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8 騎士一族と黒鉄編
4-0 エルシア、闘技会で疲弊する
今は三部の三回戦目が始まる前。
試合場で審判の人たちが、出場者の確認を行っている最中だった。
ニグラートの確認は超即で終わってしまったので、私は手持ち無沙汰。ひたすら、相手の騎士団の確認が終わるのを待っている。
私はぐぐっと腕を天に向けて伸ばして、身体を大きく広げた。
ふぅ。
多くても、あと三試合。それで終わりだ。
私の斜め後ろにはグレイの姿。
相変わらずの精悍な顔つき。
まぁ、他の人から見たら三白眼で無表情な強面になるんだろうけど、意外とグレイは表情が豊かだ。付き合いの短い人たちは、その違いが分からないのだろう。
無表情に見えても、何かを思案していたり、何かを模索していとり、何かを企んでいたり、何かを…………
て、全部、頭を使って何かの考え事だな。
言い換えれば、何か考えているように見えるけど、何を考えているのか分からないとも言えるかも。
うーん、止め止め。
悪い顔して悪いことを考えているような人にも思えてきちゃうわ。私、グレイ側の人間なのに。
まぁ、ともかくだ。
グレイは私の斜め後ろ、ひたっと付き従うようにして立っている。
立っているだけで威圧感溢れる体躯。
個人的には、細マッチョの方が格好いいとは思うんだけど、グレイの隆々とした筋肉も悪くない。
グレイがそばにいるせいか、私の周りには誰も近寄ってこなかった。
審判を務める人たちは確認が終わると逃げるように走り去って、ニグラートの騎士たちは近寄ってこないどころか視線すら合わせない。
うん、味方なんだから、声援くらい送ろうよ。
ギロッ
あ、グレイか。
グレイが睨んでるから、ダメなのか。
接触禁止を受けたり、入城禁止やニグラートでの大噴出などで、最近、私と会えてなかったグレイ。
学院時代以降は少なくても月二回、会うようにしていたので、そのペースを考えると今回の会えなかった期間の長さはぜんぜん問題ない。
もっとも、新リテラ王国への使節団以降、グレイは私の専属護衛と称してそばにいたり、第三騎士団に出向してきたりと、私と三ヶ月近くずっといっしょに暮らしていたことになる。
実のところ、これほど長くいっしょにいることはあまりない。学院に入る前の集中講義や特訓を受けているとき以来だろうか。
ずっといっしょにいた人間が急にいなくなる。
日常の一部が急になくなるのだ。違和感があったり調子が出なくなる人もいると聞く。
おそらく、グレイが調子を崩しているのも、それが原因のようだった。
ギロッ
グレイは今もなお、敵味方関わらず、視線だけ動かして睨みつけたまま。
あーあ。
今度は、こちらにやってこようとした審判の人が怯んじゃったよ。
あー、諦めてリザルトの方に行ったわ。
「ねぇ、グレイ」
「なんだ、シア」
私はグレイに顔を向けず、逃げ去った審判とリザルトが話をしているのをじーっと見ながら、グレイに話しかけた。
すぐさま、グレイから反応があるが、ギロッと周囲を睨みつけて警戒したままなんだろう。
「なんか、試合前から疲れるからさぁ、少し警戒をゆるめて欲しいんだけど」
「それでシアに何かあったらどうする」
ないから。絶好にないから。
「リザルトのムカつく情報戦のせいで、シアに近寄る不届きな輩が多い。多すぎる」
えっと、それ、半分、私の言動がマズかったせいもあるから。
そう言いたくなるのを、ぐぐぐっと堪える私。
マズい。額から汗が噴き出しそうだ。
「ここは試合場だし、リザルトたちも周りにいるし、何より大観衆に囲まれてるんだし。何か起こしようがないでしょ」
眉間に力を入れたまま、振り向いてグレイに向き合った。
グレイもまた、眉間に力が入ったまま。
