魔女の村

各務みづほ

文字の大きさ
17 / 31
魔女への入門

第十七話 仲直り

しおりを挟む
 
「カイン……うそ……何で……だって、あれだけ嫌い合って……」
「ああもう、言っただろ、忘れるわけないって……魔女になったらもう戻れないって……」

 しかしカインがその手を取ろうとして、止まる。

「てかシアの方こそ……俺とは一緒にいたくないよな……悪い。魔力は渡したし、なんなら魔法も今度こそゲーラに教えるよう頼んでーー」
「えっ、カインは何処へ行くの? お城に行っちゃう? もう教えてくれないの!?」

 シアが慌ててカインの袖を掴み、必死に引きとめる。

「俺が……教えていいのか? お前こそ、俺を嫌いなんじゃなかったのか」
「カインじゃなきゃ嫌だよ!」

 カインの顔が綻び、あの優しかった、シアの大好きだった幼馴染みの顔に戻っていく。
 シアの涙がぼろぼろ溢れた。掟に縛られることなんてどうでもよくなるくらい嬉しい。
 カインが戸惑いながら呟いた。

「今からでも……付き合えるかなぁ……」
「うん、うん! 好きな人とは一緒にいたいよ、カイン」

 頑張っても、どうやっても、ただただ悲しいだけで嫌いになんてなれなかった。
 シアがそう告げると、カインは泣きそうな顔になりながらシアを抱き寄せる。

「じゃ、一緒にいようか、シア」

 カインの腕の中で、冷えていたシアの心がどんどん温かくなっていく。抑えていた感情が動き出す。

「あは……私ももう戻れないや。本当に大魔女目指さなくちゃ!」

 魔力値百二十一がどのくらいの魔女かはわからないけれど。
 こうやってカインが傍にいてくれるならーー。

「ーーーー傍に?」

 ふと、疑問が湧き起こった。
 領主としてカインが村に戻るなら、軽く罰を受けた後、あの領主の城に移ることになるのではーーそして。

「……キスするの? カイン、他の魔女にも」
「え?」

 シアの呟きにカインが僅かに動揺した。ルカが当たり前のように答える。

「それはそうよ? それが領主の務めだもの。魔力を望む魔女がいれば与えるーーまあカインは控えめに見てもヴェルドの次には人気でるわよね」
「ルカ!」

 意外に旦那好きのブラコンなどと突っ込みをする気にもなれず、シアは口元を押さえ黙り込む。
 つい先程まで、他の領主とキスをすることにも、そこまで抵抗がなかったはずなのに。

「シア、その……俺だって嫌だぞ? その抵抗もあって、村に戻らなかったんだし」

 しかしカインは、村に再び入った時からその覚悟もしていた。領主として周知されてしまった時のリスクも。
 それでもシアが心配で離れたくなくて、戻ることを選んでいた。

「なお悪い……そんなの」
「は、はい?」
「私が村を出にくくなるとか、掟に縛られるとかはどうでもいい……でもそこは嫌。私が嫌! カインだって私が他の領主様とキスしようとするの嫌がったじゃない!」
「え、ええと……」

 カインは困惑した。そもそも想いが通じることなど想定していなかった。
 嫌な思いをするのは自分だけだと思っていた。完全に読み違いだ。
 しかしもう戻りようがないし、領主である事実も変わらない。今までが運良く見つからなかっただけだ。

 シアの怒りが沸々と湧いてくる。

「だってなんで! 折角カインの気持ちわかって、恋人になってこれからなのに。他の魔女ともキスするなんて! 私だってもう他の領主様とキスしようなんて思わないよ!」
「う……うーん、魔力を……力を欲しがるのはわからなくもないというか……」
「そんなの知ってる。わかってる! 私だって魔力は欲しいって思ったもん」

 完全に我儘だ。醜い嫉妬、独占欲だ。
 何せ村に六人しかいない領主様。独占など許されるはずがない。
 結婚しているルカだって、そこは許容している。

 しかし、わかっているのに悔しくて抑えが効かない。
 お腹のあたりがモヤモヤしてきた。胸のあたりが熱くなり、とうとう身体が震えてくる。
 おかしいーー頭痛に吐き気、この上なく気持ちが悪い。


 シアは耐えきれず、カインの腕を掴んで震える声で訴えた。

「カイン、やっぱり……村を出て逃げよう……! どこか……田舎でひっそり私に魔法を教えてくれるとか……というか、カインが外に出ようって言ってた意味が今わかった!」
「え、ええっ! そーくる!?」
「シア、ちゃん。いい加減にしようね?」

 怒りを込めながら、にっこりとルカが笑う。

「無理だシア。地の果てまで追手……てか、ルカが容赦なく自ら追ってくるぞ。そうしたらそれこそ俺たちは引き離される……て、シア?」

 ゾクリーー突然空気が変わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

処理中です...