精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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3 武道大会編

3-7

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「あちこち、あなたを探し回ったのよ」

 スヴェート皇女のピンクが、見かけの年齢にそぐわない、ねっとりとした視線を私に向ける。

 身体を舐め回されているような感覚を覚え、ゾクッとした。

 うん、たまーに、ラウもねっとりとした目で私を見るんだよなぁ。
 なんて言うか、ご馳走の獲物を見つけた猛獣?

 うー、ヤダヤダ。このピンク、ラウの仲間か何か?

「さぁ、いっしょに帰りましょう、スヴェートへ」

 いつの間に現れたのか分からないのもおかしいけど、話しかけてくる内容はさらにおかしい。

「はぁあ? なんでスヴェートなんかに? 私の家はここだけど?」

 ラウの後ろに隠れながら、言い返す。

 こういう時、ラウの背中は大きくて便利だ。私をスッポリ隠してくれる。

「いいえ。あなたの帰るところはスヴェートよ」

「頭、おかしいんじゃないの?」

「あなたの前にいる男ほどではないわよ」

「ラウがおかしいのは、いつも通りよ!」

 もう、慣れたし!

 ラウがチラッと私を振り返った。何か言いたげな目で。
 でも、ラウの相手をしている場合ではない。

「ふふ。喜びなさい」

 ピンクが言葉を続ける。

「スヴェートには、あなたの本当の伴侶が待っているのよ」

 ピンクの言葉にラウがピクッと反応して、冷気を漂わせ始めた。

「こんな、おかしな黒トカゲではなく、素敵な素敵なお相手がね」

 辺りに冷気が広がっていく。
 このピンク、完全にラウを怒らせたよ。

「だから、おかしくて結構だって言ってるの!」

 私の言葉と同時にラウが双剣を振るった。

 ズガッ

 同時に、ピンクの盾となり吹き飛ぶスヴェート騎士たち。
 ラウの魔力にやられて、半分凍りついている。

「なんでも力で解決しようとするなんて、トカゲはトカゲ。野蛮ねぇ」

 ねっとりと笑うピンク。

 吹き飛ばされてピクリとも動かない騎士たちに、ピンクは目もくれない。消耗品のような扱いだ。

 ラウは無言で、ピンクと対峙している。双剣は構えたまま。

 周りでは第五師団長が気を失った第四師団長を抱え、第七師団長がスヴェート騎士に応戦している。

 観客席の方も大混乱だ。

 ただ、混乱魔法が解除されたので、ある程度、秩序だってまとまりを見せていた。

 一般の観客席を守って誘導している人、スヴェート騎士と対峙している人、ケガ人を運ぶ人。

 国王の周りには、テラと第一塔長がいるのも見えた。
 テラの防壁が、国王と王族をがっちり守っている。

 第六師団の騎士たちも、副師団長とカーネリウスさんを中心にして、応戦していた。
 エレバウトさんも、援撃部隊のお姉さまたちといっしょだ。

 エルヴェスさんと補佐さんたちはどこだろう。

『アノ胸くそ悪いヤツら』

 エルヴェスさんの言葉が脳裏に浮ぶ。

 スヴェートは親善と偽り、エルメンティアの一大イベントを狙って仕掛けてきたんだ。

 参加した騎士たち、応援にきた観客、大会準備に奔走した事務方、いろいろな人の思いが詰まったものを、見事にぶち壊してくれた。

 胸くそ悪い、というのはこういう気分のことに違いない。

 そもそも、破壊は私の権能だ。
 勝手に壊されるのは、おもしろくない。

 怒りで冷気を撒き散らすラウに応じるかのように、私からも魔力が漏れ始めた。

 ピンクはラウの冷気にも私の魔力にも動じず、話し続ける。

「さぁ、帰りましょう。あなたを愛する本当の伴侶の元へ」

 ピンクの言葉が終わるやいなや、ラウが地面を蹴った。

 双剣の片方でピンクを薙ぎ払う。

 シュッ

 唸りをあげる双剣は、またもや、スヴェート騎士に阻まれ、ピンクに届かない。

 ラウがもう片方を振り上げた瞬間、ピンクがあり得ない言葉を唱えた!

