃除も洗濯もガーデニングも殆どカインがやっていた。
(きっといいお嫁さんになるわ)
皮肉でも何でもなく純粋にそう思う。取り柄がたくさんある人は羨ましい。
そんなことを考えながら歩いていると、突然手を引かれた。
「ほら、前を向かぬと危ないと言っただろう」
目の前を馬車が通り過ぎて行く。振り向くと、先日道を教えてくれたかっこいい魔女のお姉さんが、呆れた顔をしていた。
「あ、アイラさん。こんにちは」
「こんにちは、シア。どうした? 少し顔が青いな。薬屋を教えようか?」
薬……カインの薬を思い出して、シアは首をフルフルと横に振った。
「大丈夫です。ありがとう」
「なに、子供たちを見守るついでだ」
見れば中央広場は子供が集まって遊んでいる。外の世界のように誘拐の危険性もなく、子供たちだけで楽しそうだ。
しかし本当に男の子は幼稚園児くらいしかいない。
そして魔法も上手いのは、大体女の子達だった。
「どうして男の子は魔法が消えるんだろう」
シアはぽつりと呟いた。
魔女だからと言われてしまえば元も子もないが。
「そうだな。だからこそ、魔力が残った男性は重宝される」
「えっ?」
初めて聞く事柄だった。魔力が残った……男?
「そんなことあるんですか? 大人になっても、魔法を使えるってこと?」
「もちろん。五歳を超えて魔力が残れば、もう一生消えることはない。村を追い出されることもなくなるが、逆に村の外に出ることもない。それが、この村の領主様だ」
「領主様!」
リューズから聞き、やることリストに挨拶が必要かチェックしておいたのに、すっかり忘れていた。
「あ、あの、ご挨拶に伺った方がいいんでしょうか、私」
「なんだ、まだだったのか? それは早く行った方がいい。魔女になりたいならば」
シアの顔が真っ青になっていく。ここに来てもう二週間が過ぎようとしていた。
「あわわ、私何て礼儀知らずなことを……お怒りになっていらっしゃらなければいいけど」
早速身支度をして、お詫びの品でも用意しつつ向かわなければと焦り出す。
馬鹿カイン、そんなこと一言も教えてくれなかったじゃない、などと恨み言を言いながら。
すると、突然アイラが何かに気づき、さっと腰を落として言った。
「お、噂をすれば、領主様がお通りだ」
アイラが指し示す方を見ると、村外れの城から集団がこちらに向かっていた。
空を飛ぶ絨毯に男性が一人、悠々と乗っている。その周りにはホウキで空を飛ぶ魔女達がしっかり護衛していた。
そしてチラリとお姿を拝見すると。
歳は五十ほどだろうか。
ブヨブヨの脂肪ーーという表現が最も相応しいくらいに太った姿が見てとれた。
(ぎゃああああ! あれが領主様ぁぁぁあ!)
声には出せないが、シアは心の中で目一杯叫び声を上げた。
いやこの際外見は気にしない。どんなお姿だろうと、村の領主様には変わりない。
挨拶くらいきちんとせねばーーーーシアは必死に気を落ち着かせた。
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