運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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4 聖魔術師の幻影編

3-3

 騎士隊の訓練場は五分とかからず到着した。

 どうやら、最初から騎士隊を見学させるつもりだったようだ。
 でなければ、こんな最適経路で騎士隊のところへ来れていないと思う。

 騎士隊を見せて「やっぱり新リテラ王国の騎士は素敵だね」と思わせたかったようだけど。

 騎士隊の訓練場に着いて十分後、

「やっぱりうちの騎士は最高だね」

 その場にいた騎士の、四分の一ほどを叩き伏せたバルザード卿を見て、私は思わず感想を口にしてしまった。

 それにしても、新リテラ王国の騎士隊と私の専属護衛との対決だなんて、いきなりの展開。

「ところで、凄いことになったね」

 また一人、バルザード卿が相手の騎士を叩き伏せた。

 訓練用の剣を使った対戦なので、人死は出ないだろうけど。木で作られた模擬剣とはいえ、魔剣士が使えば十分、殺傷力のある武器となる。

 バルザード卿は剣術大会で優勝した実力者ではあるものの、経験年数的には、騎士に成り立ての新人。
 魔剣士を目指して修練していても、まだまだ魔剣士としての戦いは出来ていなかった。

 それなのに、いい調子で相手の騎士を倒していく。自分のところの騎士が勝ちまくるこの爽快感。とても気分的がいい。

「て、エルシアが余計な口を挟んだからでしょう」

 ソニアは私の隣でジロリと私を睨む。

「えー、本当のことしか言ってないし」

「だからって。新リテラ王国の騎士隊に向かって、うちの後援家門の騎士の方が強いと言い切るのも、どうなのかしら」

「えー、本当のことだし」

 十分前の私はそんなことを言ってしまったのだった。向こうの騎士たちが、とてもとてもうざかったので。




 騎士隊の訓練場は、グラディア王国の修練施設と似たようなところだった。
 広い闘技場や試合場のような場所ではなく、狭めで、個別の練習が出来るような場所になっている。

 私たちが着いたときには各々が剣の素振りをしたり、打ち込みをしたり、または組になって申し合わせ稽古をしたり。
 グラディアの騎士団の訓練よりも少しのんびりした感じで、個別の訓練が行われていた。

 ところがである。

 私たちが、というより、エンデバート卿が私たちを連れて到着するやいなや、彼らは一斉に動きを止め、エンデバート卿に向かって待機の姿勢。

 エンデバート卿が見学する私たちを丁寧に紹介している合間にも、少しざわざわとして会話が漏れ聞こえてきた。

「どっちが、バルシアス卿のお相手だ?」

 と。

 値踏みされるような目で見られて、私もおもしろくない。

 ましてや、ぴったり隣に寄り添うグレイが、漏れ聞こえる会話を耳にして、ピクッ、ピクッと動いていた。
 理由は分からないけど、グレイの機嫌がもの凄く悪い。長いつきあいなので雰囲気で分かった。

 背中越しに、後方に控えるバルザード卿を見ると、

「(お嬢、隊長がヤバい)」

 うん。 それは私も今まさに感じてる。言葉にしなくても分かるから。
 だからといって、私に縋るような視線を送っても無駄なんだけど。

 ふーっとため息を吐いて、視線を前に戻すと、今度はがやがやと賑やかな様子。

 見ると、手のひらを上に向けて、私に手を差し出すエンデバート卿がいた。

「?」

 なんだろう、この手。

 私は眉を寄せ、目の前に差し出された手をじーっと見る。

 滑り止めがついた鹿革の手袋をつけた手は、大きくがっしりとしていた。剣士の手だ。
 普通の騎士は、利き手の方が少しだけ大きく、腕も少しずつだけ太いので、手を見れば、相手の利き腕やどんなタイプの剣士なのかが分かるんだそうだ。

