運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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6 辺境伯領の噴出編

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 三聖の展示室の案内係が終わった後は、いつものように、闘技会に向けての特訓に参加した私たち。

 いつものようだったのは特訓が始まる直前までだけで、今日の特訓はいつもとまったく違うものになっていた。

「ほら、そこ! 連携が取れてないぞ!」

「魔術師! 防御はもう少し早く発動できないのか?!」

「お前ら、盾だろ。死ぬ気で防げ!」

 矢継ぎ早に繰り出される怒号、叱咤。止まることのない模擬試合。空気もぴりついている。

 いくら実戦形式だとはいえ、いつもと段違いに苛烈だったのだ。

「ユースカペル君、いつも以上に、気合いが入ってるなぁ」

 ユースカペル副団長だけが。

「団長、呑気なこと言ってないで。副団長を止めてください。みんな、バテてしまいます」

 ケニス隊長がヴァンフェルム団長に助けを求めるくらいの猛特訓で。

 私は早い段階でダウンし、クラウド先輩も中盤でついていけず、屋内訓練場の壁に背中をつけて肩で息をしている。

 意外とフェリクス副隊長は元気だ。あのユースカペル副団長のしごきにも、普通についていってる。

 騎士団の中で第一隊は最精鋭。フェリクス副隊長は第一隊所属の精鋭だということを、私は改めて実感した。




 後からやってきたヴァンフェルム団長は、そんな猛特訓の様子をちらっと見るや、訳が分からないという表情。

「いったい、急にどうしたんだい?」

 予定外の猛特訓に困惑している。

 もっとも、予定外の猛特訓に困惑しているのはここにいる全員だけど。

 団長の登場を確認すると、ユースカペル副団長は手を挙げて合図を送った。猛特訓の中断と休憩の合図だ。参加者全員から安堵のため息が漏れ出て、すぐさま、ぴりついた空気が和んでいく。

 と同時に、会話に活気が戻ってきた。

「あれ? 団長は知らないんですか?」

「優勝候補の騎士団、なんか事情があるとかで、参加人数が最少記録だって話を聞きましたよ?」

 この話、私もお昼に聞いたんだけど。出所も不明だし、内容も胡散臭いし、何の意図があっての話なのかも分からない。

 つまり、非常に怪しい話なのよね。

 クラウド先輩にも言われてるから、私はこんな怪しい噂話は気にもとめなかったのに、世の中、そうでない人はけっこういるみたい。

 俺も俺もと、自分が聞いた話を自分の手柄の話のように、あちこちから声が上がり始めた。

「いくら強い騎士だとしても、さすがに二人はマズくないですか?」

「あれ? 俺が聞いたのは魔術師だけでチームを組むってヤツだったぞ?」

 ほらほら、食い違ってる話が出てくる。

 これぞ、怪しい話の証拠。

「それで、そんなガセ情報にユースカペル君は乗っかっちゃったのかなぁ?」

 さすがにヴァンフェルム団長は、怪しい話に乗せられることはなく、いつもよりも冷静だった。

 いつもなら呑気に乗っちゃうものね、この団長。

「ガセ情報なんですか?」

 と、私が改めて質問をすると、

「そうやって、本当とも嘘とも言えない情報をまき散らすのは常套手段なんだ、どの騎士団も」

 と、平然と答えが返ってくる。

「え? どの騎士団も?」

 引っかかりを感じて気になる部分を繰り返す私。と、団長は、てへっとばかりに舌を出した。

「まさか、うちも?!」

 ついつい大声を出してしまった私を、咎めることもなく、団長は「常套手段だからなぁ」とただ言うだけ。

 いったい、第三騎士団はどんな噂を流したのよ。
 私の耳に入ってないだけ? それとも…………。




 一人で頭を抱えて混乱する私の隣では、ヴァンフェルム団長とユースカペル副団長が、なにやら真剣に話をし始めた。

 ケニス隊長やクラウド先輩もいる。

「それで、ユースカペル君。特訓をさらに厳しくした真意は?」

「バルザードに関する情報が複数、流れてるんですよ」

 私はピタリと動きを止めた。

 顔を上げると、ユースカペル副団長と視線がぶつかる。ユースカペル副団長の顔は真剣そのものだった。あまりの真剣さに息がつまる。

 バルザード卿の話なら、昼間、三聖の展示室の見学会に参加していた二人も話していたっけ。クラウド先輩が「気をつけろ」と言っていたのは、こういうことだったのか。

「俺が聞いた話では、」

 ユースカペル副団長がそう切り出すと、一気に噂話を並べ立てる。

「バルザードが大噴出に巻き込まれて死んだ、グレイアドの怒りを買って殴られ大ケガをした、大噴出後に騎士人生が嫌になって結婚退職、突然悟りを開いて放浪の旅に出た」

 噂話、たくさんありすぎ。

 ていうか、

 殴られて大ケガ以外は突拍子もなさすぎて、信憑性にかけるよね?

「それで?」

「バルザードの話ばかりです。つまり、グレイアドから目をそらせるためじゃないかと」

 いや、そこでそうくる?

 ユースカペル副団長の推理の方が、突拍子のなさでは上回っているように感じて、私は少し引いた。

「一理あるかもしれないけどなぁ」

 腕組みして唸るヴァンフェルム団長に、我慢が出来ず。

「あの、バルザード卿なんですけれど」

 私は昼間聞いた話を伝え、

「だから、大ケガをしたが一番、信憑性があると思うのですが」

 と締めくくった。




「あぁ、なるほどなぁ」

「これは確定だな」

 私の話を聞いた団長たちの反応は、私の想像とは違った。かなり。

 誉められるとまではいかなくても、良い情報だと思ってもらいたかったのに、ちょっとがっかりする。

 がっかりな私の肩を、団長の声が優しく叩いた。

「バルザード君のことは、正式な報告が上がっているんだよ、フォセル君」

「え? 正式な報告?」

「そうだ。それによると、大噴出の事後処理の最中に『不慮の出来事』に巻き込まれたことになっている」

「え? でもものは言いようなのでは?」

 バルザード卿がルプス卿の怒りを買って殴られたことだって、ある意味、不慮の出来事だと言えた。

 見学会でだってあの二人、バルザード卿のことを『運がなかった』と言っているから、話が繋がらないこともない。

「グレイアドに殴られたなら、もっと別な書き方をするだろうな」

 と団長。

 で、けっきょくのところ。

 バルザード卿の消息は分からないまま、闘技会を迎えることになるのだった。
 憶測が憶測を呼んで、話に尾ひれがたくさんついたのは言うまでもない。

 ユースカペル副団長の推察通りだったのかどうかは、最後まで分からずじまいだった。
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