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4 聖魔術師の幻影編
3-1
「結構です。暇じゃないので」
私は声の主に対して、振り向かずにそのまま答えた。
「まぁ、そう言わずに。お二人でどうですか?」
ルキウス殿下から入れ知恵でもされたのか、私が失礼な態度を取っていても、声に動揺が見られない。怯む感じもない。
「案内は昨日していただきましたわ」
足音が私たちの真横、私からもソニアからも見えるところにやってきて止まる。
ソニアの返事を受けて、さらにその人物は声を発した。
「昨日以外のところもご案内できます」
「はい?」
ここでようやく、私は声の方に顔を向けた。声の主は予想通りのエンデバート卿。
私たちの真横で片膝をつき、捨てられた子犬のような表情でこちらを見ている。
「王族の宮、お披露目会の会場など重要部には立ち入りが限られますが、私どもが自由に動ける部分は基本的に大丈夫です」
そう言って、エンデバート卿は口をつぐんだ。なぜか目を潤ませて、じーっと私の返事を待っている様子。どうやら演技指導までされたようだ。
正直、鬱陶しい。
フォセル嬢のようなかわいい女子がやるならともかく、こんな屈強な騎士にやられてもな。
ただ、エンデバート卿の言葉で思い出したことがあった。
私はエンデバート卿を放置した状態で、うーんと少し考え込んだ後、身体をソニアの方へと乗り出す。
「(ねぇ、ソニア)」
「(なんです?)」
エンデバート卿には聞こえない、でも、ソニアや私の護衛たちには聞こえる、そんな絶妙な小声で、私は呼びかけた。
「(私、王太子殿下から、お願い事されてたんだよね)」
聞こえてるのに返事をしないソニア。
王族、それも王太子殿下からのお願い事。勘のいいソニアはすでに分かったのだろう。
すぐに返事をしないのが、何かを察した証拠だった。
とはいえ、ここでソニアを巻き込まないといけない理由が私にはある。
私はエンデバート卿を見習って、じーっとソニアを見ると、ソニアは手にしたカップをいったん卓上に置いてから、はぁーっと息を吐いた。眉はギュッと寄っている。
そして、渋々と口を開いた。
「(…………嫌な予感しかしませんわね。聞きたくありませんけど、そのお願い事というのは?)」
「(金冠を探ってこい、だって。適任だからって。すっかり忘れてたけど)」
ソニアが表情を消す。
元々、表情豊かな方ではないけど、さらに人形のような顔つきになった。
ソニアの頭の中では、金冠のお披露目会で『金冠』を探らないといけない理由について、あれこれ推察しているはずだ。
私自身、金冠の価値というか凄さがよく分かっていないので、どうして他国の魔導具まで確認する必要があるのかが、今一つ分からない。
自分たちを守護する魔導具を大事にするだけでは、いけないのだろうか。
それとも、金冠というのは、こちらを守護する魔導具を害して、グラディアに敵対するものなんだろうか。
その辺がよく分からない。
セラフィアスに聞いてみても、セラフィアス自身が他の魔導具に対して興味がなさ過ぎて、満足のいく回答はなかったし。
「(エルシア、どうしてこのタイミングで思い出しますの?)」
「(騎士が自由に動ける部分には入れるって話で、なんとなく思い出しちゃって)」
ソニアが嫌そうな顔をする。
うちの王太子殿下だけでなく、ルビー大公女にも頼まれてたんだよね。すっかり忘れてたけど。
「(その話、他の方はご存知ですの?)」
「(グリプス伯と私の専属護衛の二人は知ってる)」
コクッと首の動きだけで返事をするグレイとバルザード卿。
「(なるほど。こちらへ移動している最中の話からも、何かあるとは思っていましたけれど)」
そうだった。
移動している車の中で、カス王子やダイアナ嬢がおまけで、私が本物の主役、使節団の中心だ、と臭わせるような物言いがグリプス伯からあったんだっけ。
「(私一人だと反省文の心配があるから、ソニアもいっしょだと安心なんだよね)」
反省文という単語にピクッと反応するソニア。ソニアも私の反省文の多さにギョッとした一人。
これでソニアも、同行が嫌だとは言えないだろう。
「はぁぁぁ。エンデバート卿、魔術師や騎士の訓練場は見学できますの?」
ソニアが折れた。
よしっ。
これで、この面倒なエンデバート卿と二人で、ってこともなくなった。
なんなら、エンデバート卿がソニアに気を取られている隙に、いろいろ探索してしまえる。
「王宮の周りも見てみたいんだけど」
ソニアに続いて、私はエンデバート卿に声をかけた。
パッと表情を明るくするエンデバート卿。うん、分かりやすい。護衛騎士隊の隊長がいいのか、これで。
「もちろんです。ご案内しますね!」
エンデバート卿は明るく返事をすると、周りにいた騎士たちに指示を出し始めた。
「それではすぐ、行きましょう!」
気が変わる前にと思ったのか、そこからの行動はとても早かった。
