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7 帝国動乱編
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大神殿の外は、エルメンティアもスヴェートもさほど変わりない景色が広がっていた。
ここ、本当にスヴェート?
テラにそう聞きたいところだけれど、またしても、さっきと同じ答えが返ってきそうだったので我慢する。
ただ、エルメンティアもスヴェートも変わりない大神殿だということが、見た目からも分かるので、安心感も感じられた。
私が安心感を感じるくらいならば、デュク様はもっと感じるだろう。
大神殿は神様の住まい。デュク様にとって居心地のいい家であることが何よりだと思う。
さて、大神殿の外、前庭と言うべきような場所には、ザイオンとメイ群島国の参加者たちも集まっていた。
ジロジロ眺めるのは礼儀を欠くことだとは分かっていても、ついつい観察してしまう。
ザイオンは、イリニやナルフェブル補佐官似の人たち。イリニを含めて五人。後は世話係のような人たちがいるだけで、護衛のような人はいなかった。
「ザイオンの王は実力順ですので。護衛を連れて歩くのはもっての他ですわ。
きっと世話をする人や荷物持ちしか同行されてません。同行者もおそらく実力者でしょう」
ルミアーナさんが、いいタイミングで解説を入れてくれる。
推しが必要とするタイミングで必要とする情報をさらっと解説する。
ルミアーナさんはそういったさらっとした行動に、ムチナクチャ長けているんだよね。
これも推し活技能の一つなんだろう、きっと。私はそう思うことにした。いちいち不思議がっていてもキリがないから。
「メイ群島国の方々は、護衛だらけですわね。基本、身の回りのことなどは自分で行うのが原則の国ですから、世話係は少なさそうですわ」
それに、感情の神が云々という情報も渡してあるだろうから。余計に警護に力が入るだろうね。
「にしても、ずいぶんと王族が多いような気もしますが」
ザイオンが詠唱魔術師中心の国であるなら、メイ群島国は民芸品の加工技術に長けた国。
温かい気候柄、浅黒く焼けて、逞しい身体つきの男性が多い。きっと逞しい男性の人気も高いんだろう。
メイ群島国の女性たちが、ラウたち竜種に熱い視線を送っているのが、端から見ていても丸わかりだった。
チラチラとこちらを窺う視線にイラッとする。
「メイ群島国の人たちが、ラウのことを見てる。凄いキラキラした目で」
ラウのそばに私がいるというのに。私がラウのパートナーだというのに。
あんなに熱心にラウを見ないでほしい。
ラウと最終契約も終えているし、ラウが私を裏切ることは絶対にないし。なのに、どうしても、あの視線を感じるとイライラとしてしまう。
私も意外と心が狭いんだな。
ラウの嫉妬をとやかく言えない。
ところで、なんで、こんなに静かなんだろう。
私は隣のラウと、目の前のルミアーナさんやジンクレストに目を向けた。
「「………………………………。」」
表情がない。
え? なぜ? 私なんか変なこと言った?
突然、ラウがくはーっと息を吐き出し、頭をがしがしと掻き回す。
「あのな、フィア。竜種が人気なわけがないだろう」
「だって」
ラウのことをキラキラした目で見てたもの。
「メイ群島国の女に竜種が人気だって言うのなら、こいつらは未だに独身ではないし。歴代の黒竜は、奥さんを捕獲できずに死んだりしていない」
ラウはカーネリウスさんにデルストームさんを、遠慮なく指差した。ハハハと乾いた笑いを上げる二人。
「じゃあ、なんであんな目でこっちを見ているわけ?」
「ァア? あんな目?」
ラウがメイ群島国の人の方へ顔を向けたとたん、クルッとメイ群島国の人たちは顔を背けた。
す、素早い。
ラウは視線を合わすことができずに、はて?と首を傾げるばかり。
そこへ、分からないことはわたくしに!というような勢いで、ルミアーナさんが割って入った。
「当然、クロスフィアさん狙いですわ!」
「なんでそこに私?」
男性に見られるならともかく、女性にまでモテモテなのはおかしいと思うけど。
「メイ群島国の皆様、ずっとクロスフィアさんを見ていらしてましたわ!」
「え? ラウたち、竜種じゃなくて?」
「クロスフィアさん、メイ群島国の成り立ちはご存知です?」
「いきなり別の話」
焦る私の様子を宥めながら、ルミアーナさんは語って聞かせてくれた。メイ群島国の成り立ちを。
「今のメイ群島ができたのは、破壊の赤種のおかげだと言われてますわ」
「ん? おかげ?」
「神々の時代、メイ群島は一つの大きな島で、悪しき神々が支配しておりました。
ある時、破壊の赤種がその島を神々ごと破壊して、悪しき神々の支配が終わったそうです。
破壊された島から、小さないくつかの島ができ、今のメイ群島になったと言われておりますの」
「それ、最初の破壊の赤種の武勇伝か」
「メイ群島国の人たちにとって、破壊の赤種は救国の英雄であり、国の創世者。