「《転移》!」

「転移魔法?!」

 キーーーーーーン

 私の足元に魔法陣が現れ、魔力が渦巻く。

 しまった、飛ばされる。

 そう思ったときには遅かった。

 魔法陣の魔力に捉えられ、身体が揺さぶられる。
 目の前がグラグラとして気持ち悪い。何かが込み上げてくるような。息もできない。苦しい。

 魔力に抗おうと目を閉じた私の耳に、ラウの声が聞こえた。

「させるか!」

 フラフラする。気持ち悪い。

 私の身体に纏わりついている何かが、私をギューッと縛り上げる。
 そして、スーッとどこかに連れて行かれるような感覚。

 心臓もドクンドクンと音を立ててるし、込みあがってきた吐き気は治まらない。

 ダメだ、飛ばされた。

 いったい、どこに?

「ぷはっ」

 水面から浮かび上がってきたかのように、ようやく息を吐けたと思ったら。

 私は黒い騎士服にしがみついていた。

 あれ?

 黒い騎士服?

「俺のフィアを勝手に連れてくな!」 

「ラウ」

 転移魔法で飛ばされたはずなのに。
 ラウが私をしっかり抱きしめている。

「あぁ、フィア、良かった」

 良かった。ラウが助けてくれたんだ。
 ホッとして力が抜けそうになる。

「執着の鎖で縛り上げて引き寄せたんだ。念入りに、フィアの身体中に巻きつけておいて良かった」

 ラウが嬉しそうに私の身体を撫で回す。

 執着の鎖を、身体中に巻きつけた?

「毎日毎日、せっせと俺の魔力をフィアに注ぎ込んでるしな」

 ラウの魔力を、注ぎ込んでる?

「フィアの身体は外も中も、俺の魔力が纏わりついて混じり合ってるから。まず、離されることはないんだけど」

 ラウの魔力が、纏わりついてる?
 ラウの魔力が、混じり合ってる?

 執着の鎖はともかく。
 他のことは初めて聞くんだけど?!

 聞き捨てならない内容の暴露が続いて。
 もう、どこから突っ込んでいいのか、分からない。

「うん、良かった、のかな?」

「あぁ、頑張って捕獲したフィアが、他のやつに奪われるところだった。本当に良かった」

 感極まってギューッと締め上げてくるラウ。あまりの衝撃に、私は息苦しさも感じない。

 夫の選択、間違ったかも。

 いやいや、選択肢、なかったな。
 気がついたときには、捕獲された後だったし、すでに夫だったな、ラウ。

 上位竜種のヤバさがヤバイ。

『いまさらかよ』

 テラの声が聞こえてくるようだ。

「まったく、黒トカゲのくせに、わたくしの邪魔をするなんて」

 転移魔法に失敗して機嫌が悪いのか、ピンクの苦々しい声が響く。
 私の意識も現実に戻ってきた。

 ピンクは忌々しさ全開の表情で、ラウを睨みつけている。

 応じるラウの声が、私に対するのとはガラッと変わり、氷のように冷たい。

「お前も逃がすものか。さぁ、大人しくしろ」

 私たちの周りは、あらかた決着がついていた。
 観客席も、国王の周りも、第五師団長と第七師団長の方も。

 スヴェート騎士が倒されたり、取り押さえられたり。

 残るはピンクの周りのみとなった。

 騎士や魔導士らしき護衛がまだまだ固まってピンクを守っている。

 そんな私たちの元に新たな援軍が現れた。

「ドラグニール師団長、遅くなりまして」

 私たちの後ろから声をかけてきたのは、今までピンクの監視役として動いていた、カーシェイさんだった。
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