運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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4 聖魔術師の幻影編

2-10

「レティーティア・レクペラス様とエンデバート卿がお見えです」

 ソニアの専属護衛が困った顔をした。

「メッサリーナ様ではなくて?」

 対してソニアは憮然とした顔。

 レティーティア殿が来るなんて聞いてない。

 まぁ、魔術師長のメッサリーナ殿でも副魔術師長のレティーティア殿でも、どちらでもいいけど。それより分からないのがエンデバート卿が来ていることだった。

「どうして、エンデバート卿が?」

 騎士たちは首を捻る。

 レティーティア殿の護衛を兼ねて、なんだろうか。それとも。

 私は嫌な予感がした。

「ともあれ、いつまでもお待たせしてはいけませんわね」

 ソニアの一声で、私たちは席を立ち、扉の方へと向かう。そこにはソニアの専属護衛の言葉の通り、レティーティア殿とエンデバート卿が待っていた。

 しかも立たせたまま。

 まぁ、いいか。この人たちも好きで迎えに来てるわけだし。

「魔術師長は他の方の迎えに出向いているので、私、副魔術師長のレティーティア・レクペラスと、騎士隊長のバルシアス・エンデバートが参りました」

 レティーティア殿の流れるような言い訳を右から左へと文字通り聞き流すソニア。

「あら、ま、た、エンデバート卿ですか」

 あまりのしつこさに視線も言葉もトゲトゲしい。

「短い間ですが、仲良くしていただけたらと」

「明後日には帰国しますから、本当に短い間だけですわね」

「ハハハ。まったくです。短すぎて名残惜しくなりますよね」

「いえ、別に」

 ツンとした表情を崩さず、ばっさりと言ってのけると、エンデバート卿はうっと言葉に詰まった。

「ソニア、キツい」

「ソニア、エグい」

 それから、黙り込んでしまったエンデバート卿と視線を合わせることもなく、レティーティア殿の後についていく。

 エンデバート卿は何か私に言いたげな雰囲気を出すだけ出して、無言のまま。移動して、昨日、最初に見学した金冠のあるところへとやってきた。

 そして。

 予行練習が始まった。




「あれ、嫌な感じがする」

 金冠の主となる儀式の練習、と銘打ってはいるけど、つまりは、魔導具との契約をする段取りの説明と、実際にどうやるかの練習だった。

 昨日は遠くから見た金冠を、今日は近くで見る。

 そうして口から出た感想が「嫌な感じがする」というもの。

 ただの直感ではあるけど、実はかなり重要。魔力の質が合わないことが原因で嫌な感じを受ける場合があるから。

 性質が合わないもの同士での契約なんて、出来たものではない。なので、見て、触れて、どう感じるか。魔術師はしっかりと見極める。
 魔導具が魔術師を選ぶように、魔術師だって魔導具を選ぶわけだから。

 そもそも、魔術師から気に入られないと主にはなれないし、気に入られて、魔導具から手を差し伸べられても、相性が悪いと思ったら手を取らなくていい。

 魔導具と魔術師の契約は昔からそういうものだ。

 で。

 金冠と呼ばれている魔導具との、間近での対面を終え、グラディアの魔術師のたちは一斉に感想を口にした。

「なんだか、すーーーっと身体に染み込むような感覚がありますわね」

 とはダイアナ嬢。

「私は何も感じませんでした。でも、キラキラと金色に輝いていて綺麗ですね」

 と続いてフォセル嬢が感想を口にする。

「ソニア、なんか感じたー?」

「いえ、まったく」

「身体に染み込む、なんて言ってるけど、ホントーかなー?」

 ソニアとリュリュ先輩は何も感じなかった模様。

 そして私は…………。

「エルシア、どうしましたの? ずいぶんとムスッとした顔をしてますけど」

 最悪な気分だった。

 ソニアの言うとおり、かなり不機嫌な顔をしているんだと自分でも思う。

「痛かった」

「「え?」」

「バチンて来た」

「え、金冠に触ったら?」

「触ろうとしたら」

 みんなと同じように、金冠と呼ばれている物に触れようと右手を伸ばしたとたん、手のひらに弾けるような衝撃と痛みを感じたのだ。

 右の手のひらを見ると、うっすら赤くなっている。

 私は両手のひらを合わせるようにして、さすった。

「え、まさかの拒否反応?」

「痛かったから、触らなかった」

「ならば、明日のお披露目会。エルシアは観覧側にいた方が良さそうですわね」

「うん」

 それに、近くで見ても、金冠は金色に見えない。どう見てもあれは銀色だ。

 銀色の金冠なんてあり得るんだろうか。

 色のことは誰にも言えないまま、主となる儀式の段取りの説明は続いた。




 すべての説明が終わり、代表してダイアナ嬢(立候補)が予行練習を行って、講習会が終了した。

「これで講習会は終わりです。お疲れさまでした」

 レティーティア殿が綺麗に一礼する。相変わらず透明感溢れる美貌で、年齢不詳の美しさを撒き散らしている。

「やった、これで自由時間!」

 終わったと同時に騒ぎ出すリュリュ先輩は、美しいものより美味しいもの派。
 早速王都巡りに出掛けようと、金冠があるこの場所から出ようとしていた。

 そんなリュリュ先輩に、メッサリーナ殿から声がかかる。

「王都観光に行かれるのでしたら、こちらの騎士を同行させます。ふだん、王都の警備も行っておりますので、案内もできますから」

「個人で行っちゃいけないのー?」

「安全な街ですが、危険がゼロだとは保証がありませんので」

「それなら、専属護衛を連れていけば大丈夫でしょー!」

 リュリュ先輩は元気に答えて、チラリとリンクス隊長を見た。

 はーっとため息をついて、リンクス隊長がリュリュ先輩を見返す。

「おい、俺のことじゃないよな?」

 凄みのある声を張るリンクス隊長に対して、リュリュ先輩も負けてはいない。

「暗黒隊は昨日、遊びに行ったよねー、行ってるよねー? 私が一生懸命講習受けてるときにさー」

 リンクス隊長の強く突っ込まれたくない部分を、ピンポイントでつつきまくる。ギクッとするリンクス隊長。

「うぐぐぐぐ」

 歯噛みをして、しばし無言となった。

「一人はこちらの騎士の同行をお願いします。何かあったとき、すぐ対処も出来ますので」

「まー、一人くらいなら、いいよー」

 リュリュ先輩を新リテラ王国の騎士と行かせるかどうか、悩んだ末、

「分かった分かった、俺も同行する!」

 リンクス隊長が折れたようだ。

 ダイアナ嬢とカス王子はルキウス殿下の案内で、王都観光に行くらしい。
 グリプス伯もそちらに同行するようで、手で胃の辺りを押さえていた。お疲れさま、グリプス伯。

 ソニアは疲れるからと留守番を早々に宣言。

 私は、その留守番予定のソニアから、どうするかを尋ねられた。

「エルシアも行きますの?」

「クラウドと約束してるから。流行りのスイーツがあるんだって」

 ウキウキ感を抑えきれず、つい弾んだ口調になる私。

 そこへ。

「エルシア!」

「あ、クラウド」

 クラウドが声をかけてきた。

「さっそく行くか?」

「うん」

 そしてもう一人。

「あのー」

 今まさに出掛けようとしている私たちに、声をかけてくる人物がいた。
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