ですので、メイ群島国は樹林周辺の四ヶ国のうちで、もっとも大量に破壊の赤種信奉者が集まっている国なんですわ!」
「うん、知らないって、そんな話」
「あたくしとしたことが、うっかりしていましたわ。道理で王族やら参加者が多いわけです」
私は今、かなりヤバい話を聞いてしまったのかもしれない。
ふと、メイ群島国の女性に視線を向けると、ばっちり目が合う。
目が合った女性はぽっと顔を赤らめるとキャーキャー騒ぎ出した。
あー
ファンはクリムト(クリムゾン様を尊ぶ会)だけで間に合ってるから。
「そして、クリムトを脅かす組織の存在を、すっかり忘れておりましたわ。会長が不在だというのに」
「フィアのファンなら問題はないな」
「いえ、それが」
「何かあるの?」「何かあるのか?」
なぜか口ごもるルミアーナさん。
私とラウの疑問はジンクレストによって解き明かされた。
「メイ群島国のとある団体から、抗議が来ているという話を聞きましたね」
「抗議?」
とそこへ見知らぬ人たちの声。
「破壊の赤種様が心無い竜種によって監禁されている。破壊の赤種様はもっと自由な存在だ。即刻、破壊の赤種様から離れろ」
「というような、感じですわ」
「というような、感じじゃないだろ、なんだ、お前等は。フィアに近づくな!」
見ると、さっきは離れたところでこっちを窺っていたメイ群島国の人たちが、集団で押し寄せていた。
「そちらこそ、愛しの赤種様に馴れ馴れしくするな」
「破壊の赤種様は皆の赤種様だ。一人で独占しようだなんて図々しい」
「まさかの国家間紛争」
これから式典なのに。
感情の神との対決の前に、まさか、ファン同士の対決が待ち受けているとは。
「クロエル補佐官、紛争にまで発展させるな!」
さっと間に立ちふさがる二人の陰。
「見た目穏やかでもお腹の中は真っ黒な塔長と、見た目ギスギスでお腹の中もギスギスな第八師団長!」
「だから、その呼び方なんとかしろ」
「ドラグニールもクロエル補佐官をおとなしくさせておけ。クロエル補佐官が口を開くと紛争が巻き起こる」
そう。間に立ちふさがってくれたのは、言わずと知れた第一塔長と第八師団長の超面倒くさい王族コンビだった。
ここ、本当にスヴェート?
テラにそう聞きたいところだけれど、またしても、さっきと同じ答えが返ってきそうだったので我慢する。
ただ、エルメンティアもスヴェートも変わりない大神殿だということが、見た目からも分かるので、安心感も感じられた。
私が安心感を感じるくらいならば、デュク様はもっと感じるだろう。
大神殿は神様の住まい。デュク様にとって居心地のいい家であることが何よりだと思う。
さて、大神殿の外、前庭と言うべきような場所には、ザイオンとメイ群島国の参加者たちも集まっていた。
ジロジロ眺めるのは礼儀を欠くことだとは分かっていても、ついつい観察してしまう。
ザイオンは、イリニやナルフェブル補佐官似の人たち。イリニを含めて五人。後は世話係のような人たちがいるだけで、護衛のような人はいなかった。
「ザイオンの王は実力順ですので。護衛を連れて歩くのはもっての他ですわ。
きっと世話をする人や荷物持ちしか同行されてません。同行者もおそらく実力者でしょう」
ルミアーナさんが、いいタイミングで解説を入れてくれる。
推しが必要とするタイミングで必要とする情報をさらっと解説する。
ルミアーナさんはそういったさらっとした行動に、ムチナクチャ長けているんだよね。
これも推し活技能の一つなんだろう、きっと。私はそう思うことにした。いちいち不思議がっていてもキリがないから。
「メイ群島国の方々は、護衛だらけですわね。基本、身の回りのことなどは自分で行うのが原則の国ですから、世話係は少なさそうですわ」
それに、感情の神が云々という情報も渡してあるだろうから。余計に警護に力が入るだろうね。
「にしても、ずいぶんと王族が多いような気もしますが」
ザイオンが詠唱魔術師中心の国であるなら、メイ群島国は民芸品の加工技術に長けた国。
温かい気候柄、浅黒く焼けて、逞しい身体つきの男性が多い。きっと逞しい男性の人気も高いんだろう。
メイ群島国の女性たちが、ラウたち竜種に熱い視線を送っているのが、端から見ていても丸わかりだった。
チラチラとこちらを窺う視線にイラッとする。
「メイ群島国の人たちが、ラウのことを見てる。凄いキラキラした目で」
ラウのそばに私がいるというのに。私がラウのパートナーだというのに。
あんなに熱心にラウを見ないでほしい。
ラウと最終契約も終えているし、ラウが私を裏切ることは絶対にないし。なのに、どうしても、あの視線を感じるとイライラとしてしまう。
私も意外と心が狭いんだな。
ラウの嫉妬をとやかく言えない。
ところで、なんで、こんなに静かなんだろう。
私は隣のラウと、目の前のルミアーナさんやジンクレストに目を向けた。
「「………………………………。」」
表情がない。
え? なぜ? 私なんか変なこと言った?
