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7 王女殿下と木精編
1-0 エルシア、王女殿下の愚痴に付き合う
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王女殿下とソニアと三人でのお茶会の翌日。
むせかえるほどバラの香り漂う庭園がとても懐かしく思えるような場所に、私は連れてこられていた。
「なんで、私がこんなところに」
つくづく、場違いだと思う。
なのに私を連れてきた張本人は至って平然としていて、それが、私の胸の中のもやもやしたものを余計に駆り立てた。
「ルベラス魔導公も関係者だからな」
「こういう時だけ魔導公扱い」
「仕方あるまい、れっきとした王族だしな。今日はよろしく頼むよ、ルベラス魔導公」
私の返事を待つこともなく、私の手を取ったまま室内に入る。
ガタッ
騎士団本部とは比べものにならないくらいの荘厳さを持つこの場所は、会議場と呼ばれるところだ。
ガタガタッ
会議場そのものの造りはもちろん、場内の室内装飾や机、椅子などの調度品まで、至る所が艶やかで煌めきを放っている。
騎士団の会議室とは大違いだ。
そもそも、部屋の規模からして違うのだから、仕方がないか。
手を取られて、すすっと歩きながら、静かに場内を窺う。騎士団本部の会議室の二倍はありそう。なのに、座席数は半分以下。うん、空間がもったいない。
この座席数なら、四分の一の広さで十分だろうに。
ガタッ
私はさきほどからガタガタと音を出している者を見た。
だだっ広い会議場の少ない座席を占めている者たちだ。使い慣れているだろうに、イスをガタガタさせて、モゾモゾと動いている。
あぁ、私と王太子殿下が入室したから、立ち上がったのか。
にしても、ガチガチに緊張しているように見えるのは気のせい?
「あぁ、立たなくて良い。席について楽にしていてくれ」
王太子殿下が声をかけても座らない人たち。
「そんな不思議そうな顔をするな。彼らも慣れていないんだよ」
「慣れていない?」
「ここは貴族の会議場だからな」
おや?
その言い方だとあのガチガチな人たちは普段、ここでは会議をしてないような言い方になる。
「彼らは実務担当者だから、普段は会議室や彼らの担当部署の片隅などで、打ち合わせを行っているんだ」
「え? 今回の会議もそこでいいんじゃないですか?」
「魔導公で王族の君が、世界で初めて公式な行政会議に出席するというのに、そんな心の狭いことをするとでも?」
いやいや、心の狭さと部屋の狭さは比例しないと思うけど?
ニヤリと不敵に笑う王太子殿下の様子を見て、「良かった」「ここで正解だ」「命拾いをした」とヒソヒソする声が聞こえてくる。
いや、絶対、この人が何か圧をかけたんだろう。
そんな目でジロジロと見ても、ハハハと笑って、
「そんな熱い視線を向けられると、グレイアドに殺されるな」
と、ぼやくだけ。
返って周りが、なぜか、グレイの名前に過剰に反応してしまっていて、ガチガチの緊張を解すどころか、余計に固まってしまう始末。
ガチガチに固まった岩のような出席者を後目に、王太子殿下は悠々と席につき、遅れて私がその隣に座る。
すると、ようやく空気を吸うことが許されたかのように、岩が「はぁぁぁぁっ」と息を吐いた。
まさか、今まで呼吸を止めていたんじゃないかと、心配になるような有り様。
ともあれ、全部の岩が人へと戻り、ガタガタと着席して、会議が始まった。
それから、一時間。
会議の内容は、来るお披露目会についての実務者会議のような物だった。
本来なら、各部署で練り上げてから、上の人たちが話し合うような内容。
それをわざわざ各部署の担当者を直接集めて、報告や連絡、細かい部分の摺り合わせを含めて話し合いをさせている。
とくに、王太子殿下や私に意見を求められることもないので、ただただ話を聞いてメモをしたりふむふむ頷いているだけのお仕事。
私は彼らの話し合いをぼーっと聞きながら考えていた。
「各部署で話し合わせてまとめてから、代表者に話し合わせればいいのに、という顔だな」
ゲホゲホゲホ。
なんで、考えてることが分かるの?!
