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8 騎士一族と黒鉄編
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「げ」
王太子殿下の執務室から帰る途中のこと。先頭を歩くフィリアが突然、カエルが潰れたような声をあげた。
声だけでなく、表情も、苦いものでも食べたカエルのような物になる。
侍女さんたちが噂する颯爽とした美しさが、一瞬でカエルになった。
フィリアがカエルのようになって、さぞかし、侍女さんたちが嘆くだろう、と思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。
「カエルみたいな声も爽やかね」
「カエルみたいだけれど爽やかで素敵ね」
「カエルみたいでも素敵すぎるわよね」
という声があちこちから聞こえる。
あの偽爽騎士にも聞かせてやりたい、このフィリアの威力を。とはいえ、カエルと爽やかが私には今ひとつ繋がらなくて、非常に困る。
そもそも、爽やかなカエルが想像つかない。カエルってそんなに爽やかな生き物だったっけ?
そんなどうでもいいことを考えている私の目の前に、いつの間にか、フィリアだけでなくバルトレット卿も立ちふさがっていることに、遅れて気がついた。
「フィリア卿!」
立ちふさがる二人の背中の向こう側からは、聞き覚えのありすぎる声。
「ロォォォォォォーードですよ、エンデバート卿」
あ。エンデバート卿か。
フィリア呼びを頭ごなしに否定されてる。
まぁねぇ、許可なくフィリア呼び出来るのは私の特権だしねぇ。
そもそも、本名、フィリアじゃないし。
本名はフィルア・ロード。
フィルアよりフィリアの方がかわいいから、という理由で、フィリアを名乗る元侍女の騎士(女装はデフォルト)。
「いやその、フィ、」
「ロォォォォォォーード卿と呼べますよねぇぇぇ?」
しつこくフィリアと呼ぼうとするエンデバート卿。フィリアに怒られてるし。
「えぇっと、ロード卿」
怒られて言い直してるし。
姿が見えないけれど、先ほどより勢いがない声からすると、シュンとしおれた花のようだ。
そのしおれたエンデバート卿に、生き生きとして爽やかなフィリアが、嫌みったらしく声をかけた。
「エンデバート卿、お披露目会も終わりましたし、本国にお帰りになったのでは?」
「それが! ルベル公爵家からのお誘いで、闘技会に参加することになったのだ!」
「「…………………………はぁ」」
しおれたエンデバート卿が突然、蘇って、そのうえウキウキし始めた。もちろん姿は見えないので、声だけ。
対して、フィリアとバルトレット卿は気の抜けた声。
「つまり、相当な実力者であると?」
しかも相当に実力を疑っている。
「まぁな!」
「エンデバート卿。グラディアの闘技会はただ剣術が上手いだけでは、勝ち目はありませんよ?」
これは嘘でも脅しでもない。
事前の情報戦から戦いが始まるのが、グラディアの闘技会らしいので、新リテラ王国出身のエンデバート卿には、馴染みのない戦いなのではないかと思う。
私もどちらかというと、得意ではない戦い方。だからこそ、参謀がいて作戦を立て指示役が全体の動きを調整する。団体戦というより組織戦なのだ。
「ほほぅ。言ってくれるじゃないか!」
おそらく、エンデバート卿はまるで分かっていない。その証拠に、
「ならば、ここで手合わせはいかがかな? これでこちらの実力を思い知るだろう!」
なんてことを言っちゃってるし。
だから、個人戦じゃなくて組織戦だって言ってるのに。私の心の中で言ってるだけだけど。
「手合わせで、負けた方が勝った方のお願いを聞く、というのでどうだ?」
しかも、余計なことまで約束しようとしてるし。
知らないよ、私。
私は、エンデバート卿とフィリアとバルトレット卿のやり取りを、ただ静かに聞くだけだった。背中越しに。
背中越しだというのに、フィリアとバルトレット卿が、悪い笑みを浮かべているような気がしてならなかった。
そして、場所を移して。
私たちは第三騎士団の中庭っぽいところにやってきていた。
なぜここかというと、第三騎士団共有の鍛錬場だから。誰でも自由に鍛錬が出来る場所で、それゆえ、人の目も多い場所。
エンデバート卿とフィリアが手合わせをする、という話があっという間に広がって、第三騎士団の騎士だけでなく、どこから集まったのか侍女さんたちまで大集合。
フィリア人気、侮りがたし。
「ロード卿、頑張ってくださいませ」
「ロード卿、素敵です」
口々にフィリアを応援する侍女さん。
そこに混じって私も声をあげた。
「フィリア、頑張って!」
「ロード先輩、ガツンといってください!」
もちろん、バルトレット卿も応援する。
審判はユースカペル副団長が直々にしてくれることになった。なんだか、大事になっているような気が。
「いまさら気がついたんですか、お嬢。第三騎士団もこっちのデータ取りですよ」
バルトレット卿が当然のように言う。
「それなら、大勢の前で手合わせなんてしない方がいいんじゃないの?」
「問題ないですよ」
あっさりと答えるバルトレット卿の言葉が終わるか終わらないか、というところで、エンデバート卿とフィリアの手合わせが始まった。
王太子殿下の執務室から帰る途中のこと。先頭を歩くフィリアが突然、カエルが潰れたような声をあげた。
声だけでなく、表情も、苦いものでも食べたカエルのような物になる。
侍女さんたちが噂する颯爽とした美しさが、一瞬でカエルになった。
フィリアがカエルのようになって、さぞかし、侍女さんたちが嘆くだろう、と思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。
「カエルみたいな声も爽やかね」
「カエルみたいだけれど爽やかで素敵ね」
「カエルみたいでも素敵すぎるわよね」
という声があちこちから聞こえる。
あの偽爽騎士にも聞かせてやりたい、このフィリアの威力を。とはいえ、カエルと爽やかが私には今ひとつ繋がらなくて、非常に困る。
そもそも、爽やかなカエルが想像つかない。カエルってそんなに爽やかな生き物だったっけ?
