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8 騎士一族と黒鉄編
4-7
近衛騎士団との一戦は、今までとはガラッと変わった物となった。
「グレイは凄いというか、容赦ないね」
見ていて震えが起きるほど。
味方がこうなのだから、相手はもっと震え上がっただろう。
「ま、隊長が元気で殺る気なのはいいことじゃないですか。まぁ、隊長が殺る気だと、悪人ぽく見えるのが難点ですが」
しれっと答えるリザルトも、少し興奮している様子。
「魔物や魔獣相手なら分からなくもないけど、まさか、人間相手でも容赦ないとは思わなかったわ」
私やリザルトが興奮するほどなのだから、観客に至っては興奮し過ぎて、歓声が未だに冷めやらない。
そんな大歓声の中心で、グレイが右手を天に掲げていた。
近衛騎士団との戦いは、相手側のどよめきから始まる。
「メンバーが違うぞ?」
「こんなヤツ、二部に出てたか?」
うん、私のところまで丸聞こえだって。
内緒話はもっとヒソヒソやろうよ。
と、私が思ってしまうほどに、近衛騎士団側からでかい声でざわめきが起こった。試合開始の礼のため、一列に並んだニグラートの出場メンバーを見て。
それは観客側も同じだった。
「二部までと比べて、ごつくないか?」
「あぁ、体格が倍になってるぞ?」
「ロード卿が出てないわ!」
観客側のざわめきを聞き、私の隣に座るフィリアが満更でもない表情をした。
「あたしって人気あるのよねぇ」
「それって、美人な女性騎士だと思われてるからですよ、ロード先輩」
フィリアのさらに隣に座るバルトレット卿が、遠慮ない言葉を浴びせるが、フィリアは気にした風もなく微笑んでいる。まったく。
私は、フィリアとバルトレット卿の掛け合いから、視線を試合場の方へと切り替えた。
今、私がいるのは出場しない参加メンバーが待機する場所。試合場の自分らの陣営に設けられたら席だ。
出場しない参加メンバーの他に、参謀長といった支援メンバーも席に着いている。
「ざわつくでしょうね、三分の二が初顔見せな出場メンバーなんですから」
リザルトがしれっとつぶやいた通り、今回の出場メンバー、グレイを含む六人が一部二部通して出場していないメンバーだったわけで。
「なんで組長さんたちを出場させないのかなー、と思ってたんだけど。とっておき、だったんだね」
「そういうことです」
殲滅隊で、グレイの次にヤバい副隊長さんはニグラートに残留していて、その次にヤバい組長さんのうち、五人が今回出場登録されていた。
なのに、このヤバい人たちは、今まで出番なし。
おかしいなぁ、と思っていたところで、バーーーンと登場させたということになる。
「隊長、組長、班長と全員が精鋭です。負ける気がしませんね」
そう。
グレイの次の次にヤバい組長さん以外の十人は、全員が、グレイの次の次の次にヤバい班長さんだ。
ちなみに、フィリアもバルトレット卿も平騎士なので、今回出番がなく私といっしょに席についている。
「さぁ、始まりますよ」
こうして、近衛騎士団との戦いが始まった。
まず、先手を打ったのはグレイだ。
「オオオオオオオオオオ!」
と雄叫びをあげると同時に、近衛のリノケロン団長が、
「気をしっかり持て!」
と指示をとばす。
リノケロン団長は個人的にグレイのことを知っているのか渋い顔。それでも指示は的確だ。
なぜなら、グレイの雄叫びは相手を怯ませる《威圧》に相当するのだから。
グレイの雄叫びを受けて、リノケロン団長以外の騎士が動きを鈍らせる中、ニグラートの組長と班長がペアを組んで、近衛に突撃する。残りの班長は旗の守り。
グレイは単独で中央に突っ込んでいく。グレイだけ手ぶらで。
「あいつ、手ぶらだぜ?」
「おいおい、剣を忘れたのかよ」
と観客側から揶揄する声が聞こえるけど。
この人たちは知らないんだ。グレイの素手がどんなに凶悪なのかを。
近衛の方はある程度の情報はあるようで、素手でのっしのっしと突進するグレイから、ある程度の距離を取って包囲を試みていた。
狙いはいいけど陣形が悪い。
全員がグレイと同距離を保っている。
「ダメだ! 互い違いになれ!」
リノケロン団長が叫んだときはすでに遅く、
「オオオオオオオオオオ!」
再び放たれたグレイの《威圧》が牙をむいた。《威圧》はグレイを中心として、同心円上に広がっていく。
つまり、全員がグレイと同距離を保ってはいけないのだ。
一瞬で、《威圧》の餌食となって、全員がその場に固まった。そして剣を落とし膝から崩れ落ちる。
この辺はずるいと思う。
私の魔法の《威圧》はダメなのに、グレイの咆哮による《威圧》は使用可だなんて。
「それはそうでしょう。隊長の咆哮による《威圧》を雷に例えるなら、お嬢の魔法陣による《威圧》は燃え続ける炎です」
いやいやいや。グレイの咆哮だって、一撃で終わるわけじゃないから。弱いけど効果は続くから!