私は声の主に対して、振り向かずにそのまま答えた。
「まぁ、そう言わずに。お二人でどうですか?」
ルキウス殿下から入れ知恵でもされたのか、私が失礼な態度を取っていても、声に動揺が見られない。怯む感じもない。
「案内は昨日していただきましたわ」
足音が私たちの真横、私からもソニアからも見えるところにやってきて止まる。
ソニアの返事を受けて、さらにその人物は声を発した。
「昨日以外のところもご案内できます」
「はい?」
ここでようやく、私は声の方に顔を向けた。声の主は予想通りのエンデバート卿。
私たちの真横で片膝をつき、捨てられた子犬のような表情でこちらを見ている。
「王族の宮、お披露目会の会場など重要部には立ち入りが限られますが、私どもが自由に動ける部分は基本的に大丈夫です」
そう言って、エンデバート卿は口をつぐんだ。なぜか目を潤ませて、じーっと私の返事を待っている様子。どうやら演技指導までされたようだ。
正直、鬱陶しい。
フォセル嬢のようなかわいい女子がやるならともかく、こんな屈強な騎士にやられてもな。
ただ、エンデバート卿の言葉で思い出したことがあった。
私はエンデバート卿を放置した状態で、うーんと少し考え込んだ後、身体をソニアの方へと乗り出す。
「(ねぇ、ソニア)」
「(なんです?)」
エンデバート卿には聞こえない、でも、ソニアや私の護衛たちには聞こえる、そんな絶妙な小声で、私は呼びかけた。
「(私、王太子殿下から、お願い事されてたんだよね)」
聞こえてるのに返事をしないソニア。
王族、それも王太子殿下からのお願い事。勘のいいソニアはすでに分かったのだろう。
すぐに返事をしないのが、何かを察した証拠だった。
とはいえ、ここでソニアを巻き込まないといけない理由が私にはある。
私はエンデバート卿を見習って、じーっとソニアを見ると、ソニアは手にしたカップをいったん卓上に置いてから、はぁーっと息を吐いた。眉はギュッと寄っている。
そして、渋々と口を開いた。
「(…………嫌な予感しかしませんわね。聞きたくありませんけど、そのお願い事というのは?)」
「(金冠を探ってこい、だって。適任だからって。すっかり忘れてたけど)」
ソニアが表情を消す。
元々、表情豊かな方ではないけど、さらに人形のような顔つきになった。
ソニアの頭の中では、金冠のお披露目会で『金冠』を探らないといけない理由について、あれこれ推察しているはずだ。
私自身、金冠の価値というか凄さがよく分かっていないので、どうして他国の魔導具まで確認する必要があるのかが、今一つ分からない。
自分たちを守護する魔導具を大事にするだけでは、いけないのだろうか。
それとも、金冠というのは、こちらを守護する魔導具を害して、グラディアに敵対するものなんだろうか。
その辺がよく分からない。
セラフィアスに聞いてみても、セラフィアス自身が他の魔導具に対して興味がなさ過ぎて、満足のいく回答はなかったし。
「(エルシア、どうしてこのタイミングで思い出しますの?)」
「(騎士が自由に動ける部分には入れるって話で、なんとなく思い出しちゃって)」
ソニアが嫌そうな顔をする。
うちの王太子殿下だけでなく、ルビー大公女にも頼まれてたんだよね。すっかり忘れてたけど。
「(その話、他の方はご存知ですの?)」
「(グリプス伯と私の専属護衛の二人は知ってる)」
コクッと首の動きだけで返事をするグレイとバルザード卿。
「(なるほど。こちらへ移動している最中の話からも、何かあるとは思っていましたけれど)」
そうだった。
移動している車の中で、カス王子やダイアナ嬢がおまけで、私が本物の主役、使節団の中心だ、と臭わせるような物言いがグリプス伯からあったんだっけ。
「(私一人だと反省文の心配があるから、ソニアもいっしょだと安心なんだよね)」
反省文という単語にピクッと反応するソニア。ソニアも私の反省文の多さにギョッとした一人。
これでソニアも、同行が嫌だとは言えないだろう。
「はぁぁぁ。エンデバート卿、魔術師や騎士の訓練場は見学できますの?」
ソニアが折れた。
よしっ。
これで、この面倒なエンデバート卿と二人で、ってこともなくなった。
なんなら、エンデバート卿がソニアに気を取られている隙に、いろいろ探索してしまえる。
「王宮の周りも見てみたいんだけど」
ソニアに続いて、私はエンデバート卿に声をかけた。
パッと表情を明るくするエンデバート卿。うん、分かりやすい。護衛騎士隊の隊長がいいのか、これで。
「もちろんです。ご案内しますね!」
エンデバート卿は明るく返事をすると、周りにいた騎士たちに指示を出し始めた。
「それではすぐ、行きましょう!」
気が変わる前にと思ったのか、そこからの行動はとても早かった。
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