運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
210 / 590
4 聖魔術師の幻影編

3-1

「結構です。暇じゃないので」

 私は声の主に対して、振り向かずにそのまま答えた。

「まぁ、そう言わずに。お二人でどうですか?」

 ルキウス殿下から入れ知恵でもされたのか、私が失礼な態度を取っていても、声に動揺が見られない。怯む感じもない。

「案内は昨日していただきましたわ」

 足音が私たちの真横、私からもソニアからも見えるところにやってきて止まる。

 ソニアの返事を受けて、さらにその人物は声を発した。

「昨日以外のところもご案内できます」

「はい?」

 ここでようやく、私は声の方に顔を向けた。声の主は予想通りのエンデバート卿。

 私たちの真横で片膝をつき、捨てられた子犬のような表情でこちらを見ている。

「王族の宮、お披露目会の会場など重要部には立ち入りが限られますが、私どもが自由に動ける部分は基本的に大丈夫です」

 そう言って、エンデバート卿は口をつぐんだ。なぜか目を潤ませて、じーっと私の返事を待っている様子。どうやら演技指導までされたようだ。

 正直、鬱陶しい。

 フォセル嬢のようなかわいい女子がやるならともかく、こんな屈強な騎士にやられてもな。

 ただ、エンデバート卿の言葉で思い出したことがあった。




 私はエンデバート卿を放置した状態で、うーんと少し考え込んだ後、身体をソニアの方へと乗り出す。

「(ねぇ、ソニア)」

「(なんです?)」

 エンデバート卿には聞こえない、でも、ソニアや私の護衛たちには聞こえる、そんな絶妙な小声で、私は呼びかけた。

「(私、王太子殿下から、お願い事されてたんだよね)」

 聞こえてるのに返事をしないソニア。

 王族、それも王太子殿下からのお願い事。勘のいいソニアはすでに分かったのだろう。
 すぐに返事をしないのが、何かを察した証拠だった。

 とはいえ、ここでソニアを巻き込まないといけない理由が私にはある。

 私はエンデバート卿を見習って、じーっとソニアを見ると、ソニアは手にしたカップをいったん卓上に置いてから、はぁーっと息を吐いた。眉はギュッと寄っている。

 そして、渋々と口を開いた。

「(…………嫌な予感しかしませんわね。聞きたくありませんけど、そのお願い事というのは?)」

「(金冠を探ってこい、だって。適任だからって。すっかり忘れてたけど)」

 ソニアが表情を消す。

 元々、表情豊かな方ではないけど、さらに人形のような顔つきになった。

 ソニアの頭の中では、金冠のお披露目会で『金冠』を探らないといけない理由について、あれこれ推察しているはずだ。

 私自身、金冠の価値というか凄さがよく分かっていないので、どうして他国の魔導具まで確認する必要があるのかが、今一つ分からない。

 自分たちを守護する魔導具を大事にするだけでは、いけないのだろうか。

 それとも、金冠というのは、こちらを守護する魔導具を害して、グラディアに敵対するものなんだろうか。

 その辺がよく分からない。

 セラフィアスに聞いてみても、セラフィアス自身が他の魔導具に対して興味がなさ過ぎて、満足のいく回答はなかったし。

「(エルシア、どうしてこのタイミングで思い出しますの?)」

「(騎士が自由に動ける部分には入れるって話で、なんとなく思い出しちゃって)」

 ソニアが嫌そうな顔をする。

 うちの王太子殿下だけでなく、ルビー大公女にも頼まれてたんだよね。すっかり忘れてたけど。

「(その話、他の方はご存知ですの?)」

「(グリプス伯と私の専属護衛の二人は知ってる)」

 コクッと首の動きだけで返事をするグレイとバルザード卿。

「(なるほど。こちらへ移動している最中の話からも、何かあるとは思っていましたけれど)」

 そうだった。

 移動している車の中で、カス王子やダイアナ嬢がおまけで、私が本物の主役、使節団の中心だ、と臭わせるような物言いがグリプス伯からあったんだっけ。

「(私一人だと反省文の心配があるから、ソニアもいっしょだと安心なんだよね)」

 反省文という単語にピクッと反応するソニア。ソニアも私の反省文の多さにギョッとした一人。

 これでソニアも、同行が嫌だとは言えないだろう。

「はぁぁぁ。エンデバート卿、魔術師や騎士の訓練場は見学できますの?」

 ソニアが折れた。

 よしっ。

 これで、この面倒なエンデバート卿と二人で、ってこともなくなった。
 なんなら、エンデバート卿がソニアに気を取られている隙に、いろいろ探索してしまえる。

「王宮の周りも見てみたいんだけど」

 ソニアに続いて、私はエンデバート卿に声をかけた。

 パッと表情を明るくするエンデバート卿。うん、分かりやすい。護衛騎士隊の隊長がいいのか、これで。

「もちろんです。ご案内しますね!」

 エンデバート卿は明るく返事をすると、周りにいた騎士たちに指示を出し始めた。

「それではすぐ、行きましょう!」

 気が変わる前にと思ったのか、そこからの行動はとても早かった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
【 お知らせ 】 先日、近況ボードにも お知らせしました通り 2026年4月に 完結済みのお話の多数を 一旦closeいたします。 誤字脱字などを修正して 再掲載をするつもりですが 再掲載しない作品もあります。 再掲載の時期は決まっておりません。 表現の変更などもあり得ます。 他の作品も同様です。 ご了承いただけますようお願いいたします。 ユユ 【 お話の内容紹介 】 “何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

えっ私人間だったんです?

ハートリオ
恋愛
生まれた時から王女アルデアの【魔力】として生き、16年。 魔力持ちとして帝国から呼ばれたアルデアと共に帝国を訪れ、気が進まないまま歓迎パーティーへ付いて行く【魔力】。 頭からスッポリと灰色ベールを被っている【魔力】は皇太子ファルコに疑惑の目を向けられて…

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

契約婚しますか?

翔王(とわ)
恋愛
クリスタ侯爵家の長女ミリアーヌの幼なじみで婚約者でもある彼、サイファ伯爵家の次男エドランには愛してる人がいるらしく彼女と結ばれて暮らしたいらしい。 ならば婿に来るか子爵だけど貰うか考えて頂こうじゃないか。 どちらを選んでも援助等はしませんけどね。 こっちも好きにさせて頂きます。 初投稿ですので読みにくいかもしれませんが、お手柔らかにお願いします(>人<;)