ともかく、グレイの《威圧》を受けて同時に動きを止めた近衛騎士を、組長班長ペアが速攻で戦闘不能に追い込んでいく。
中央先頭がすみやかに瓦解したので、鍔迫り合いを繰り広げていた両翼も、自然とニグラートが押していった。
他の近衛に動揺が広がれば、焦りで総崩れになる。そこを狙っていたが、さすがにリノケロン団長も押されっぱなしではなかった。
それまで旗の守りで後方にいたリノケロン団長が、先頭集団の瓦解を見て、中盤まであがる。
それを合図に、先頭の近衛が逆に後方に下がった。
陣形を立て直して、後半戦。といったところか。
下がるとすぐさま、平静を取り戻していく近衛。
近衛はそもそも王族の護衛が専門。攻め込むよりも、守り通すのが得意な騎士の集まり。
半数近くの騎士が戦闘不能に追い込まれてはいるが、まだ、ニグラートと同人数が残っていて、要のリノケロン団長も健在とくる。
「守りを固められたら、時間がかかりそうですね」
リザルトのつぶやきを聞きながら、私は試合場から目を離せないでいた。
なぜなら、
「グレイ!」
グレイが、近衛のリノケロン団長の前に対峙したから。
あっさり終わった前半戦。続く後半戦はこうしてグレイ対リノケロン団長の戦いから、火蓋が切られることとなった。
「グレイは凄いというか、容赦ないね」
見ていて震えが起きるほど。
味方がこうなのだから、相手はもっと震え上がっただろう。
「ま、隊長が元気で殺る気なのはいいことじゃないですか。まぁ、隊長が殺る気だと、悪人ぽく見えるのが難点ですが」
しれっと答えるリザルトも、少し興奮している様子。
「魔物や魔獣相手なら分からなくもないけど、まさか、人間相手でも容赦ないとは思わなかったわ」
私やリザルトが興奮するほどなのだから、観客に至っては興奮し過ぎて、歓声が未だに冷めやらない。
そんな大歓声の中心で、グレイが右手を天に掲げていた。
近衛騎士団との戦いは、相手側のどよめきから始まる。
「メンバーが違うぞ?」
「こんなヤツ、二部に出てたか?」
うん、私のところまで丸聞こえだって。
内緒話はもっとヒソヒソやろうよ。
と、私が思ってしまうほどに、近衛騎士団側からでかい声でざわめきが起こった。試合開始の礼のため、一列に並んだニグラートの出場メンバーを見て。
それは観客側も同じだった。
「二部までと比べて、ごつくないか?」
「あぁ、体格が倍になってるぞ?」
「ロード卿が出てないわ!」
観客側のざわめきを聞き、私の隣に座るフィリアが満更でもない表情をした。
「あたしって人気あるのよねぇ」
「それって、美人な女性騎士だと思われてるからですよ、ロード先輩」
フィリアのさらに隣に座るバルトレット卿が、遠慮ない言葉を浴びせるが、フィリアは気にした風もなく微笑んでいる。まったく。
私は、フィリアとバルトレット卿の掛け合いから、視線を試合場の方へと切り替えた。
今、私がいるのは出場しない参加メンバーが待機する場所。試合場の自分らの陣営に設けられたら席だ。
出場しない参加メンバーの他に、参謀長といった支援メンバーも席に着いている。
「ざわつくでしょうね、三分の二が初顔見せな出場メンバーなんですから」
リザルトがしれっとつぶやいた通り、今回の出場メンバー、グレイを含む六人が一部二部通して出場していないメンバーだったわけで。
「なんで組長さんたちを出場させないのかなー、と思ってたんだけど。とっておき、だったんだね」
「そういうことです」
殲滅隊で、グレイの次にヤバい副隊長さんはニグラートに残留していて、その次にヤバい組長さんのうち、五人が今回出場登録されていた。
なのに、このヤバい人たちは、今まで出番なし。
