475 / 590
8 騎士一族と黒鉄編
2-5
位置と役割の確認が取れて、残る作戦の方はフィリアが担当してくれた。
リザルトは他騎士団の試合のチェックもあるので、待機場所から早々に移動したらしい。
参謀長なのにニグラートの試合の応援はしなくていいのか、と思わなくもない。
ふだん、リザルトといっしょに仕事をしている人材が何人か来ているというので、おそらく、応援は他人任せにしだんだろうけど。
なんか、
リザルトが応援してくれないのが、残念に感じる。
あれ?
私、こんなに他人に期待して、期待が外れてがっかりするような人間だったっけ?
元々の私はクズ男である実父に認めてもらいたくて、勉強も何もかも頑張っていた。
魔力はそれなりにあった。
だからなのかクズ男は、私に魔術師としての勉強を課していて。
魔塔の孤児院に捨てられてから聞いた話では、学院を出たレベルの内容を教え込まれていたという。五歳に満たない子どもに。
五歳を過ぎてからは、髪の色が魔術師に向かないとされる黒に変わったことで、いろいろな圧もなくなり、それまでの魔術師の勉強はするだけ無駄扱いになっていったけど。
そんな環境でも、私は頑張った。
頑張って頑張って、結果を出せば、優秀な成績を残せば、認めてもらえるんじゃないか。
そんなことを期待して。
でも、自分の子どもであっても、一生懸命頑張っても、お母さま以外に目を向けることがなかったクズ男。
魔塔に捨てられて、隠れてたくさん泣いて。
もしかしたら、捨てたのは間違いだったと絶縁を撤回してくれたり、私がいないのに気づいたお母さまが迎えにきてくれたり、そんなことがあるんじゃないかと、どこか期待もして。
けっきょく、私に都合のいい話が転がってくることはないと、悟って。
クズに期待した自分がバカだったんだと、ようやく納得して。
その時から、誰かに何かを期待することは、なくなったと思っていたのに。
私はいつの間にか、誰かに何かを期待する心を、取り戻していたんだな。
不機嫌とがっかりと両方の気持ちが心の中によどんではいても、昔のような心を取り戻させてくれたことを、みんなに感謝する私だった。
そして、続く作戦の方は簡単だった。
「お嬢は旗の守り一択ですからね」
簡単というか単純と言った方がいいだろうか。フィリアからの言葉は一言だけだったから。
「守り?」
オウム替えしに、フィリアの言葉を繰り返す私。
「マウンタ副官から、お嬢の位置は説明されましたよね?」
私はこくんと頷く。
「でも本当にここだけなの?」
「ここだけです」
期待を込めて再度、尋ねると、あっさりと期待は打ち砕かれる。
本当に本当に、魔術師として、ここでただただ旗の守りか。
はぁ。ちょっとつまらないかも。
もっと派手にガンガンやるものだと思っていたので、がっかり感がさらに募ってくる。
フィリアはフィリアで、リザルトから私の見張りでも頼まれているのか、隙がない。
「ルールを確認しておきますよ?」
ジロッと訝しげな視線を向けられたので、私は教えてもらったことを、すぐさま口にする。
「旗を取られたら負け」
「味方が旗を持っていた場合は?」
「旗を持っている人が戦闘不能か、降参したら負け」
私はすらすらと答えた。
これでも学院時代は魔術師コースの首席。
記憶力も学習能力も、そこらへんの人たち以上はある。
そんな私の答えに、訝しげな視線を引っ込め満足げな表情を見せると、フィリアはさらに念を入れてきた。
「使用可能な魔法も確認しておきましょうか?」
「観客席に被害がでる魔法はダメ」
「違います。試合会場に設置されてる障壁を壊す魔法はダメ、です」
同じじゃないの?!
とも思ったけど。
障壁を壊さなければ、観客席に被害が出てもいいってことか。頭の片隅にメモしておこう。
メモはしたものの、通常の魔術師は魔力障壁を壊さず魔力障壁の向こう側を攻撃する、というような器用な芸当は出来ないことを、遅れて思い出す。
ここでのポイントは、私は『通常の魔術師』の範疇に入らないということ。
通常の魔術師が出来ないことも出来てしまうわけで、だからこそ、余計に面倒くささを感じていた。
「ルール、面倒くさい」
私のつぶやきは綺麗に無視され、フィリアは確認を続けていく。
「あと、試合場の形が変わるような魔法、命に関わるような魔法もダメですからね」
観客席と試合場を隔てる壁を壊したり、試合場の地面をえぐったりするのも、ダメだということは事前に教えられていたので、私は無言で頷いた。
そういえば、リザルトからは直接的な攻撃魔法の話しかされなかったけど、精神系のは良いのだろうか?