ていうか、話しかけるタイミングが良すぎない?!
スロンやスローナスって、人の心を読み取る能力もあるんだっけ。
私が突然むせたのがおかしかったのか、それとも、私の表情がおかしかったのか、王太子殿下はクククと含み笑い。金髪金眼の威厳のあるイケメンなのに、まるで、悪の大王のよう。
まぁ、嫌な笑い方じゃないので、気分は悪くならないけど。ちょっと薄気味悪い。
いや、心を読むことからして、かなり気味が悪い。
「なぜ、担当者を全員集めて話し合いをさせているか、についてだが」
王太子殿下は今の私の疑問には答えず、さきほどの続きを話し始めた。
「この方が効率が良いからだ。部署ごとで話し合うには、部署が多岐に渡りすぎている。担当者全員集めたところで、大した人数でもない」
「各部署の上の人の承認はいらないんですか?」
「私が承認すれば良い」
「予算の承認は?」
「予算は財務部から直接、担当がつく。ほら、あそこに座っているだろう」
財務部まで担当者を作らせるとは、徹底している。私は王太子殿下の手腕に舌を巻いた。
「つまり、各部署の専門職を選りすぐって集め、臨時で特別部署、というか、特任チームを作っているんですね」
「特任チーム、良い呼び方だな」
なんのつもりもなく口にした『特任』という言葉に、王太子殿下はいたく感激したようだ。
「今から、この集まりの参加者を『特任チーム』と呼ぶことにする」
勝手に命名までするほどに。
まぁ、名前がつこうがつくまいが、参加者がやる仕事に変わりがないわけで。参加者の方からは特段の反応はなく、すんなりと『特任チーム』が作られてしまったのだった。
そして、私にとっての重大な問題は命名でも会議の内容でもなく、
「それで、私まで、お披露目されるんですか?」
ということだった。
むせかえるほどバラの香り漂う庭園がとても懐かしく思えるような場所に、私は連れてこられていた。
「なんで、私がこんなところに」
つくづく、場違いだと思う。
なのに私を連れてきた張本人は至って平然としていて、それが、私の胸の中のもやもやしたものを余計に駆り立てた。
「ルベラス魔導公も関係者だからな」
「こういう時だけ魔導公扱い」
「仕方あるまい、れっきとした王族だしな。今日はよろしく頼むよ、ルベラス魔導公」
私の返事を待つこともなく、私の手を取ったまま室内に入る。
ガタッ
騎士団本部とは比べものにならないくらいの荘厳さを持つこの場所は、会議場と呼ばれるところだ。
ガタガタッ
会議場そのものの造りはもちろん、場内の室内装飾や机、椅子などの調度品まで、至る所が艶やかで煌めきを放っている。
騎士団の会議室とは大違いだ。
そもそも、部屋の規模からして違うのだから、仕方がないか。
手を取られて、すすっと歩きながら、静かに場内を窺う。騎士団本部の会議室の二倍はありそう。なのに、座席数は半分以下。うん、空間がもったいない。
この座席数なら、四分の一の広さで十分だろうに。
ガタッ
私はさきほどからガタガタと音を出している者を見た。
だだっ広い会議場の少ない座席を占めている者たちだ。使い慣れているだろうに、イスをガタガタさせて、モゾモゾと動いている。
あぁ、私と王太子殿下が入室したから、立ち上がったのか。
にしても、ガチガチに緊張しているように見えるのは気のせい?
「あぁ、立たなくて良い。席について楽にしていてくれ」
王太子殿下が声をかけても座らない人たち。
「そんな不思議そうな顔をするな。彼らも慣れていないんだよ」
「慣れていない?」
「ここは貴族の会議場だからな」
おや?