かなり怖い顔になっている。
私はグレイに屈むように伝えると、グレイは身体を折り曲げ、私の顔の位置まで、自分の顔を持ってきた。
真正面から目と目が会う。
恋人同士なら、ここでキスでもするところなんだろうけど。
私はグレイの頬を両手で挟んだ。そして、
ムニッ
「!」
驚いた顔をするグレイ。
「マッサージ。ほら、グレイの顔、固まっちゃってるから。眉間もシワが出来てる」
頬に続き、グリグリッとおでこを親指で押すと、グレイは気持ちよさげな顔をした。
私は今この状況になるまでのことを少しだけ、いや、だいぶか。とにかく、振り返ってみた。
闘技会三部の一、二回戦は昨日、今日は三回戦、決勝、そして模範試合が行われる。
三回戦の最初の試合は第一騎士団と第二騎士団の対決だったので、かなりの盛り上がりを見せた。
何を隠そう、闘技会で他騎士団同士試合をまともに見たのはこれが初めて。
リザルトが私の真後ろに陣取って、あれこれ解説してくれたので、分かりやすいことこの上なかったし。
試合自体も三回戦、準決勝に相応しく、両陣営中央の激突から始まり、両翼が遊撃するも抑えたり返したり、手に汗握る展開。
その上、最後のヴェルフェルム団長と第二騎士団のエクィウス団長との一騎打ちは圧巻!
けっきょく、ヴェルフェルム団長がエクィウス団長に押し勝って旗をとり、第一騎士団が決勝に駒を進めることになった。
興奮がおさまらない観客席。
同じく興奮状態で控え室に急ぐ第一騎士団と、がっくりと肩を落として控え室へ戻る第二騎士団。
途中ですれ違った、明暗の差がくっきり分かれた彼らを横目で見ながら、私たちは試合場へ。
第二騎士団とは視線すら合わなかったのに対して、第一騎士団から複数の視線が私に向けられるのを感じた。視線を感じてすくむという類のものではなかったけど、纏わりつくような嫌な物。
思わず、手で振り払うような仕草をしたとたん、
ギロッ
グレイがその視線に反応した。
試合場で審判の人たちが、出場者の確認を行っている最中だった。
ニグラートの確認は超即で終わってしまったので、私は手持ち無沙汰。ひたすら、相手の騎士団の確認が終わるのを待っている。
私はぐぐっと腕を天に向けて伸ばして、身体を大きく広げた。
ふぅ。
多くても、あと三試合。それで終わりだ。
私の斜め後ろにはグレイの姿。
相変わらずの精悍な顔つき。
まぁ、他の人から見たら三白眼で無表情な強面になるんだろうけど、意外とグレイは表情が豊かだ。付き合いの短い人たちは、その違いが分からないのだろう。
無表情に見えても、何かを思案していたり、何かを模索していとり、何かを企んでいたり、何かを…………
て、全部、頭を使って何かの考え事だな。
言い換えれば、何か考えているように見えるけど、何を考えているのか分からないとも言えるかも。
うーん、止め止め。
悪い顔して悪いことを考えているような人にも思えてきちゃうわ。私、グレイ側の人間なのに。
まぁ、ともかくだ。
グレイは私の斜め後ろ、ひたっと付き従うようにして立っている。
立っているだけで威圧感溢れる体躯。
個人的には、細マッチョの方が格好いいとは思うんだけど、グレイの隆々とした筋肉も悪くない。
グレイがそばにいるせいか、私の周りには誰も近寄ってこなかった。
審判を務める人たちは確認が終わると逃げるように走り去って、ニグラートの騎士たちは近寄ってこないどころか視線すら合わせない。
うん、味方なんだから、声援くらい送ろうよ。
ギロッ
あ、グレイか。
グレイが睨んでるから、ダメなのか。
接触禁止を受けたり、入城禁止やニグラートでの大噴出などで、最近、私と会えてなかったグレイ。
学院時代以降は少なくても月二回、会うようにしていたので、そのペースを考えると今回の会えなかった期間の長さはぜんぜん問題ない。
