23 / 31
外伝 領主の目覚め
その3
しおりを挟むクリスマスイブの夜、カインは自室の窓を開け空を眺めた。
うっすら雪が積もっているが、月が明るい。
恩師ゲーラは、カインが村を出てからも、年に一度クリスマスカードを送ってくれる。
「村ではクリスマスなんて騒がないのにな。意外と外の慣習知ってるよな、あのばーさん」
旦那が領主なのだからあまり外に出ることもないと思っていたのだが、実は結構街に行ったりしているのだろうかーーなんて考えていると、日付が変わる頃、空に鳥の影が浮かんだ。
今年もクリスマスに、ゲーラのフクロウがカードを運んできてくれたのだ。
カインは自室にフクロウを招き入れ声をかけた。
「やあ、久しぶり」
『カイン、メリークリスマス!』
「うん、メリークリスマス」
カインが笑って応えると、フクロウは首を傾げた。
動物の声は、かなりの魔力を持つ魔女でないと理解できない。
『カイン、言葉、わかるのか?』
「うん、わかる。実は去年もわかること黙ってた。ごめんな」
『カイン、つまり、魔力たくさん、あるのか』
「うん、そう。で、そのことでばーさんに相談あってさ。手紙書くから待っててくれる?」
姉を頼ろうかとも思ったが、連絡手段がないし、出世の大事な時期だと聞いている。ヴェルドとの結婚も控えており、次に会うのは何年か先と言っていた。
カインはゲーラにクリスマスカードのお礼と今の自分の状況を書いた。
すると、翌日即行で返事が来た。直接話をしたいから次の満月の晩に会いに行くと。
◇◆◇◆◇
深夜寝静まった頃、ゲーラはホウキでやってきた。カインが待っていたバルコニーに音もなく降り立つ。
「久しぶり、ばーさん。よくこんなに早く外出許可出たね」
「老いても元大魔女じゃからのう」
カインはゲーラを室内に招き入れると、そっと自室へ導き、扉を閉めた。用意していた紅茶のポットにお湯を注ぐ。
「そうそう、お前さんの姉ルカさんが大魔女になったぞい。ヴェルドとも幸せそうじゃ」
変わらない笑顔を見た時、カインは思わず涙を流した。懐かしさか、ほっとした頼れる安堵感か、戻らなければならないかもしれない絶望か。
ゲーラは優しく涙を拭いた。
「一人で怖かったんじゃな。どれ、魔力値を測ろうかね」
その値を見てゲーラは絶句する。さすがあのルカの弟だと。
「これは……いかんのう。二八〇もありよる。普通の魔女の三倍近い値じゃ」
「領主は……基本高いよね。いくつくらいがふつう?」
「二百そこそこかの。ヴェルドも確か二三〇。しかしカイン、お前さんが魔力を渡すなら、友人程度でも魔女の最低値五十渡ってしまうこともある。非常に危険じゃ」
すぐにでも村に帰り、本格的に魔法を覚える方がいいと。
カインは紅茶を淹れゲーラに渡し、自分も一口飲むと静かに話し始めた。
「ばーさん……俺、帰りたくないんです。父さんともクラスメイトとも離れたくない。それに……」
紅茶に映る少年の顔が引き締まる。
「好きな子がいます。絶対、そばに居たい。シアがいなくなったら生きていけない」
ゲーラは驚いた。
しかし領主なのだから、カインが想いを通すならば、必ず彼女を魔女にしてしまう。渡してしまう魔力の暴走の危険性もあり、それはカインの責任だけにとどまらないと確認する。
「カインの魔力値では非常に危険なんじゃよ。その子と共に村に戻るがセオリーじゃが」
両親も親戚にも魔女などいないシアは、もしも魔女にしてしまったなら、七つにして単身で村に行くことになる。
「シアを、家族や学校の友達と離すなんてできません」
せめて独り立ちするまではーーカインは震える身体を抑えながら、ゲーラに一生懸命お願いした。
キスとかしないから、魔女にしないよう気をつけるから、と。
ゲーラは困った顔でしばらく唸っていたが、やがて根負けしたように息を吐いて告げた。
「魔法の指導は……しよう。キスもまぁ、魔力値五十はそうそういかんじゃろうが……そのシアちゃんだけは気をつけねばならんよ」
「はい!」
ホッとしたのか、カインの大きな瞳からぼろぼろ涙が溢れだす。思ったより一人で抱え込むのが限界だったようだ。
ゲーラはそっと、そんな少年の頭を撫でた。
「よしよし、頼れる者もおらずよう耐えたの。よう教えてくれた」
カインは年相応の子供の顔でゲーラに飛びつき、その腕の中で声をこらして号泣した。
◇◆◇◆◇
その後、ゲーラはひと月に一度、魔法の指導の動画を魔石に記憶し、フクロウ便で送ってきてくれた。カインも訓練の様を魔石に記憶し直し、送り返す。
元々持っていた魔法への興味や勘もあり、カインの魔法は高度な魔法も含め、どんどん上達していった。
シアへの魔女や魔法に対する注意も、より一層気を回しつつ五年ーー。
その事件が起きたのは、二人が思春期に突入した頃のことだった。
突然の、最愛の幼馴染みからの告白とキスーー。
「俺はお前とは付き合わない!!」
咄嗟に突き飛ばし、投げつけてしまった酷い言葉。
守りたいと思っていたーー他でもない自分が魔女にしてしまったーー激しい自己嫌悪。
(ばーさんにも、誰にも……こんなこと言えない……シアが村に連れて行かれるくらいなら……!)
彼女への想いを消すことなどできない。ならこれ以上、魔力を与えないようにするしかない。
二度と自分に近づかせないようにするしかーー。
(シア……シア……ごめん、ごめん……!)
こんな形でしか、彼女を守ることができないーー現実。
「私カインなんて大嫌いだもん!」
ホッとーーこれ以上気を張り詰めて警戒しなくてもよくなった安堵感と、嫌われてしまったーー絶望ーー。
(俺は……シアの恋人になる資格も、お嫁にする資格も……ないんだ……)
カインがシアと再び会話をし、喧嘩友達というポジションに着けたのは、その三年後ーー。
ジェシカとマルクという共通の友人ができてからである。
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる