魔女の村

各務みづほ

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次世代の領主

第六話 大空のデート

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「そうじゃねーよ、こう! ……ったく下手くそ下手くそっ!」
「うるっさいわね! こうでしょっ! ほらっ!」

 言いながらシアは慣れないながらも魔法を形にしていくが、発動に失敗し、再びイギルにからかわれ、取っ組み合いを始めるといった様子が日常になっていた。
 少し遅れてきたカインは、そんないつもの二人を眺めこめかみを抑える。

(……どうしてこうなった……)

 ヴェルド及び領主達に言われ、シアと共に後輩のイギルも指導するようになったのは、先週のことだ。まだ一週間程度しか経っていない。

(でも流石に、六年魔法に馴染んでるイギルに分があるんだな)

 魔女の村の子供は男女とも、物心ついた時には既に魔法を使っている。対してシアは魔法というものに触れてから僅か三ヶ月程度である。勘も経験も六歳の少年の方が遥かに上手だった。

「イギルはじゃあこっちの魔法やろう。手本見せるから繰り返し練習。終わったら午前中の各教科の復習な。で、シアはこっち」

 レベルの違いをどうにかせねばと思ったカインは、イギルに少し上級の魔法を教えコツを教えると、芝生に放り出されていたホウキを持ち、シアをグラウンドの真ん中に誘導した。

「シアは飛行練習。少しずつ高く飛べるようになってきたから、今度は速さに慣れようか」

 言ってホウキに跨り、後ろからシアを抱え込んだ。

「か、カイン……!」

 突如シアの顔が真っ赤に染まる。今までゲーラの家の庭で教わっていた時など、カインは少女の姿だったのだが。

(そ、そっか、ここではカインは男の姿だから……!)

 力強く長い腕、自分より高い背に筋肉。そんな青年の感触に、シアはドキドキして落ち着かない。対してカインは全く気にせず、そっと耳元で囁いた。

「じゃあ行くぞ。今回は容赦しないで飛ぶから、しっかり慣れろよ?」
「へ?」

 シアが聞き返す前に、二人は高い空へ舞い上がった。そのままカインの最適速度で海の方へ爆進する。

「きゃ、きゃあああ!」
「黙ってろ、舌噛むぞ!」

 青年は腕に力を込めて、シアをしっかり抱きしめた。

(こ、こわいこわい! けど、大丈夫……大丈夫みたい! いつもより安定してる)

 カインの腕の中で僅かに震えていたシアは、少しすると顔を上げ微笑んでみせた。そのまま安心したようにもたれかかる。

「こーら、シア。真面目にやってる? 慣れたか、このスピード」
「ふふーとっくに。安全ってわかってれば全然こわくないよ! というか、女の子のカインちゃんよりずっと安心」
「……あの姿は、腕力も魔力も半減だからなぁ」

 カイン自身も青年姿の方がシアを支えやすく、助かっていた。

「ね、カインがこのまま支えててくれるなら自分で飛んでみるよ!」

 調子に乗ったシアが早速、今度は自身の魔力でホウキを支えると、上目づかいにカインに確認した。

「さ、支えててね? スピード出してみるから」

 シアはグンっと持ち上げ力一杯魔力を込める。そして前進をしようとしーー意思とは全く違う方向の海へと一直線に落下していく。

「おいっ、下向かってどうする! 馬鹿、シア! 海! 海!」
「きゃあああ! どうして上行かないの! 飛べ、飛んでってばー!!」
「噴射!!」

 海へ突っ込む寸前、カインが咄嗟に下向きに魔力で衝撃波を発射し、なんとか空へと抜けた。上空でいったん静止すると、二人は呼吸を整える。

「こ、こわかった! た、楽しかった!」
「今海に突っ込むところだったぞ、確実に!」
「だってカインが絶対何とかしてくれるって、力一杯魔法使っちゃった!」
「あのなぁあああ。絶対一人でやるなよ、こういう無謀なこと!」
「一人でやるわけないじゃん!」

 言うと、安心したようにシアはカインにもたれかかった。優雅に飛ぶカモメを見上げ、大きく息を吐く。

「カインが優しくて……嬉しくて……なんかホッとする」

 三ヶ月前まで、行き場のない想いを抱え、事あるごとに二人で傷つけ合って来た。何度も忘れようと、嫌いになろうとした、あの時が嘘のようだ。

「好き……カイン」

 そんな彼女の呟きを聞き取り、カインの顔がかあっと赤くなっていく。が、次の瞬間ペシッと叩いて起こした。

「うまいこと言って寝る気満々じゃねーか」
「へへっ、バレた。やりますやります!」

 ぐいぐい拳を押し付けてくるカインに、シアは笑いながら返す。
 海のど真ん中、誰も見る者などいないが、どこから見てもじゃれているようにしか見えない、二人はバカップルそのものだった。

「そういえば、父さんが、またシアにおいでって」
「おじさん元気? そういえば犬飼ってるよね、前見かけた。あと……花壇も見たいな」
「知ってたのか」
「うん。カインの家の前通ると、どうしても気になっちゃって……えへへ」
「シア……」

 思わずキスをしそうになって、カインは寸前で止める。

「はぁ……っ、もう、早く魔法制御できるようになれよー」
「ご、ごめん……」

 シアは自分の前でしっかりホウキを握る、カインのその手に自分の手を重ねる。

「善処します……あとイギルのことも、大丈夫、ちゃんと上手くやるから。魔法は教わることもあるし……そっちも心配したでしょ?」

 シアの肩に顔を埋めながら、カインはため息を吐きつつ頷く。

「……悪いと思ってる。魔法以外のことではあいつのこと、結構シア頼みになってきて……領主のことも大学の方も……これからもっと忙しくなってく」
「そっか……」

 シアは少しでもカインと一緒にいるために、出来れば手助けをしたい、なるべく負担にならないようにしたかった。
 しかしーー彼の存在が城の者に周知されただけでこうだ。

(いつか……やっぱりいつか、村のみんなに知られて、領主様の役割も全部こなさないといけなくなるのかな)

 魔力を望む魔女たちのために。
 独り占めなど許されなくなる日が。

「シア? どうした?」
「な、なんでもない……へへ、夕陽が眩しくて」

 笑おうとするシアをカインはぎゅっと抱きしめる。

 領主として、カインが村に戻るのは必然だった。
 そして本当に、ちょうどいいタイミングで彼女は村を選んでくれた。
 昔からそうだ。彼女はいつもカインにとってありがたい所にいてくれる。出会った時も、村から出て父しか知らず、母も亡くなり、どうしようもなく寂しい頃だった。

(もう離したくない。離れたくない。どんなに忙しくてもーー)

「忘れんな……何があったって、俺はシアを一番に好きだから」
「う、うん。私もーーーーカインが大好きだよ」

 学生時代、恋心を抑えていた頃には知らなかったーー本当はいつもそばにいたいーーそんな感情が溢れるほどに日々大きくなっていく。

「まずいな……ほんと今、気軽にキスなんてできない」
「もしかして、渡る魔力量って際限ないの?」
「いや、まさか。俺の魔力値がMAX」

 ちなみにカインの魔力値はいくつなのかーー恐る恐る聞いてくるシアに、青年は苦笑する。
 ただ一言、今のシアの倍以上だとーーーーそれを聞いただけでもう、シアは目眩を起こしそうになってしまった。
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