もっとも、新リテラ王国への使節団以降、グレイは私の専属護衛と称してそばにいたり、第三騎士団に出向してきたりと、私と三ヶ月近くずっといっしょに暮らしていたことになる。
実のところ、これほど長くいっしょにいることはあまりない。学院に入る前の集中講義や特訓を受けているとき以来だろうか。
ずっといっしょにいた人間が急にいなくなる。
日常の一部が急になくなるのだ。違和感があったり調子が出なくなる人もいると聞く。
おそらく、グレイが調子を崩しているのも、それが原因のようだった。
ギロッ
グレイは今もなお、敵味方関わらず、視線だけ動かして睨みつけたまま。
あーあ。
今度は、こちらにやってこようとした審判の人が怯んじゃったよ。
あー、諦めてリザルトの方に行ったわ。
「ねぇ、グレイ」
「なんだ、シア」
私はグレイに顔を向けず、逃げ去った審判とリザルトが話をしているのをじーっと見ながら、グレイに話しかけた。
すぐさま、グレイから反応があるが、ギロッと周囲を睨みつけて警戒したままなんだろう。
「なんか、試合前から疲れるからさぁ、少し警戒をゆるめて欲しいんだけど」
「それでシアに何かあったらどうする」
ないから。絶好にないから。
「リザルトのムカつく情報戦のせいで、シアに近寄る不届きな輩が多い。多すぎる」
えっと、それ、半分、私の言動がマズかったせいもあるから。
そう言いたくなるのを、ぐぐぐっと堪える私。
マズい。額から汗が噴き出しそうだ。
「ここは試合場だし、リザルトたちも周りにいるし、何より大観衆に囲まれてるんだし。何か起こしようがないでしょ」
眉間に力を入れたまま、振り向いてグレイに向き合った。
グレイもまた、眉間に力が入ったまま。
かなり怖い顔になっている。
私はグレイに屈むように伝えると、グレイは身体を折り曲げ、私の顔の位置まで、自分の顔を持ってきた。
真正面から目と目が会う。
恋人同士なら、ここでキスでもするところなんだろうけど。
私はグレイの頬を両手で挟んだ。そして、
ムニッ
「!」
驚いた顔をするグレイ。
「マッサージ。ほら、グレイの顔、固まっちゃってるから。眉間もシワが出来てる」
頬に続き、グリグリッとおでこを親指で押すと、グレイは気持ちよさげな顔をした。
私は今この状況になるまでのことを少しだけ、いや、だいぶか。とにかく、振り返ってみた。
闘技会三部の一、二回戦は昨日、今日は三回戦、決勝、そして模範試合が行われる。
三回戦の最初の試合は第一騎士団と第二騎士団の対決だったので、かなりの盛り上がりを見せた。
何を隠そう、闘技会で他騎士団同士試合をまともに見たのはこれが初めて。
リザルトが私の真後ろに陣取って、あれこれ解説してくれたので、分かりやすいことこの上なかったし。
試合自体も三回戦、準決勝に相応しく、両陣営中央の激突から始まり、両翼が遊撃するも抑えたり返したり、手に汗握る展開。
その上、最後のヴェルフェルム団長と第二騎士団のエクィウス団長との一騎打ちは圧巻!
けっきょく、ヴェルフェルム団長がエクィウス団長に押し勝って旗をとり、第一騎士団が決勝に駒を進めることになった。
興奮がおさまらない観客席。
同じく興奮状態で控え室に急ぐ第一騎士団と、がっくりと肩を落として控え室へ戻る第二騎士団。
途中ですれ違った、明暗の差がくっきり分かれた彼らを横目で見ながら、私たちは試合場へ。
第二騎士団とは視線すら合わなかったのに対して、第一騎士団から複数の視線が私に向けられるのを感じた。視線を感じてすくむという類のものではなかったけど、纏わりつくような嫌な物。
思わず、手で振り払うような仕草をしたとたん、
ギロッ
グレイがその視線に反応した。
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