「眠らせるのとか、気絶させるのは?」
軽く聞いてみると、渋い顔をされる。
「お嬢。大混戦の最中に意識を失ったらどうなります?」
いや、まぁ、深く考えなくてもダメだったな。
「なら、威圧は? 威圧!」
殺気はさすがにダメだろうと思って、グレイのデフォルト、威圧を聞いてみると、今度は口調も渋くなって返ってきた。
「動きを多少鈍らせる程度でしたら。息の根を止める勢いなのはダメですよ」
「なんでよ? グレイの威圧なら、失神レベルものでしょ?」
「隊長は魔術師ではありませんからね」
そもそも、隊長を一般的な基準にするなと、フィリアの目が言っている。
「え?! そこなの?!」
と言ってから、やっぱり遅れて思い出した。
グレイの威圧。魔法陣なんて使ってないから魔法じゃなかったわ。
あれはただの眼力。魔法を上回る眼力って何よそれ。
正確には、眼力に魔力を乗せているので、威圧といえども息の根を止める勢いとなる。その辺は剣に魔力を乗せられる『魔剣士』ならでは。
しかし、私はちょっと納得がいかない。
「はぁ。確認しておいて良かったです」
「なにそれ。魔術師なのに、魔法なんて全然使えないじゃないの!」
「使える魔法は限られてますが、使えないわけではありませんよ」
「ちょっと待ってよ。私、ほぼほぼ役立たずでしょうに!」
こんなことなら、魔剣士になっておけば良かったわ。
憤慨している私を、フィリアはなだめ始める。当たり前のことを口にして。
「お嬢。防御魔法は使っても大丈夫です」
「防御魔法でどうやって攻撃しろと?!」
「だから魔術師は、守り一択なんですって」
フィリアが絶叫すると同時に、整列を告げる笛の音がなった。
これから、私の人生で初めての、闘技会の試合が始まる。
リザルトは他騎士団の試合のチェックもあるので、待機場所から早々に移動したらしい。
参謀長なのにニグラートの試合の応援はしなくていいのか、と思わなくもない。
ふだん、リザルトといっしょに仕事をしている人材が何人か来ているというので、おそらく、応援は他人任せにしだんだろうけど。
なんか、
リザルトが応援してくれないのが、残念に感じる。
あれ?
私、こんなに他人に期待して、期待が外れてがっかりするような人間だったっけ?
元々の私はクズ男である実父に認めてもらいたくて、勉強も何もかも頑張っていた。
魔力はそれなりにあった。
だからなのかクズ男は、私に魔術師としての勉強を課していて。
魔塔の孤児院に捨てられてから聞いた話では、学院を出たレベルの内容を教え込まれていたという。五歳に満たない子どもに。
五歳を過ぎてからは、髪の色が魔術師に向かないとされる黒に変わったことで、いろいろな圧もなくなり、それまでの魔術師の勉強はするだけ無駄扱いになっていったけど。
そんな環境でも、私は頑張った。
頑張って頑張って、結果を出せば、優秀な成績を残せば、認めてもらえるんじゃないか。
そんなことを期待して。
でも、自分の子どもであっても、一生懸命頑張っても、お母さま以外に目を向けることがなかったクズ男。
魔塔に捨てられて、隠れてたくさん泣いて。
もしかしたら、捨てたのは間違いだったと絶縁を撤回してくれたり、私がいないのに気づいたお母さまが迎えにきてくれたり、そんなことがあるんじゃないかと、どこか期待もして。
けっきょく、私に都合のいい話が転がってくることはないと、悟って。
クズに期待した自分がバカだったんだと、ようやく納得して。
その時から、誰かに何かを期待することは、なくなったと思っていたのに。
私はいつの間にか、誰かに何かを期待する心を、取り戻していたんだな。
不機嫌とがっかりと両方の気持ちが心の中によどんではいても、昔のような心を取り戻させてくれたことを、みんなに感謝する私だった。
そして、続く作戦の方は簡単だった。
「お嬢は旗の守り一択ですからね」
簡単というか単純と言った方がいいだろうか。フィリアからの言葉は一言だけだったから。
「守り?」
オウム替えしに、フィリアの言葉を繰り返す私。
「マウンタ副官から、お嬢の位置は説明されましたよね?」
私はこくんと頷く。
「でも本当にここだけなの?」
「ここだけです」
期待を込めて再度、尋ねると、あっさりと期待は打ち砕かれる。
本当に本当に、魔術師として、ここでただただ旗の守りか。
はぁ。ちょっとつまらないかも。
もっと派手にガンガンやるものだと思っていたので、がっかり感がさらに募ってくる。
フィリアはフィリアで、リザルトから私の見張りでも頼まれているのか、隙がない。
「ルールを確認しておきますよ?」
ジロッと訝しげな視線を向けられたので、私は教えてもらったことを、すぐさま口にする。
「旗を取られたら負け」
「味方が旗を持っていた場合は?」
「旗を持っている人が戦闘不能か、降参したら負け」
私はすらすらと答えた。
これでも学院時代は魔術師コースの首席。
記憶力も学習能力も、そこらへんの人たち以上はある。
そんな私の答えに、訝しげな視線を引っ込め満足げな表情を見せると、フィリアはさらに念を入れてきた。
「使用可能な魔法も確認しておきましょうか?」
「観客席に被害がでる魔法はダメ」
「違います。試合会場に設置されてる障壁を壊す魔法はダメ、です」
同じじゃないの?!