その言い方だとあのガチガチな人たちは普段、ここでは会議をしてないような言い方になる。
「彼らは実務担当者だから、普段は会議室や彼らの担当部署の片隅などで、打ち合わせを行っているんだ」
「え? 今回の会議もそこでいいんじゃないですか?」
「魔導公で王族の君が、世界で初めて公式な行政会議に出席するというのに、そんな心の狭いことをするとでも?」
いやいや、心の狭さと部屋の狭さは比例しないと思うけど?
ニヤリと不敵に笑う王太子殿下の様子を見て、「良かった」「ここで正解だ」「命拾いをした」とヒソヒソする声が聞こえてくる。
いや、絶対、この人が何か圧をかけたんだろう。
そんな目でジロジロと見ても、ハハハと笑って、
「そんな熱い視線を向けられると、グレイアドに殺されるな」
と、ぼやくだけ。
返って周りが、なぜか、グレイの名前に過剰に反応してしまっていて、ガチガチの緊張を解すどころか、余計に固まってしまう始末。
ガチガチに固まった岩のような出席者を後目に、王太子殿下は悠々と席につき、遅れて私がその隣に座る。
すると、ようやく空気を吸うことが許されたかのように、岩が「はぁぁぁぁっ」と息を吐いた。
まさか、今まで呼吸を止めていたんじゃないかと、心配になるような有り様。
ともあれ、全部の岩が人へと戻り、ガタガタと着席して、会議が始まった。
それから、一時間。
会議の内容は、来るお披露目会についての実務者会議のような物だった。
本来なら、各部署で練り上げてから、上の人たちが話し合うような内容。
それをわざわざ各部署の担当者を直接集めて、報告や連絡、細かい部分の摺り合わせを含めて話し合いをさせている。
とくに、王太子殿下や私に意見を求められることもないので、ただただ話を聞いてメモをしたりふむふむ頷いているだけのお仕事。
私は彼らの話し合いをぼーっと聞きながら考えていた。
「各部署で話し合わせてまとめてから、代表者に話し合わせればいいのに、という顔だな」
ゲホゲホゲホ。
なんで、考えてることが分かるの?!
ていうか、話しかけるタイミングが良すぎない?!
スロンやスローナスって、人の心を読み取る能力もあるんだっけ。
私が突然むせたのがおかしかったのか、それとも、私の表情がおかしかったのか、王太子殿下はクククと含み笑い。金髪金眼の威厳のあるイケメンなのに、まるで、悪の大王のよう。
まぁ、嫌な笑い方じゃないので、気分は悪くならないけど。ちょっと薄気味悪い。
いや、心を読むことからして、かなり気味が悪い。
「なぜ、担当者を全員集めて話し合いをさせているか、についてだが」
王太子殿下は今の私の疑問には答えず、さきほどの続きを話し始めた。
「この方が効率が良いからだ。部署ごとで話し合うには、部署が多岐に渡りすぎている。担当者全員集めたところで、大した人数でもない」
「各部署の上の人の承認はいらないんですか?」
「私が承認すれば良い」
「予算の承認は?」
「予算は財務部から直接、担当がつく。ほら、あそこに座っているだろう」
財務部まで担当者を作らせるとは、徹底している。私は王太子殿下の手腕に舌を巻いた。
「つまり、各部署の専門職を選りすぐって集め、臨時で特別部署、というか、特任チームを作っているんですね」
「特任チーム、良い呼び方だな」
なんのつもりもなく口にした『特任』という言葉に、王太子殿下はいたく感激したようだ。
「今から、この集まりの参加者を『特任チーム』と呼ぶことにする」
勝手に命名までするほどに。
まぁ、名前がつこうがつくまいが、参加者がやる仕事に変わりがないわけで。参加者の方からは特段の反応はなく、すんなりと『特任チーム』が作られてしまったのだった。
そして、私にとっての重大な問題は命名でも会議の内容でもなく、
「それで、私まで、お披露目されるんですか?」
ということだった。
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