運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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8 騎士一族と黒鉄編

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 さぞかし激しい戦いになるのかと期待に胸を膨らませていた、数分前の私に言ってあげたい。

 暇つぶしにもならない、ということを。

「呆気なかったね」

「呆気なさ過ぎましたね」

 私とバルトレット卿の会話は、私たち以外の人との共通のものだった。

 ユースカペル副団長が開始の合図して、すぐのこと。

 一気に距離を詰めたフィリアが大きく剣を振りかぶると、エンデバート卿はサッと身を引く。

 派手な誘いに乗らなかったのはさすがに騎士だな、とは思ったけど。エンデバート卿が良かったのはそこまでだった。

 フィリアの打ち込みが軽いものだと過信したエンデバート卿は、大きく振りかぶって勢いをつけたフィリアの一撃を受け止めると、そこから一歩前に進むたびに打ち込んだいく。

 一撃、二撃、三撃。打ち込まれて後ずさるフィリア。

 だがしかし、フィリアはただ下がるのではなく、上手にいなして相手の勢いを削りながら下がっていた。
 それに加えて、相手の観察も忘れない。焦った様子も見せず、相手の動きの癖を冷静に観察していたのだ。次の一手につなげるために。

 冷静じゃなかったのはむしろ、周りの方だった。フィリアが打ち込まれると、見物している侍女さんたちからキャーキャーと声があがる。

 キャーキャー声が耳障りだったのか、一瞬、渋い顔をするエンデバート卿。

 そこに隙が生じた。
 そしてフィリアはその隙を見逃さなかった。

 偽爽騎士カイエン卿との対決で見せた溜め技を、今度は秒で整え、打ち込んでいく。

 背後に剣を隠して魔力を纏わせてってヤツだ。あれって、隠す必要も時間をかける必要もなかったんじゃ? と思うくらい、瞬時に剣へと魔力を纏わせる。

 しかも、魔力を纏わせたとは感じさせないくらい、自然な動きで剣を振るい、変わりなく打ち込んでいくフィリア。

 エンデバート卿の方は、フィリアの変わらない動きを見て、変わらず同じように剣を受けようとして…………


 ギィィィィィィィィーーーン


 ちょっと嫌な音の後に、


「そこまで!」

 と、ユースカペル副団長の止めの合図が入った。

 見事に刀身が切られて、短くなった柄を持ち、呆然と突っ立っているエンデバート卿。

 そのエンデバート卿に、つまらないものでも見るような、冷たい視線を送るフィリア。

 止めの合図に遅れること数秒。

 ワァァァァァァァァッと沸き立つ。

「フィリアが強すぎるんじゃない?」

「殲滅隊では中の下ってところですよ?」

「え。ちなみにバルトレット卿は?」

「もちろん、下の下です」

 あれ、おかしいな。エンデバート卿、グレイとの対決ではかなり粘っていたと思ったんだけど。

 私が何か考え込んでいたのを何か勘違いしたのか、バルトレット卿がグレイを引き合いに出してきた。

「隊長は、相手の力量に合わせるのがうまいんで」

「なぜ、ここで、グレイの話?」

「え? お嬢、隊長と比べてたんじゃないんですか?」

「いや、まぁ、そうとも言えるけど」

 バルトレット卿の当たらずとも遠からずな質問に、私は言葉を濁しながら答えると、何か納得したのか、バルトレット卿はうんうんと大きく頷き始める。

「隊長は必ず、相手よりちょっと上手、くらいの力で相対するんですよ。それも絶妙に」

「え、そうなの?」

「だから、隊長を挟んで相手の力量を評価すると大変なことになるんです。隊長よりちょっと弱いくらいだなーなんて思って、手合わせしてみたら…………」

「自分より遥かに強かった」

「そういうことです」

 そういえば。

 私は、新リテラ王国で、グレイがエンデバート卿と手合わせした時のことを、徐々に思い出していた。

 あの時は、魔法を使って辺りを探っていたので、探る時間を稼いで欲しかったんだったわ。
 それでグレイにお願いしたんだ、なるべく引き伸ばしてくれって。

 初見の相手に対して違和感を与えることなく、見事に時間稼ぎをしてくれたグレイ。そのグレイの手際の良さというか、実力の凄さを改めて実感する。

「グレイって、私が関わらないところでは、まともなんだよね」

「今のグラディア王国内で、隊長とやり合える騎士はバイフェルムを持つフェルム総騎士団長くらいだと言われていますから」

 それを言うなら逆、『フェルム総騎士団長とやり合えるのはグレイくらい』と言わないといけないところだろう、とは思いつつも、ニグラートの殲滅隊の一員としては思わず聞き流してしまう。
 それほどまでに、私に応じるバルトレット卿の口調は、とても誇らしげだったから。

 ともあれ、こうして意外と呆気なく、エンデバート卿との対決が終わってしまったのだった。




 対決は終わって、山のように集まっていた見物人も少なくなって、という状況だというのに、

「ロード卿は、美しいだけでなく、強さも持ち合わせてるんだな。まさしく、理想の女性だ!」

 などと戯言を言うエンデバート卿のせいで、私たちはなかなかその場を動けないでいた。

 本当になんなんだか、この人。

 それに大丈夫なんだか、闘技会。個人能力でも群を抜いて強くもなく、組織戦もおそらく出来なさそう。
 何のために、ルベル公爵家の騎士団から出場するんだか。
 
 ルベル公爵家もルベル公爵家だ。なんだってまた、わざわざ屋敷に止めてまで、エンデバート卿を出場させようとするのか。

「そこなんですよね、不思議なのは」

 フィリアもバルトレット卿もこの疑問の答えが見つかっていない様子。マウンタ副官辺りなら分かるだろうか。

「さっきの手合わせを見物していた騎士たちが、話していたのを聞いたんですが、ルベル公爵家自体、闘技会に出てくるのは久しぶりのようなんですよ」

 バルトレット卿、ただただ、手合わせを見ていただけではなかったようだ。しっかりと、周囲の会話のチェックまでやっている。

「ともかく、エンデバート卿をどうにかして、帰りたいんだけど」

「ですよね。でも、なんとかなりそうですよ?」

 そう言って、バルトレット卿は背後を振り返った。誰がいるのかと思って、私も同じように振り返る。

 と、そこには大急ぎで私たちのところに駆け寄ってくる人の姿があった。
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