とも思ったけど。
障壁を壊さなければ、観客席に被害が出てもいいってことか。頭の片隅にメモしておこう。
メモはしたものの、通常の魔術師は魔力障壁を壊さず魔力障壁の向こう側を攻撃する、というような器用な芸当は出来ないことを、遅れて思い出す。
ここでのポイントは、私は『通常の魔術師』の範疇に入らないということ。
通常の魔術師が出来ないことも出来てしまうわけで、だからこそ、余計に面倒くささを感じていた。
「ルール、面倒くさい」
私のつぶやきは綺麗に無視され、フィリアは確認を続けていく。
「あと、試合場の形が変わるような魔法、命に関わるような魔法もダメですからね」
観客席と試合場を隔てる壁を壊したり、試合場の地面をえぐったりするのも、ダメだということは事前に教えられていたので、私は無言で頷いた。
そういえば、リザルトからは直接的な攻撃魔法の話しかされなかったけど、精神系のは良いのだろうか?
「眠らせるのとか、気絶させるのは?」
軽く聞いてみると、渋い顔をされる。
「お嬢。大混戦の最中に意識を失ったらどうなります?」
いや、まぁ、深く考えなくてもダメだったな。
「なら、威圧は? 威圧!」
殺気はさすがにダメだろうと思って、グレイのデフォルト、威圧を聞いてみると、今度は口調も渋くなって返ってきた。
「動きを多少鈍らせる程度でしたら。息の根を止める勢いなのはダメですよ」
「なんでよ? グレイの威圧なら、失神レベルものでしょ?」
「隊長は魔術師ではありませんからね」
そもそも、隊長を一般的な基準にするなと、フィリアの目が言っている。
「え?! そこなの?!」
と言ってから、やっぱり遅れて思い出した。
グレイの威圧。魔法陣なんて使ってないから魔法じゃなかったわ。
あれはただの眼力。魔法を上回る眼力って何よそれ。
正確には、眼力に魔力を乗せているので、威圧といえども息の根を止める勢いとなる。その辺は剣に魔力を乗せられる『魔剣士』ならでは。
しかし、私はちょっと納得がいかない。
「はぁ。確認しておいて良かったです」
「なにそれ。魔術師なのに、魔法なんて全然使えないじゃないの!」
「使える魔法は限られてますが、使えないわけではありませんよ」
「ちょっと待ってよ。私、ほぼほぼ役立たずでしょうに!」
こんなことなら、魔剣士になっておけば良かったわ。
憤慨している私を、フィリアはなだめ始める。当たり前のことを口にして。
「お嬢。防御魔法は使っても大丈夫です」
「防御魔法でどうやって攻撃しろと?!」
「だから魔術師は、守り一択なんですって」
フィリアが絶叫すると同時に、整列を告げる笛の音がなった。
これから、私の人生で初めての、闘技会の試合が始まる。
あなたにおすすめの小説
マジメにやってよ!王子様
猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。
エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。
生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。
その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。
ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。
「私は王子のサンドバッグ」
のエリックとローズの別世界バージョン。
登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
4人の女
猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。
うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。
このご婦人方には共通点がある。
かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。
『氷の貴公子』の異名を持つ男。
ジルベール・タレーラン公爵令息。
絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。
しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。
この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。
こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
【完結】王命の代行をお引き受けいたします
ユユ
恋愛
【 お知らせ 】
先日、近況ボードにも
お知らせしました通り
2026年4月に
完結済みのお話の多数を
一旦closeいたします。
誤字脱字などを修正して
再掲載をするつもりですが
再掲載しない作品もあります。
再掲載の時期は決まっておりません。
表現の変更などもあり得ます。
他の作品も同様です。
ご了承いただけますようお願いいたします。
ユユ
【 お話の内容紹介 】
白過ぎる結婚。
逃れられない。
隣接する仲の悪い貴族同士の婚姻は王命だった。
相手は一人息子。
姉が嫁ぐはずだったのに式の前夜に事故死。
仕方なく私が花嫁に。
* 作り話です。
* 完結しています。
聖女は歌う 復讐の歌を
奏千歌
恋愛
[悠久を生きる魔女①]
*②と②´まとめました。バッドエンドです。後味が悪い部分があります。ご注意ください。
幼なじみの令嬢との婚約を解消して、新たに聖女と王太子が婚約した。といった騒動があった事は私には関係の無いことだと思っていた。
ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、薬草を調合する手を止め、エプロンを外しながら玄関に向かった。
こんな森の中の辺鄙な場所に誰がきたのかと、首を傾げながら取っ手を掴んだ。
そもそも、人避けの結界を張っているのに、そんな場所に侵入できるのは限られている。
カチャっと扉を開くと、予想通りの人の姿を認めた。
「エカチェリーナ、助けて!」
開けるなり飛び込んで来たのは、この国の王太子と婚約したばかりの聖女、ヴェロニカさんだった。
コテンと首を傾げた私に彼女が頼んできたことは、第二王子を救うことをだった。
彼女に同行して、城で私が見たものは…………