そんなどうでもいいことを考えている私の目の前に、いつの間にか、フィリアだけでなくバルトレット卿も立ちふさがっていることに、遅れて気がついた。
「フィリア卿!」
立ちふさがる二人の背中の向こう側からは、聞き覚えのありすぎる声。
「ロォォォォォォーードですよ、エンデバート卿」
あ。エンデバート卿か。
フィリア呼びを頭ごなしに否定されてる。
まぁねぇ、許可なくフィリア呼び出来るのは私の特権だしねぇ。
そもそも、本名、フィリアじゃないし。
本名はフィルア・ロード。
フィルアよりフィリアの方がかわいいから、という理由で、フィリアを名乗る元侍女の騎士(女装はデフォルト)。
「いやその、フィ、」
「ロォォォォォォーード卿と呼べますよねぇぇぇ?」
しつこくフィリアと呼ぼうとするエンデバート卿。フィリアに怒られてるし。
「えぇっと、ロード卿」
怒られて言い直してるし。
姿が見えないけれど、先ほどより勢いがない声からすると、シュンとしおれた花のようだ。
そのしおれたエンデバート卿に、生き生きとして爽やかなフィリアが、嫌みったらしく声をかけた。
「エンデバート卿、お披露目会も終わりましたし、本国にお帰りになったのでは?」
「それが! ルベル公爵家からのお誘いで、闘技会に参加することになったのだ!」
「「…………………………はぁ」」
しおれたエンデバート卿が突然、蘇って、そのうえウキウキし始めた。もちろん姿は見えないので、声だけ。
対して、フィリアとバルトレット卿は気の抜けた声。
「つまり、相当な実力者であると?」
しかも相当に実力を疑っている。
「まぁな!」
「エンデバート卿。グラディアの闘技会はただ剣術が上手いだけでは、勝ち目はありませんよ?」
これは嘘でも脅しでもない。
事前の情報戦から戦いが始まるのが、グラディアの闘技会らしいので、新リテラ王国出身のエンデバート卿には、馴染みのない戦いなのではないかと思う。
私もどちらかというと、得意ではない戦い方。だからこそ、参謀がいて作戦を立て指示役が全体の動きを調整する。団体戦というより組織戦なのだ。
「ほほぅ。言ってくれるじゃないか!」
おそらく、エンデバート卿はまるで分かっていない。その証拠に、
「ならば、ここで手合わせはいかがかな? これでこちらの実力を思い知るだろう!」
なんてことを言っちゃってるし。
だから、個人戦じゃなくて組織戦だって言ってるのに。私の心の中で言ってるだけだけど。
「手合わせで、負けた方が勝った方のお願いを聞く、というのでどうだ?」
しかも、余計なことまで約束しようとしてるし。
知らないよ、私。
私は、エンデバート卿とフィリアとバルトレット卿のやり取りを、ただ静かに聞くだけだった。背中越しに。
背中越しだというのに、フィリアとバルトレット卿が、悪い笑みを浮かべているような気がしてならなかった。
そして、場所を移して。
私たちは第三騎士団の中庭っぽいところにやってきていた。
なぜここかというと、第三騎士団共有の鍛錬場だから。誰でも自由に鍛錬が出来る場所で、それゆえ、人の目も多い場所。
エンデバート卿とフィリアが手合わせをする、という話があっという間に広がって、第三騎士団の騎士だけでなく、どこから集まったのか侍女さんたちまで大集合。
フィリア人気、侮りがたし。
「ロード卿、頑張ってくださいませ」
「ロード卿、素敵です」
口々にフィリアを応援する侍女さん。
そこに混じって私も声をあげた。
「フィリア、頑張って!」
「ロード先輩、ガツンといってください!」
もちろん、バルトレット卿も応援する。
審判はユースカペル副団長が直々にしてくれることになった。なんだか、大事になっているような気が。
「いまさら気がついたんですか、お嬢。第三騎士団もこっちのデータ取りですよ」
バルトレット卿が当然のように言う。
「それなら、大勢の前で手合わせなんてしない方がいいんじゃないの?」
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