【完結】竜と悪役令嬢だった魔女

六花さくら

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【第二章】馬鹿国王による貧困政治

11.恋と救い

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 王子から相談を受けて、2年の時が経った。

 度々、彼から相談を受ける。
 そして、彼の気持ちの膿を探し出して、会話でそれを吐き出させて、彼はスッキリした顔でお城に帰っていく。

 純粋なジークフリード王子は、私を姉の様に見て慕ってくれる。

 そんな彼を見ていると、私は自分という生き物が恐ろしくなる。

 こんな純粋な子どもを、私は利用しようとしている。
 自分のために、自分だけの幸せのために。
 
 齢をとるほど、世間と私の歯車は外れていって、どんどん私は醜さをまとっていく。

 王子を甘い言葉で利用する私は――まるで悪役令嬢だ。



「ねぇ、ホーエンハイム。恋って何?」
「ぶっ」
 私の唐突な質問に、ホーエンハイムは珈琲をふきだした。

「お前、二十いくつも生きてるんだから、一つや二つ恋したことはあるでしょう?」

「……数百年生きてるバアさんに言われたく――あっ、痛ぇ、ローキックはやめてくれって……ったく。俺も別に世帯を持ってるわけじゃねえから、なんともいえねぇけどさ……」

「ホーエンハイム。お前、モテないの?」

「おうおう、嬢さん。喧嘩売ってんの? この辺じゃイケメン医者で通ってるんでね。モテモテですぜ。あんまゴタゴタ言うとエロいことしますぜ?」

「えろ……下品なこと言わないで。カンパネラに聞かれたらどうするのよ」

「……相変わらず過保護だねぇ」

 いつものように資料や薬草を貰いにきたのだけれど、カンパネラは小さい竜の姿で眠ってしまっていた。

 2年、彼と過ごして気づいたことがある。
 竜というのは夜行性らしい。
 だから、彼は昼間にこうやって竜の姿になって眠りにつく。

 いつか、昼間は寝てもいいのよと言ったけれど、アーさんと過ごす時間が減るのは嫌だからと断られた。

「んで、恋がなにか知りたいって? そりゃあ生物的に見れば、子を残すための錯覚だな。性欲っていう厭らしい欲求の塊を綺麗な言葉で変換したら『恋』になる」

「夢もロマンもない言葉をありがとう」

「だってよ、そんなの真顔で言えるのは嬢さんくらいだぜ? 俺はそんな青臭え時期は卒業したから、正直そんな無垢な質問をぶつけられると困るっつ―の。恥ずかしいったらありゃしねぇ」

「私は何百年も生きてるけど平気よ?」
「青春5周くらいしてんじゃねぇの? ――あぁあっ! こめかみを突くのはやめてくれって」
「坊が生意気なことをいうからよ」

 私にとって、彼は小さな少年だ。
 出会った時の無垢な頃を何度も思い出す。
 あの頃は可愛いかったのに、月日は残酷だわ。
 こんなにひねくれ者に育つなんて。

「……歳を取るっていうことは、ひねくれるってことなのかしらね」

「いやぁ、別に。そんなことはねぇんじゃないか? 大人になるってことは、ずるくなることだ。知ることが増えて、視野が広がって、自分でやったことの責任を持つ。だからこそ干渉したり、距離を置いたり、大事なものと、それ以外を区別して、相手との距離を測れるようになる。それが齢を取るってことじゃねぇのかねぇ」

 ホーエンハイムから帰ってきた言葉はストレートだった。

「……坊から正論が帰ってくるなんて思わなかった」
「だからいい加減、坊ってやめてくんねぇかなぁ……」

 ホーエンハイムは煙管を吸う。
 昔は吸ってなかったのに、齢をとって大人になったのだろう。

「……嬢さんはさ、そいつのことを――カンパネラのことをどうするつもりなんだ?」
「どうするつもりもないわ」
「それって、そいつに失礼じゃねぇか?」

「……どういうこと?」
「名前をつけて、傍においてさ。そいつは竜だ。幾つまで生きるかわからねぇ。嬢さんが願いを果たしたとき、無責任に放り出すのか? ペットは最後まで面倒みろよ」

「ペットじゃないわ」

「じゃあ何だ? 恋人か?」
「……いいえ。家族よ」

 私は即答した。

 彼との関係は、恋とかそういう錯覚ではなく、家族愛のようなものだと感じている。
 私はカンパネラを愛している。家族として。

 だからこそ、彼には幸せになってほしい。

「……いつか、カンパネラとはいつか離別すると思うわ。元々種族が違うんだもの。でも無責任に突き放すつもりは一ミリもないわ。竜の番を見つけて、その子と幸せになってもらうの。王族になれば、竜に関する調査もできるかもしれないから」

「……はぁ、嬢さんは残酷で。いつまでも変わらないお人だねぇ」

 ホーエンハイムはまた生意気なことを言った。
 なんだろう。
 昔は坊と呼んでいた存在が、今では小生意気に齢を重ねて、私より大人に振る舞っている。

 また軋む音がする。
 私と世界の歯車が、軋んで、外れていく。


 ねぇ、カンパネラ。私はね……

――だって、目が覚めた時、一人だったら寂しいじゃないですか。

 あの言葉に、私はどれほど救われたか。
 本当はあの瞬間、私は泣き出しそうなほど、嬉しかったのよ。
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