運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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8 騎士一族と黒鉄編

2-5

 位置と役割の確認が取れて、残る作戦の方はフィリアが担当してくれた。

 リザルトは他騎士団の試合のチェックもあるので、待機場所から早々に移動したらしい。

 参謀長なのにニグラートの試合の応援はしなくていいのか、と思わなくもない。

 ふだん、リザルトといっしょに仕事をしている人材が何人か来ているというので、おそらく、応援は他人任せにしだんだろうけど。

 なんか、

 リザルトが応援してくれないのが、残念に感じる。

 あれ?

 私、こんなに他人に期待して、期待が外れてがっかりするような人間だったっけ?

 元々の私はクズ男である実父に認めてもらいたくて、勉強も何もかも頑張っていた。

 魔力はそれなりにあった。

 だからなのかクズ男は、私に魔術師としての勉強を課していて。
 魔塔の孤児院に捨てられてから聞いた話では、学院を出たレベルの内容を教え込まれていたという。五歳に満たない子どもに。

 五歳を過ぎてからは、髪の色が魔術師に向かないとされる黒に変わったことで、いろいろな圧もなくなり、それまでの魔術師の勉強はするだけ無駄扱いになっていったけど。

 そんな環境でも、私は頑張った。

 頑張って頑張って、結果を出せば、優秀な成績を残せば、認めてもらえるんじゃないか。

 そんなことを期待して。

 でも、自分の子どもであっても、一生懸命頑張っても、お母さま以外に目を向けることがなかったクズ男。

 魔塔に捨てられて、隠れてたくさん泣いて。

 もしかしたら、捨てたのは間違いだったと絶縁を撤回してくれたり、私がいないのに気づいたお母さまが迎えにきてくれたり、そんなことがあるんじゃないかと、どこか期待もして。

 けっきょく、私に都合のいい話が転がってくることはないと、悟って。
 クズに期待した自分がバカだったんだと、ようやく納得して。

 その時から、誰かに何かを期待することは、なくなったと思っていたのに。

 私はいつの間にか、誰かに何かを期待する心を、取り戻していたんだな。

 不機嫌とがっかりと両方の気持ちが心の中によどんではいても、昔のような心を取り戻させてくれたことを、みんなに感謝する私だった。




 そして、続く作戦の方は簡単だった。

「お嬢は旗の守り一択ですからね」

 簡単というか単純と言った方がいいだろうか。フィリアからの言葉は一言だけだったから。

「守り?」

 オウム替えしに、フィリアの言葉を繰り返す私。

「マウンタ副官から、お嬢の位置は説明されましたよね?」

 私はこくんと頷く。

「でも本当にここだけなの?」

「ここだけです」

 期待を込めて再度、尋ねると、あっさりと期待は打ち砕かれる。

 本当に本当に、魔術師として、ここでただただ旗の守りか。

 はぁ。ちょっとつまらないかも。

 もっと派手にガンガンやるものだと思っていたので、がっかり感がさらに募ってくる。

 フィリアはフィリアで、リザルトから私の見張りでも頼まれているのか、隙がない。

「ルールを確認しておきますよ?」

 ジロッと訝しげな視線を向けられたので、私は教えてもらったことを、すぐさま口にする。

「旗を取られたら負け」

「味方が旗を持っていた場合は?」

「旗を持っている人が戦闘不能か、降参したら負け」

 私はすらすらと答えた。

 これでも学院時代は魔術師コースの首席。
 記憶力も学習能力も、そこらへんの人たち以上はある。

 そんな私の答えに、訝しげな視線を引っ込め満足げな表情を見せると、フィリアはさらに念を入れてきた。

「使用可能な魔法も確認しておきましょうか?」

「観客席に被害がでる魔法はダメ」

「違います。試合会場に設置されてる障壁を壊す魔法はダメ、です」

 同じじゃないの?!

 とも思ったけど。

 障壁を壊さなければ、観客席に被害が出てもいいってことか。頭の片隅にメモしておこう。

 メモはしたものの、通常の魔術師は魔力障壁を壊さず魔力障壁の向こう側を攻撃する、というような器用な芸当は出来ないことを、遅れて思い出す。

 ここでのポイントは、私は『通常の魔術師』の範疇に入らないということ。

 通常の魔術師が出来ないことも出来てしまうわけで、だからこそ、余計に面倒くささを感じていた。

「ルール、面倒くさい」

 私のつぶやきは綺麗に無視され、フィリアは確認を続けていく。

「あと、試合場の形が変わるような魔法、命に関わるような魔法もダメですからね」

 観客席と試合場を隔てる壁を壊したり、試合場の地面をえぐったりするのも、ダメだということは事前に教えられていたので、私は無言で頷いた。

 そういえば、リザルトからは直接的な攻撃魔法の話しかされなかったけど、精神系のは良いのだろうか?

「眠らせるのとか、気絶させるのは?」

 軽く聞いてみると、渋い顔をされる。

「お嬢。大混戦の最中に意識を失ったらどうなります?」

 いや、まぁ、深く考えなくてもダメだったな。

「なら、威圧は? 威圧!」

 殺気はさすがにダメだろうと思って、グレイのデフォルト、威圧を聞いてみると、今度は口調も渋くなって返ってきた。

「動きを多少鈍らせる程度でしたら。息の根を止める勢いなのはダメですよ」

「なんでよ? グレイの威圧なら、失神レベルものでしょ?」

「隊長は魔術師ではありませんからね」

 そもそも、隊長を一般的な基準にするなと、フィリアの目が言っている。

「え?! そこなの?!」

 と言ってから、やっぱり遅れて思い出した。

 グレイの威圧。魔法陣なんて使ってないから魔法じゃなかったわ。
 あれはただの眼力。魔法を上回る眼力って何よそれ。

 正確には、眼力に魔力を乗せているので、威圧といえども息の根を止める勢いとなる。その辺は剣に魔力を乗せられる『魔剣士』ならでは。

 しかし、私はちょっと納得がいかない。

「はぁ。確認しておいて良かったです」

「なにそれ。魔術師なのに、魔法なんて全然使えないじゃないの!」

「使える魔法は限られてますが、使えないわけではありませんよ」

「ちょっと待ってよ。私、ほぼほぼ役立たずでしょうに!」

 こんなことなら、魔剣士になっておけば良かったわ。

 憤慨している私を、フィリアはなだめ始める。当たり前のことを口にして。

「お嬢。防御魔法は使っても大丈夫です」

「防御魔法でどうやって攻撃しろと?!」

「だから魔術師は、守り一択なんですって」

 フィリアが絶叫すると同時に、整列を告げる笛の音がなった。

 これから、私の人生で初めての、闘技会の試合が始まる。
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