おかしいなぁ、と思っていたところで、バーーーンと登場させたということになる。
「隊長、組長、班長と全員が精鋭です。負ける気がしませんね」
そう。
グレイの次の次にヤバい組長さん以外の十人は、全員が、グレイの次の次の次にヤバい班長さんだ。
ちなみに、フィリアもバルトレット卿も平騎士なので、今回出番がなく私といっしょに席についている。
「さぁ、始まりますよ」
こうして、近衛騎士団との戦いが始まった。
まず、先手を打ったのはグレイだ。
「オオオオオオオオオオ!」
と雄叫びをあげると同時に、近衛のリノケロン団長が、
「気をしっかり持て!」
と指示をとばす。
リノケロン団長は個人的にグレイのことを知っているのか渋い顔。それでも指示は的確だ。
なぜなら、グレイの雄叫びは相手を怯ませる《威圧》に相当するのだから。
グレイの雄叫びを受けて、リノケロン団長以外の騎士が動きを鈍らせる中、ニグラートの組長と班長がペアを組んで、近衛に突撃する。残りの班長は旗の守り。
グレイは単独で中央に突っ込んでいく。グレイだけ手ぶらで。
「あいつ、手ぶらだぜ?」
「おいおい、剣を忘れたのかよ」
と観客側から揶揄する声が聞こえるけど。
この人たちは知らないんだ。グレイの素手がどんなに凶悪なのかを。
近衛の方はある程度の情報はあるようで、素手でのっしのっしと突進するグレイから、ある程度の距離を取って包囲を試みていた。
狙いはいいけど陣形が悪い。
全員がグレイと同距離を保っている。
「ダメだ! 互い違いになれ!」
リノケロン団長が叫んだときはすでに遅く、
「オオオオオオオオオオ!」
再び放たれたグレイの《威圧》が牙をむいた。《威圧》はグレイを中心として、同心円上に広がっていく。
つまり、全員がグレイと同距離を保ってはいけないのだ。
一瞬で、《威圧》の餌食となって、全員がその場に固まった。そして剣を落とし膝から崩れ落ちる。
この辺はずるいと思う。
私の魔法の《威圧》はダメなのに、グレイの咆哮による《威圧》は使用可だなんて。
「それはそうでしょう。隊長の咆哮による《威圧》を雷に例えるなら、お嬢の魔法陣による《威圧》は燃え続ける炎です」
いやいやいや。グレイの咆哮だって、一撃で終わるわけじゃないから。弱いけど効果は続くから!
ともかく、グレイの《威圧》を受けて同時に動きを止めた近衛騎士を、組長班長ペアが速攻で戦闘不能に追い込んでいく。
中央先頭がすみやかに瓦解したので、鍔迫り合いを繰り広げていた両翼も、自然とニグラートが押していった。
他の近衛に動揺が広がれば、焦りで総崩れになる。そこを狙っていたが、さすがにリノケロン団長も押されっぱなしではなかった。
それまで旗の守りで後方にいたリノケロン団長が、先頭集団の瓦解を見て、中盤まであがる。
それを合図に、先頭の近衛が逆に後方に下がった。
陣形を立て直して、後半戦。といったところか。
下がるとすぐさま、平静を取り戻していく近衛。
近衛はそもそも王族の護衛が専門。攻め込むよりも、守り通すのが得意な騎士の集まり。
半数近くの騎士が戦闘不能に追い込まれてはいるが、まだ、ニグラートと同人数が残っていて、要のリノケロン団長も健在とくる。
「守りを固められたら、時間がかかりそうですね」
リザルトのつぶやきを聞きながら、私は試合場から目を離せないでいた。
なぜなら、
「グレイ!」
グレイが、近衛のリノケロン団長の前に対峙したから。
あっさり終わった前半戦。続く後半戦はこうしてグレイ対リノケロン団長の戦いから、火蓋が切られることとなった。
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