突然、ラウがくはーっと息を吐き出し、頭をがしがしと掻き回す。
「あのな、フィア。竜種が人気なわけがないだろう」
「だって」
ラウのことをキラキラした目で見てたもの。
「メイ群島国の女に竜種が人気だって言うのなら、こいつらは未だに独身ではないし。歴代の黒竜は、奥さんを捕獲できずに死んだりしていない」
ラウはカーネリウスさんにデルストームさんを、遠慮なく指差した。ハハハと乾いた笑いを上げる二人。
「じゃあ、なんであんな目でこっちを見ているわけ?」
「ァア? あんな目?」
ラウがメイ群島国の人の方へ顔を向けたとたん、クルッとメイ群島国の人たちは顔を背けた。
す、素早い。
ラウは視線を合わすことができずに、はて?と首を傾げるばかり。
そこへ、分からないことはわたくしに!というような勢いで、ルミアーナさんが割って入った。
「当然、クロスフィアさん狙いですわ!」
「なんでそこに私?」
男性に見られるならともかく、女性にまでモテモテなのはおかしいと思うけど。
「メイ群島国の皆様、ずっとクロスフィアさんを見ていらしてましたわ!」
「え? ラウたち、竜種じゃなくて?」
「クロスフィアさん、メイ群島国の成り立ちはご存知です?」
「いきなり別の話」
焦る私の様子を宥めながら、ルミアーナさんは語って聞かせてくれた。メイ群島国の成り立ちを。
「今のメイ群島ができたのは、破壊の赤種のおかげだと言われてますわ」
「ん? おかげ?」
「神々の時代、メイ群島は一つの大きな島で、悪しき神々が支配しておりました。
ある時、破壊の赤種がその島を神々ごと破壊して、悪しき神々の支配が終わったそうです。
破壊された島から、小さないくつかの島ができ、今のメイ群島になったと言われておりますの」
「それ、最初の破壊の赤種の武勇伝か」
「メイ群島国の人たちにとって、破壊の赤種は救国の英雄であり、国の創世者。
ですので、メイ群島国は樹林周辺の四ヶ国のうちで、もっとも大量に破壊の赤種信奉者が集まっている国なんですわ!」
「うん、知らないって、そんな話」
「あたくしとしたことが、うっかりしていましたわ。道理で王族やら参加者が多いわけです」
私は今、かなりヤバい話を聞いてしまったのかもしれない。
ふと、メイ群島国の女性に視線を向けると、ばっちり目が合う。
目が合った女性はぽっと顔を赤らめるとキャーキャー騒ぎ出した。
あー
ファンはクリムト(クリムゾン様を尊ぶ会)だけで間に合ってるから。
「そして、クリムトを脅かす組織の存在を、すっかり忘れておりましたわ。会長が不在だというのに」
「フィアのファンなら問題はないな」
「いえ、それが」
「何かあるの?」「何かあるのか?」
なぜか口ごもるルミアーナさん。
私とラウの疑問はジンクレストによって解き明かされた。
「メイ群島国のとある団体から、抗議が来ているという話を聞きましたね」
「抗議?」
とそこへ見知らぬ人たちの声。
「破壊の赤種様が心無い竜種によって監禁されている。破壊の赤種様はもっと自由な存在だ。即刻、破壊の赤種様から離れろ」
「というような、感じですわ」
「というような、感じじゃないだろ、なんだ、お前等は。フィアに近づくな!」
見ると、さっきは離れたところでこっちを窺っていたメイ群島国の人たちが、集団で押し寄せていた。
「そちらこそ、愛しの赤種様に馴れ馴れしくするな」
「破壊の赤種様は皆の赤種様だ。一人で独占しようだなんて図々しい」
「まさかの国家間紛争」
これから式典なのに。
感情の神との対決の前に、まさか、ファン同士の対決が待ち受けているとは。
「クロエル補佐官、紛争にまで発展させるな!」
さっと間に立ちふさがる二人の陰。
「見た目穏やかでもお腹の中は真っ黒な塔長と、見た目ギスギスでお腹の中もギスギスな第八師団長!」
「だから、その呼び方なんとかしろ」
「ドラグニールもクロエル補佐官をおとなしくさせておけ。クロエル補佐官が口を開くと紛争が巻き起こる」
そう。間に立ちふさがってくれたのは、言わずと知れた第一塔長と第八師団長の超面倒くさい王族コンビだった。
応援ありがとうございます!
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