魔女の村

各務みづほ

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外伝 領主の目覚め

その3

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 クリスマスイブの夜、カインは自室の窓を開け空を眺めた。
 うっすら雪が積もっているが、月が明るい。
 恩師ゲーラは、カインが村を出てからも、年に一度クリスマスカードを送ってくれる。

「村ではクリスマスなんて騒がないのにな。意外と外の慣習知ってるよな、あのばーさん」

 旦那が領主なのだからあまり外に出ることもないと思っていたのだが、実は結構街に行ったりしているのだろうかーーなんて考えていると、日付が変わる頃、空に鳥の影が浮かんだ。
 今年もクリスマスに、ゲーラのフクロウがカードを運んできてくれたのだ。
 カインは自室にフクロウを招き入れ声をかけた。

「やあ、久しぶり」
『カイン、メリークリスマス!』
「うん、メリークリスマス」

 カインが笑って応えると、フクロウは首を傾げた。
 動物の声は、かなりの魔力を持つ魔女でないと理解できない。

『カイン、言葉、わかるのか?』
「うん、わかる。実は去年もわかること黙ってた。ごめんな」
『カイン、つまり、魔力たくさん、あるのか』
「うん、そう。で、そのことでばーさんに相談あってさ。手紙書くから待っててくれる?」

 姉を頼ろうかとも思ったが、連絡手段がないし、出世の大事な時期だと聞いている。ヴェルドとの結婚も控えており、次に会うのは何年か先と言っていた。
 カインはゲーラにクリスマスカードのお礼と今の自分の状況を書いた。

 すると、翌日即行で返事が来た。直接話をしたいから次の満月の晩に会いに行くと。


  ◇◆◇◆◇


 深夜寝静まった頃、ゲーラはホウキでやってきた。カインが待っていたバルコニーに音もなく降り立つ。

「久しぶり、ばーさん。よくこんなに早く外出許可出たね」
「老いても元大魔女じゃからのう」

 カインはゲーラを室内に招き入れると、そっと自室へ導き、扉を閉めた。用意していた紅茶のポットにお湯を注ぐ。

「そうそう、お前さんの姉ルカさんが大魔女になったぞい。ヴェルドとも幸せそうじゃ」

 変わらない笑顔を見た時、カインは思わず涙を流した。懐かしさか、ほっとした頼れる安堵感か、戻らなければならないかもしれない絶望か。
 ゲーラは優しく涙を拭いた。

「一人で怖かったんじゃな。どれ、魔力値を測ろうかね」

 その値を見てゲーラは絶句する。さすがあのルカの弟だと。

「これは……いかんのう。二八〇もありよる。普通の魔女の三倍近い値じゃ」
「領主は……基本高いよね。いくつくらいがふつう?」
「二百そこそこかの。ヴェルドも確か二三〇。しかしカイン、お前さんが魔力を渡すなら、友人程度でも魔女の最低値五十渡ってしまうこともある。非常に危険じゃ」

 すぐにでも村に帰り、本格的に魔法を覚える方がいいと。
 カインは紅茶を淹れゲーラに渡し、自分も一口飲むと静かに話し始めた。

「ばーさん……俺、帰りたくないんです。父さんともクラスメイトとも離れたくない。それに……」

 紅茶に映る少年の顔が引き締まる。

「好きな子がいます。絶対、そばに居たい。シアがいなくなったら生きていけない」

 ゲーラは驚いた。
 しかし領主なのだから、カインが想いを通すならば、必ず彼女を魔女にしてしまう。渡してしまう魔力の暴走の危険性もあり、それはカインの責任だけにとどまらないと確認する。

「カインの魔力値では非常に危険なんじゃよ。その子と共に村に戻るがセオリーじゃが」

 両親も親戚にも魔女などいないシアは、もしも魔女にしてしまったなら、七つにして単身で村に行くことになる。

「シアを、家族や学校の友達と離すなんてできません」

 せめて独り立ちするまではーーカインは震える身体を抑えながら、ゲーラに一生懸命お願いした。
 キスとかしないから、魔女にしないよう気をつけるから、と。

 ゲーラは困った顔でしばらく唸っていたが、やがて根負けしたように息を吐いて告げた。

「魔法の指導は……しよう。キスもまぁ、魔力値五十はそうそういかんじゃろうが……そのシアちゃんだけは気をつけねばならんよ」
「はい!」

 ホッとしたのか、カインの大きな瞳からぼろぼろ涙が溢れだす。思ったより一人で抱え込むのが限界だったようだ。
 ゲーラはそっと、そんな少年の頭を撫でた。

「よしよし、頼れる者もおらずよう耐えたの。よう教えてくれた」

 カインは年相応の子供の顔でゲーラに飛びつき、その腕の中で声をこらして号泣した。


  ◇◆◇◆◇


 その後、ゲーラはひと月に一度、魔法の指導の動画を魔石に記憶し、フクロウ便で送ってきてくれた。カインも訓練の様を魔石に記憶し直し、送り返す。
 元々持っていた魔法への興味や勘もあり、カインの魔法は高度な魔法も含め、どんどん上達していった。

 シアへの魔女や魔法に対する注意も、より一層気を回しつつ五年ーー。
 その事件が起きたのは、二人が思春期に突入した頃のことだった。

 突然の、最愛の幼馴染みからの告白とキスーー。

「俺はお前とは付き合わない!!」

 咄嗟に突き飛ばし、投げつけてしまった酷い言葉。
 守りたいと思っていたーー他でもない自分が魔女にしてしまったーー激しい自己嫌悪。

(ばーさんにも、誰にも……こんなこと言えない……シアが村に連れて行かれるくらいなら……!)

 彼女への想いを消すことなどできない。ならこれ以上、魔力を与えないようにするしかない。
 二度と自分に近づかせないようにするしかーー。

(シア……シア……ごめん、ごめん……!)

 こんな形でしか、彼女を守ることができないーー現実。

「私カインなんて大嫌いだもん!」

 ホッとーーこれ以上気を張り詰めて警戒しなくてもよくなった安堵感と、嫌われてしまったーー絶望ーー。

(俺は……シアの恋人になる資格も、お嫁にする資格も……ないんだ……)


 カインがシアと再び会話をし、喧嘩友達というポジションに着けたのは、その三年後ーー。
 ジェシカとマルクという共通の友人ができてからである。
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