運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

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「と、いうようなことがあったんだよね」

 私は話を終えて、芳醇な香り立つお茶を口に含んだ。気持ちぬるめのお茶は、その風味を損なわずに私の喉を潤してくれる。

 庭園は秋バラが咲き誇り、バラの濃厚な香りに包まれていた。

 春もこの庭園でお茶を飲んだけど、香りは春とは比べものにならないほど。

 よく晴れた秋空、少し乾燥した空気が、バラの香りを少し薄くさせているはずなのに、むせかえるほどの香りである。

 今、私たちがいるのは庭園の片隅にある四阿だった。
 ここを使うのは初めてなのに、バラの香りのせいか、いただいているお茶のせいか、はたまた、テーブルに並べられているタルトのせいなのか、どこか懐かしい感じがして。いつものお茶会より、くつろげているように思う。

 私の話を聞き終えたこの国の第一王女デルティウン・グラディア殿下と、カエルレウス公爵令嬢と第一騎士団所属魔術師との肩書きを合わせ持つソニアの二人は、目をパチパチとさせていた。

「へぇぇぇぇぇぇ」

「エルシアから魔力をまったく感じないのは、そのような理由からですのね」

「そういうこと」

 私は澄まして答える。

 ソニアは私の親友でもあるので、私のことは名前も呼び捨て。同じように、私もソニアラートの愛称、ソニアと呼び捨てだった。

 二人とも、《魔力隠蔽》には詳しくなかったようで、興味津々で私の話の続きを待っている。待っていられても、これ以上の話はないんだけど。

「《魔力隠蔽》といって、三聖の主クラスはみんな、やってることだから」

 にしても、ソニアはさすが。私と首席を争ったほどの実力の持ち主なので、他人の魔力もそれなりに感じ取れるようだ。

 でも、待って。

「ソニア。私に魔力を感じないのに、私が杖を持っていたり、魔法を使ってたりして不思議に思わなかったの?」

 私の質問にきょとんとした顔をするソニア。しかし、それも一瞬のことで普段の顔を戻り、手にしたお茶を口に運ぶ。

「まぁ、エルシアですから」

「え、そんな理由?」

 他に理由なんてないだろう、という顔で私を見返すと、ソニアは話を切り替えた。

「ところで、王女殿下に砕けた言葉遣いでよろしいんですの?」

 ソニアの質問に、私だけでなく王女殿下も動きを止める。

「お披露目会があるから」

 しぶしぶ答える私。美味しいお茶まで渋くなりそうだ。

「今度のお披露目会のことですわね。それなら逆に敬語なのでは?」

 うん、答えたくないけど、答えても良い内容。ここで直接答えておいた方がいいんだよね。後で他の人から聞かされたら、ソニアだっていい気分はしないと思う。

 後で他の人から聞かされたからといって、私とソニアの関係が崩れるとは思わないけど、私だったら直接聞けた方が良いと思うので。

 なので、またもやしぶしぶ答える。肩をすくめながら。

「私の継承権も公表されたんだよね」

「そうなの! エルシアったら、わたくしに出自を隠してたのよ!」

 すかさず、口を挟む王女殿下。

 継承権というのは他でもない。『王位継承権』のこと。

 私のお母さまのお母さま、つまり、現ルベル公爵夫人は、前国王の実の妹、元王女殿下だ。
 私のお母さまは現国王の従妹にあたり、その娘である私の代まで、継承権が与えられているそうな。

 そんな話を王太子殿下直々に、延々と聞かされて。ルベル公爵家やリーブル家と復縁する必要はないから、王位継承権の承認だけはやって欲しいとお願いされてしまったのだ。面倒くさいことに。

 王太子殿下からのお願いは、ほぼ、命令に近い。

 なんなら継承権を放棄しますよ、と言ったのに、こちらについてはガン無視どころか怖い目で睨まれてしまう。

 仕方なく、手続きやら、王族と高位官僚だけ集まる場での承認式やら、諸々のことを半日で詰め込まれてやらされた。面倒くさいことに。

 陛下も王太子殿下も、グレイが忙しい隙を狙っての行動なのがよーく見て取れる。

 公表はされたが、形式上の公表という形を取ってくれたようで、暗黙のなんとやら扱いなのは変わりなさそう。

 大きく変わったのは、正式に王族扱いとなること。暗黙のなんとやらが、公式な暗黙のなんとやらになるのが一番の利点だと言える。

 王族の婚姻は面倒くさいことになるんだけど、すでに婚姻済み(書類上)なので、これは問題なし。継承権は私までなので、子どもが出来ても問題なし。
 この辺のことも考慮して、陛下はさっさと私とグレイの婚姻届を承認したようだった。

 うん、グレイに難癖つけられて暴れられるのが一番、怖いからね。

 王女殿下の『出自を隠していた』発言を聞いて、ソニア、少し、考えるそぶりを見せ、想定外の話を持ち出してくる。

「あら、王女殿下。ついに、『エルシア』呼びの承認を得たんですのね」

 そこ? 食いつくのそこ?

 私としてはちょっと意外というかなんというか。

 継承権の話や出自の話に食いついてくるかと思って、身構えていたのに、肩すかしをくらった気分。

「そうなの! わたくしのことは『デルティ』と呼んでもらう予定よ!」

 私が肩すかしをくらっている間に、王女殿下はとんでもないことを言い出す。

 身を乗り出して、もの凄い勢い。

「え、それはちょっと」

 王女殿下のことを『デルティ』と呼び捨てにする勇気がない。小心者の私を許してほしい。

「あなたねぇ!」

「それで、エルシア。継承権とはどういうことですの?」

 いいタイミングでソニアが話題を変えた。継承権の話、興味がないわけではなかったようだ。

 それに。

 カエルレウス公爵家には、私の王位継承権の情報が伝わっていない、仮に伝わっていたとしてもソニアの耳には入っていないことが窺える。

「あー、私の祖母にあたる人が前国王の妹でね、それで私にもギリギリ継承権があるんだって」

「聞いた聞いた聞いた?! そんな話、わたくし一切、聞いてなかったのよ! ソニアラート嬢も、初耳でしょう!」

 私の説明にあわせて喋る王女殿下。

「あら。わたくしは、そうでないかと薄々気づいておりましたけれど」

 の話を秒でぶった斬るソニア。

「「え」」

 の返しを聞いて驚きの私たち二人。

「エルシアの出自が分かれば、王族の血を引くことは分かりますでしょ」

 ソニアは、当然のことのように、表情一つ変えず。

「それに、新リテラ王国への使節団。杖持ちのエルシアが参加するのはどう考えてもおかしい。女性指名なのに、使節団の団長が第二王子殿下だったのもおかしい。
 でも、エルシアが王族というのなら、話は繋がりますわ」

 新リテラ王国への使節団の時の話のからくりも、ぴたりと見破っていた。

 対して王女殿下は、

「何が繋がるかさっぱり分からないわ!」

 という残念な有り様。ソニアほど分からなくてもいいから、普通程度には分かる人になってもらいたい。

「それより、エルシア。大丈夫ですの?」

「大丈夫って、何が?」

「エルシアが王位継承権持ちだと知られれば、コバエが寄ってくるのではありませんの?」

「あぁ、それなら大丈夫だから」

 うん、書類上はすでにグレイの奥さんになっていることが、こんなところでも役に立つなんて。

 足元をすくわれる心配もなく、安心してコバエを潰せる。

 そう思うと心が少し軽くなるのだった。
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