運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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8 騎士一族と黒鉄編

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 昼休憩が終わった後、私は第三騎士団の団長室に寄って、午後の分の仕事を受け取った。

 いやまぁ、団長室で仕事をしてもいいんだけど。私がここで仕事をしていると、何かと、

「団長、闘技会の陣形のことで話が、あ、エルシアがいるのか」

 とか、

「副団長、作戦の訓練のことで話が、あー、エルシアがいたか」

 とか、まるで私自身が悪い空気のような扱い。

 うん、気分悪いよね。もの凄く悪いよね。

 ストレスがたまること、この上なく、ヴァンフェルム団長と魔術師長のパシアヌス様に許可を取って、別の場所での書類整理をすることになったわけ。

 別場所での書類整理は前例があって、問題なくこなせたので承認も早かった。何より、団長たちは私を追い出したかっただろうし。

 前例というのは少し前のこと。グラディアの第一王女で五強の杖の主、デルティ殿下の特訓の時のことだ。

 あの時は、お披露目会で五強の主だと紹介できる程度まで、デルティ殿下の魔術力の底上げを命じられ、おかげで王女宮に入り浸っていたから。

 しかし、団長室での私の仕事がなくなるわけではなく、代わりにパシアヌス様や事務方さんたちがするにしても溜まる一方。なので、自然と王女宮で書類整理をする羽目になった。

 機密性の低い、業務日誌や巡回報告などの整理作業が主だったため、王女宮で仕事をしていてもぜんぜん問題なし。

 デルティ殿下の特訓は出来るし、書類整理ははかどるし。王女宮にとっても第三騎士団の事務方さんたちにとっても双方メリットがあったので、かなり喜ばれた。

 もちろん、喜んでもらえて、私だって嬉しいし気分もいい。

 むしろ、闘技会直前のこの時期に、ニグラート辺境騎士団を優先する私が、第三騎士団いること自体がダメダメだ。
 気分も悪くなって当然。しかも、双方ともに気分が悪いという最悪さ。

 そんなことを考えながら、私は午後の分の書類の山を受け取って、フィリアとバルトレット卿を引き連れて、またもや、魔導図書館にやってきていた。

 今度は安眠しないよう、気を引き締めておかないとね。

 私はそんなことを決心して、図書館の扉をくぐったのであった。




 そして。

 扉をくぐったとたんにそんな決心は、霧消することになる。

「学習エリアを使っていいって」

「学習エリア?」

「そうそう。四階になっちゃうんだけど、声出しオーケーのエリアなのよね」

 と言われて、リュネットに紹介されたのが件の学習エリアで。図書館内なのに声を出して喋るのがオーケーなのはどうしてなのか、疑問に思ったのは私だけではなかった。

「リュネット嬢、図書館内は静かに本を読んだり調べ物をするところなのではないのかしら?」

 と、フィリアが尋ねてくれた。

 その質問を待ってたとばかりに、ムフフと笑うリュネット。オホンと咳払いをすると、物知り顔で説明をしてくれたのだった。

「つまり、原則として、閲覧エリアは声出し不可、学習エリアは声出し可、ということみたいですね」

「学習エリアは研究のために討論したり出来るように、ということみたいだね」

 リュネットに説明されて連れてこられた学習エリア。

 場所が四階。階段で四階。かなり足腰にくるけど、エリアとしては快適そのものだったのだ。
 こんな快適空間があるなら、最初から教えてくれればいいのに、と思ったことはナイショにしてある。

 いやでも、本当にここは快適だった。四階にあるのを除けば。

 大きな窓もあって明るいし。書架のエリアとは廊下を挟んで離れてはいるけど、遠い距離でもない。

 もっとも四階にあるのは、実用的な魔術書ではなく、名のある魔導具についての記録がほとんどで。わざわざ四階まで上ってきて読む人はいないようは本を見事に詰め込みました、的な本棚だった。
 ここの本を読むのは相当な魔導具マニアな人くらいだと、私でも思う。しかも、四階まで上り下り出来る体力があるマニアさん。いるか、そんな人。

