16 / 31
魔女への入門
第十六話 シアの選択
しおりを挟む「私は……魔女になるよ、カイン」
村を出たくはなかった。魔女になるのを諦めたくはない。
確かにそれは小さなきっかけだったが、今はこの村こそ魔女こそ、シアがやってみたいことだった。
「この村に残って、魔女になる。だって魔法は楽しかった。まだちゃんと使えないけど、薬とか補助的なものとか……カインが教えてくれたんじゃない」
「シア……」
「女の子のカインちゃんはね、理想の魔女さんだったんだよ」
自然に溶け込み、それを操り、呪文を使った大きな魔法でなくても、十分に魅力的な優しい魔女だった。
「この間聞いてきたよね。魔力がなかったら村に来なかったかって」
来なかった、筆記試験だけでは来られなかっただろうと答えた。
「でも今、魔力がなくなって追放されても、私また魔女を目指すと思う! 筆記試験頑張って、ヴェルド様に魔力頂いて……それでも足りないなら他の領主様に頭を下げてでも来ると思う!」
「!?」
カインの顔が苦渋に満ちていく。
「やめろ……駄目だシア、それは何の意味も……!」
「追放されてもそのくらいの意気ってことだよ。でも今はそれをしなくて済んでる……昔のカインのおかげでね」
だからーーシアは二人にきっぱりこれからのことを告げた。
「ルカ様……私、もうカインにキスはしません。魔女になるから。一時の夢でも幻でも貰えたこの魔力、失くしたくないから!」
涙が溢れた。
昔の優しい幼馴染みのあの頃の想いが、自分を魔女にしてくれた。
でもその後、嫌い嫌われ、喧嘩を続けーーキスをすれば、たちまち魔女の資格を失い、村を追い出されるだろう。そうなれば再びこの村に来るのに何年かかるかーー。
賭けにもならない。キスを避け、魔力保持一択だった。
「昔のことは忘れます。できたらーーカインの罰とか、軽めにしてあげてください」
外で魔法を使ったわけでもない、きっちり村に入門するのだから、そこまで罪にしなくてもいいはずだと。
シアはカインの前に立ち、心からの感謝の意を述べた。
「たくさんの魔力を、ありがとうございましたーーーー領主様」
「シア!」
思わぬ展開に、ルカの拘束が緩まる。カインはその隙にルカの手を離れ、立ち去ろうとするシアを即座に抱きしめた。
「馬鹿! 俺から離れんな。村を出て行けなんて言わない。もう避けたりしない。傍にいろ、シア!」
「カイン?」
「絶対駄目だ、他の領主のところも……そんな必要全くない! 何のために俺がこの村に戻って来たと思ってるんだ」
言うとカインは堪らず、自らシアの顔を寄せ、その唇に自分の唇を重ねたーーーー。
「……っ! やだ、カイン!」
思わずシアが突きとばす。心臓がドクドク早鐘を打った。
「うそ! 触れた、今? 私……村に……いられない……もうーー」
魔女の最低条件、魔力値五十を切ってしまったーーシアは確信して涙目で崩れ落ち、座り込む。
しかし、カインはそんな彼女の前ですかさず魔法を使った。
「シア、唱えて。こう、火炎球!」
「え、て、テイン……ラセア……?」
訳がわからないまま、咄嗟にカインを真似して手を掲げると、熱い火の玉が生まれ、前方へ飛翔し爆発した。
いつぞやの不発の魔法とは違い、赤々と燃え盛る炎、起こる爆発。
「え?」
呆気に取られるシアの横で立ち上がったカインは、モニュメントの柱にもたれ成り行きを眺めていた大魔女に問いかけた。
「どう? ルカ」
「合格ね。追放はないわ……ってかもうさせない」
カインはふっと息をつき、茫然自失するシアに手を差し出し立ち上がらせる。
「だってさ。これから本気で魔法覚えないとな」
「……え?」
ルカが呆れてシアに魔力値測定器を掲げ、数値を見せて言った。
「飲み込みの悪い子ね。あなたの魔力は増えたのよ。ほら」
その値は余裕で三桁、百二十一を示していた。
「立派に暴走危険値オーバー。手を振るだけでも簡単に魔力がでてしまう。指導者の元きっちり修行してもらうわよ」
「えっ、ど、どうして!?」
カインが顔を赤らめながら、シアの疑問に答えた。
「それはまぁ……俺が、増やしたから?」
ここに来たのは止めるためだけじゃない。
シアがそれでも魔女への道を決めるならーー与えるためーーと。
「カインの想いが冷めていたなら、必死になって私に頼まなくてもよかったのよ。とっくにキスをして、自分が与えてしまった魔力を消して、貴方を一般人に戻していたわね」
自責の念に捉われた領主様は、想いを抑え込み忘れようと距離を置いた。
しかし忘れるどころか、冷たくする度に、嫌われる度に、心がどんどん傷ついていく。
再び仲を修復し仲間となった頃には、想いは更に深まってしまっていた。
「ざっとこんなところでしょ。我が弟ながら、ほんっと馬鹿なんだから」
惚れたなら、「俺の魔女になれ」とでも言ってがっちり捕まえて、さっさと村に連れて来ればよかったのよ、と。
「ルカ……勘弁して……」
身も蓋もない。カインは顔を真っ赤にして、誰の顔も見られずに俯いた。
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
