運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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5 覆面作家と水精編

1-8

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 団長室に戻りかけたところで、私に声をかけてきたのはクラウドだった。

 赤茶髪で赤眼のイケメンで、第一隊のフェリクス副隊長と同じく、フェルム一族に名を連ねている。
 母親は第一騎士団の団長、兄の一人は第一騎士団、もう一人は近衛騎士団の騎士。騎士に囲まれて育ったらしい。

 母親であるヴェルフェルム団長、近衛騎士の兄カイエン卿とは、私も会ったことがある。
 カイエン卿の方は、王女殿下の専属護衛を務めているので、ちょくちょく顔を合わせては話しかけられるので、かなり鬱陶しいけど。

 一番下の弟であるクラウドは、そんな立派な親と兄に囲まれて、そこそこ窮屈な生活をしていたようだ。
 周りが優秀だとどうしても比べられたり、引き合いにだされたりするから。さぞかし、大変だったんだろう。

 クラウドはそんな環境でも腐ることがなかったようだった。

 軽そうに見せておいて陰ではコツコツ努力するタイプなので、今回の副隊長昇格の裏でも、本人の努力がかなりあったことを私は知っている。

 第三騎士団の第五隊とはいえ、半年での副隊長昇格は異例の早さ。
 親の威光とか運が良かったとか、妬み半分で言う人もいるのに、クラウド自身は反論をすることもなかった。
 仕事ぶりで見返すつもりだろうけど、そこら辺の真面目さも認められての昇格だったんだろうな、と思う。

「なんだか、久しぶりだな。隊が変わるだけでこんなに会わないなんてな」

 本当に、ここ最近はまったくクラウドに会っていない。

 団長室への報告は正副隊長昇格が行うところばかりなのに、第五隊だけ、リーブル嬢が報告しに来ているので、余計に会う機会が減っている。

 同じ隊なら毎日顔を合わせるのが当たり前なことだし、さらに、第五隊のときはクラウドが私の見張り役だったので、いっしょに行動させられてもいた。

 もっとも、これは私が第五隊の専属になった後の話。

 専属になる前は、第三から第五までの三つの隊の魔術師として働いていたので、クラウドとそうそう会うことはなかったはずだ。私はそれを指摘する。

「そうだね。でも、私が第五隊の専属になる前もこんなものじゃなかった?」

「そうだったかな」

「そうだったと思うけど」

「「………………………………。」」

 ここで会話が途切れる。

 だって、私の方はとくにクラウドに用事はないし、話題もないし。こちらから何か聞くこともないし。

 しいてあげれば、リーブル嬢のことをなんとかしてもらいたいという程度。

 リーブル嬢の恋人で上司のクラウドに、リーブル嬢を悪く言うような話題を出すことに躊躇もあって、私から話すことがなくなる。クラウドも同様に黙ったまま。

「とくに用事がないなら、団長室に戻りたいんだけど。まだお昼も食べてなくて。団長室で食べたいから」

 私がバルザート卿の持つテイクアウトのお昼を示すと、クラウドは弾かれたように喋り出した。

「あ、その。そうそう、ミライラのことなんだけど」

 クラウドが絞り出してきたのは、リーブル嬢の話。

「リーブル嬢なら、第五隊の騎士たちと楽しそうにお昼を食べてるから。まだ、食堂にいるわよ」

 私はさきほどの食堂の中での会話を思い出して、ムスッとする。

 それに、せっかく私が気遣って話を出さないでいてあげたのに、クラウドの方から話題にするなんて。

 もしかして、リーブル嬢の困った動向を話すと見せかけて、リーブル嬢を自慢する恋バナとか?

 恋バナなら話は別だ。

 他人の恋バナは、ちょっとだけ、うん本当にほんのちょっとだけ興味があるので、聞いてあげてもいいかな。

「いや、そうじゃなくて」

 うん? 何がそうじゃない?

「ミライラから、団長室で冷たくされてるって相談されていて」

 はぁ。またその話か。

 私はうんざりしてきた。

「だって。それは彼女が、平気でルールを破るようなことをするからでしょ?」

「エルシア、ミライラのこと、手伝ってあげてくれないか? まだルールにも馴染めていないんだ。気遣ってあげるだけでもいいし」

 プチっ

 はぁぁぁぁぁぁあ?! 馴染めてないなら、馴染む努力をすべきだよね。分からないことは覚えれば良いだけだし。

 それを、人を呼び止めて、手伝え? 気遣え?

「なんで私が?」

 あまりにも過保護な発言に、思わずキレかける。バルザート卿がビクッとしたところを見ると、魔力が少し漏れたようだ。

 グレイもだけど、私も感情が荒ぶると、魔力コントロールが疎かになる。いけないいけない、気をつけないと。

 気を引き締め直す私に、クラウドは神経を逆なでするようなことばかり、言い募ってくる。

「だって後輩だろ?」

「クラウドのね」

「エルシアの後輩でもあるだろ?」

「他の代と交流ないから知らないって」

「そんな言い方ないだろ!」

 ついにクラウドまでも感情的になり出した。

「エルシア、冷たくないか? ミライラは研修途中で早期配属されたんだから、知らないことが多いんだ。俺たちが気遣ってやらないと、いけないだろ!」

 そちらがそう来るなら、私は迎え撃つだけ。

「知らないことが多くて大変だと思うのなら、早期仮配属なんてやめればいいだけでしょ?
 しっかり研修を受けてから改めて配属された方が、本人にとってもいいんじゃないの?」

「だから、その言い方が冷たいっていうんだよ! 組織なんだから、お互い気にかけながら仕事するものだろ?」

「クラウドの言い分は分かったわ」

 そして、私の言い分と平行線だということも、よく分かった。わざわざ口にしないけど。

「なら、」

「別に、クラウドから冷たい人間だと思われても結構だから。どうせ、私はそのうちここからいなくなるんだし」

 そうだ。

 私は王都の騎士団でずっと働くわけではない。そのうち辺境に戻るんだ。

 カッとなって熱くなった心が急速に冷えていく。

「エルシア!」

「話はこれだけだよね。それじゃ」

 私は片手をあげて、話を切り上げた。

 これ以上、話を続けていてもおもしろくないし、うっかり杖でクラウドを殴りそうだ。

 まぁ、私に殴られるようなら、思いっきり笑ってやる。

「なんで、そんな。くそっ」

 くそって言いたいのはこちらの方だわ。
 言わないけど。

 けっきょく、クラウドとはケンカ別れのようになった。気分は最悪だった。
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