 でもでも、覗いてみるとこれがけっこうおもしろそう。

 なので私は、午後の分の仕事を一時間で終わらせると、残りの時間は読書にあてることにした。

 お披露目会で勢揃いした『五強』や、闘技会のことでユリンナ先輩から話が出た『バイフェルム』。
 ここらへんの記録でもないかと思って、表題を端から確認していくと、あるわあるわ。バイフェルムの話。

「意外と五強の記録は少ないんだね」

「それをいうのなら、三聖の記録はもっと少ないですよ、お嬢」

 書架までついてきたフィリアが横から口を挟んできた。

「三聖の話なら、直接、本人たちに聞けばよくない?」

「お嬢なら可能ですね。五強の話も直接、五強に聞けばいいのでは?」

「あー、その手がなくはないか」

 私は五強の一つ、木精のリグヌムを思い浮かべた。

 五強の中で唯一、ちゃんとした主を持つのが木精のリグヌム。他の五強は仮の主を持つだけなので、ほぼ、人間には従わないと思っていい。

 だとすると、話が通じて、人間の意に添ってくれるのはリグヌムだけ。

 問題があるとすれば、リグヌムに会うにはデルティ殿下と会わなければならないこと。この人がまた、面倒くさくてゾゾッとする。

「でも、デルティ殿下が面倒なのて却下」

「ですよね」

 フィリアが投げてきた話なのに、当のフィリアも投げた後で気がついたのか、私に即同意してきた。王女宮の偽爽騎士でも思い出したのか、嫌そうな顔をして。

 こうして私たちは、五強やバイフェルムに関係する本を集めて、それぞれ学習することにした。




 それから。

「五強のことは少し分かったけど」

「あの時、筆頭殿が言ってた『五界』の意味はよく分からないままですね」

 フィリアもしっかり覚えていたようだ。 

 お披露目会でクズ男がメチャクチャなことをした際、五強を『五界』と呼んでたことを。呼び間違えはあり得ないので、確かに何かの意味がある言葉なんだろうけど。

「どこにも書いてないし。セラフィアスとクラヴィスも知らないんだよね?」

「知らないと言うより」

「興味ないね」

 私は顕現した私の杖二人にも確認する。
 顔を見合わせて肩をすくめる二人。
 二人の答えは、言ってみれば当然の内容。

「鎮圧のセラフィアスが、わざわざ五強なんて気にかけると思うか?」

 傲慢そうな口調でセラフィアスが言うと、

「鍵穴のクラヴィスが、そもそも五強なんて気にしないと思うけど?」

 と皮肉っぽい口調でクラヴィスが続く。

 説明する気もなく、知りもしないなら、何しに顕現したんだろ、この二人。

 私とフィリアは顔を見合わせるのだった。

 そこへ。

「お嬢、大変です! アイツがいます!」

「バルトレット、少し、静かに出来ないわけ?」

 ゼイゼイと息を切らせて、バルトレット卿が書架のところに駆け込んできた。

 フィリアの言い分はもっともだけれど、それにしてはバルトレット卿の様子がただならない。
 何があったのか聞こうとして、フィリアに邪魔される。

「第三騎士団から邪魔者扱いされて居場所がなくなって追い出されたお嬢が、魔導図書館で静かにもくもくと仕事をしているっていうのに」

 言い方、言い方が酷い。

「事実なのは一番最後だけだからね」

 フィリアをジロッと睨んで黙らせて、今度こそ聞こうとしたところで、バルトレット卿の方が先に口を開いた。

「落ち着いてる場合じゃないですよ、アイツが、まだ、いるんです!」

 中途半端に言いたいことだけを言って、バルトレット卿は黙り込む。まぁ、どういうわけか息を切らせていたしね。

「「アイツ?」」

 息を切らせてそれ以上言葉を続けられないバルトレット卿を見ながら、私とフィリアと杖たちが、同時に首を傾げたのだった。
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