運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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8 騎士一族と黒鉄編

4-8

 実のところ、リノケロン団長との戦いはグレイが不利だ。

 リノケロン団長が長剣を構えているのに対して、グレイは素手。
 向こうはグレイの間合いの外からグレイに攻撃を当てられるのだ。グレイの方は相手の間合いに踏み込んでいかないと攻撃が当たらない。

 万が一の時には魔剣を出せるとしても、心配になる。グレイのことだ。魔剣は極力、使わないでおくに違いない。

「どうしよう。グレイが危ない」

「どう見ても、危ないのはリノケロン団長の方でしょう」

「どうしよう。グレイが死んじゃう」

「どう見ても、魔獣の牙や爪の方が、リノケロン団長の剣よりヤバいと思いますよ」

 心配で心臓がバクバクしている私の横から、リザルトの冷めた声。

「剣はただの鉄ですが、牙や爪には毒があったりしますから」

「だから、なんだって言うのよ?!」

「魔獣相手に素手なんですから、剣を持ったリノケロン団長くらい、素手でもどうってことありません」

「だとしても!」

 相手は頭の良いリノケロン団長だ。どんな作戦でくるのか、心配になる。心配になるとどんとん心配は膨らんでくるもので、私の心臓はバクバクし続けていた。

「それに手ぶらじゃないでしょう。いざとなったら、魔剣を出せますから」

「それはそうだけど!」

 リザルトの冷静な指摘にも、私の心配は少しも萎むことがない。バクバクは続く。

 心配してバクバクしながらグレイを見守っているくらいなら、いっしょに隣で戦った方がいい。私は強くそう思ったのだった。




 後半戦は、グレイとリノケロン団長を中心として始まり、息をするのも忘れるくらい、際どい攻防となっていた。

 長剣で間合いを武器にグレイを攻めるリノケロン団長。グレイは団長の長剣をすんでのところでかわして、隙を狙う。

 が、その時。

 一瞬の隙を狙われ、グレイに長剣が振り下ろされた。

 動きやすさを重視して軽装のグレイ。長剣なんかが当たれば大怪我だ。ダメ、グレイ!


 ガシン!


 金属が打ち合う音がして、グレイが手の甲で剣を弾く。

「良かった。鉄甲、はめていたんだ」

「隊長なら、鉄甲なくても素手で受け止めますよね?」

 隣のリザルトが何か言ってるけど、私にはグレイの戦いを目で追う以外のことをする余裕が、まるでなかった。

 心臓は相変わらずバクバクバクバク、大きな音を立てている。

 長剣を受け止めた鉄甲がギリギリと軋んでいると思ったら、グレイが鉄甲を付けてる側の手の力をふっと抜く。

 その拍子にバランスを崩す、リノケロン団長。

 追いかけるようにして、グレイが剣を叩き落とそうとすると、構え直してまたもや切りかかってくる。

 どの動作も当たれば大ケガ、一瞬でも気が抜けない。

 またもや、団長がバランスを崩し、グレイが右の拳で殴りかかった。

 と、その時!

「グレイ!」

 グレイのがら空きの左腹部めがけて、剣がすっと伸びる。

 カイエン卿! いつの間に!

 グレイの右拳はリノケロン団長の剣にガシッと当たっていて、身動きが取れない。そこをカイエン卿に狙われた。マズい。ヤバい。

「グレイ、避けて!」




 バキィィィィィィィン!




「え? 剣が折れた?」

「ま、隊長なら、あのくらいやりますよね」

 グレイの左腹部を狙って突進してきたカイエン卿の剣。グレイは、その剣の腹を左手の甲で殴りつけたのだ!

 グレイの左手には指ぬきの革の手袋。鉄甲はない。

 殴りつけられた剣は腹から折れて、


 ザクッ


 と、地面に突き刺さった。

 あまりのことに、動きを止めるカイエン卿。リノケロン団長の方も、

「素手で折るのか?!」

 と、驚きの声を上げる。

 カイエン卿、フィリアにも剣を折られてたな、これで二度目か。
 学習しないものだな、と言ってあげたいところだけれど、誰が思うだろうか。素手で近衛の剣が折れるだなんて。

 しかし、予想できない事態が起きたとしても動きを止めたのは、マズかった。

 グレイは一瞬でも動きを止めた二人の首に、すっと両腕を伸ばすと、そのままむんずと掴んで、


 ガンッッッッ


 と地面に叩き伏せる。

 これを合図に、今度はニグラートが一斉になだれ込んだ。近衛の旗に向かって。




 ワァァァァァァァァァァァ!




 大歓声の中、こうしてニグラートは勝利した。

 終わってみると、時間としてはそれほど経っておらず、あっさりとした勝利となったのだった。




「ふぅ、心臓に悪い」

「だから言ったでしょう、大丈夫だって」

 観戦に力が入りすぎて、手も足もがくがくしている私に対して、リザルトが遠慮ない言葉を浴びせてくる。ツラい。こんなに心配したのに、文句を言われるなんてツラい。

「殲滅隊は全員、魔剣士なんです。隊長クラスの魔剣士なら、自分の身体に魔力を溜めて防御するとか出来るんですよ。とっさに剣くらい弾きます」

 リザルトの容赦ない話は続く。

「まさか、お嬢。忘れてたんですか?」

 こくん、と頷く私。

「お嬢だって出来るじゃないですか」

 またもや、こくん、と頷く私。

 そうだった。

 魔力そのもので身体の外側を覆って身体を守る。通常の魔剣士は、剣でこれをやって、剣の威力をあげるのだけれど、それの応用だ。

 出来る、というか、私の場合は意識しないでもやってるらしい。意識してなかったから忘れてた。

 忘れてあんなに心配した自分が恥ずかしくなってくる。

「だって。グレイが心配だったから」

「そういうことは隊長に直接、言ってあげてください」

 必死になって弁解する私にリザルトはそう言って、穏やかに笑うのだった。




「俺のシアに、これ以上、つきまとうんじゃねぇぞ」




 試合終了の挨拶が終わり、グレイを出迎えにいくと、聞こえてきたのがこの台詞。

 グレイが人間にも容赦ないことが分かった直後にこれだ。言われてる相手はカイエン卿だった。しかも、魔剣を突きつけられている。

 何をやったよ、カイエン卿。

 母親のヴェルフェルム団長からの指示だとしても、グレイと対立してまで、指示を守る事なんてないだろうに。

「あれ? グレイ、握手は?」

 何気なく近づいて、何気なく声をかける私。

 普通なら、この場では互いの健闘を称えて握手とかしてるはずだ。

「俺のシアに求婚しようとしたヤツと、握手なんて出来ると思うか?」

「まぁ、とにかく。お疲れさま。グレイ、凄かったね」

 これ以上、グレイをここに置いておいてはいけない。

 私の本能がそう叫ぶので、私はグレイの手を引き、そそくさと控え室に向かう。

 向かう途中で視界の端に見えたカイエン卿の顔は、どこかしらホッとした物が滲んでいるようにも見えたのだった。
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