 その論拠からすると、エンデバート卿は右利きで、魔力をほとんど感じられないので、魔剣士や魔導騎士ではない純粋な騎士のようだった。

「レディ。お手を」

 そう言って、コクリと首を傾けるエンデバート卿。自分の左手を差し出してくる。

 あ。

 これはエスコートか。

 差し出された左手の上に、右手を重ねると、周りの騎士たちから沸き上がる歓声。

 けれども、目の前のエンデバート卿は微妙な顔をしている。

 そして、それは私の隣にいたソニアも同じだった。

「エルシア、何をしていますの?」

「え? 何って」

 私はエンデバート卿の左手の上に重ねられた右手を見る。

「エスコートでしょ?」

「まぁ、そうですわね」

「だから、手を乗せればいいんでしょ?」

「まぁ、そうですわね」

「だから、手を乗せたんだけど?」

 首を傾げて、今度はソニアの顔を見た。

 やはり微妙な顔のままのソニアは、空いた左手を自分の口元に当てて、大きく咳払いをする。

「そこは、自分の手を乗せるものではなくて?」

 私は再び重ねられた手を見た。

 当然、私の手ではない。

 差し出されたエンデバート卿の左手に乗せられているのは、ソニアの右手。
 もちろん、私が右手首を掴んで乗せてあげたもの。

 なんで、自分の手ではないかと言うと、

「私の右手は専属護衛に守られてるから」

「エルシア、意味が分からないわ」

 当然、私の右手は、グレイの左手に握りしめられていた。離そうと思っても離してくれないんで、これは私のせいではないと言いたい。

「どう見ても、エンデバート卿はエルシアに向けて手を差し出してましたよね?」

「まぁ、とにかく、周りの騎士も喜んでるし」

 そうなのだ。

 エンデバート卿がソニアの手を取ったとたんに起こった大歓声。

「ついに、バルシアス卿にお相手が」

「隣国のご令嬢らしいぞ」

「おめでとうございます、バルシアス卿」

 続く騎士たちの喜びの声に、私はわざとエンデバート卿がここに連れてきたことを、再度、認識した。

 最初からこれが目的だったんだ。

 大勢の同僚の騎士たちの前でエスコートをして、仲の良いところを見せること。

「(お嬢、周りの騎士たちも共謀ですよ。最初の計画では、お嬢だけ、誘い出すつもりだったんでしょうね)」

 バルザード卿が囁く。

「(なのにカエルレウス嬢も同行した上、手を取ったのもカエルレウス嬢だったから)」

「(ソニアが狙っていたお相手だと勘違いして、喜んでるのか)」

 ソニアの右手をエンデバート卿に譲り渡してしまったことを、内心、謝りつつ、私は周りの反応を冷静に窺った。

 エンデバート卿の方は、自分から手を差し出しておいて、さすがにレディの手を振り払うわけにもいかないので、ソニアの手を握ったまま。
 ソニアもソニアで、乗せられてしまった手を振り払うわけにもいかないので、そのまま。

 周りの賑やかさと比べて、明らかに微妙な空気が二人の間に漂っている。

 そして、ぎこちない空気感を、周りの騎士たちは読み切れていなかった。

 エンデバート卿もそうだけど、ここの騎士たちはおおむね腹黒属性とは正反対の性質を持つ。空気を読むという、高等技術を持つ騎士は見るからに少ない。

「まったく、どうしようもないなぁ」

 この空気感の原因を作った私が言うのもなんだけど。

 状況を読み切れない残念な騎士たちを前にして、私も油断してしまったようで。

 今まで掴んでいたソニアの右腕を離すと、私の口からポロッと言葉がこぼれた。

「うちの家門の騎士の方が、よっぽど優秀だわ」

 これを聞き咎めた一部の騎士が騒いで、こちらも売り言葉に買い言葉のように応戦してしまい、最初の状態に戻る。

 ともあれ、今のところ、バルザード卿は連戦連勝。負ける気がしない。

 しかしここで、予想だにしない事態が生じた。
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