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【第三章】竜を想いし永遠に
26.竜を想いし永遠に(7)
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ダリアの住処は小さな宿屋だった。
彼女は劇団員だ。
いろんなところを旅するから、定住は出来ない。
宿屋の女将に、宿に泊まっている者に会いたいと話すと、すんなり通してくれた。
彼女の名前と、連れ合いの名前、そして見た目がどうみても小綺麗だからか、女将は疑うこと無く通してくれたのだ。
「寝てますかね?」
カンパネラが尋ねてくる。
「どうかしら」
私は来客を告げるベルを鳴らす。
――りんりん。
――返答がない。
「……寝てるのかしら」
「もう一回鳴らしてみましょうか」
――りんりん。
その時、部屋からドタバタと音がして、ドアが開いた。
そこにいたのはマルクとは違い、健康的で血色のいいダリアだった。
「マルク!?――じゃなくて、魔女殿でしたか。ご無礼を失礼いたしました」
彼は膝を床に付き、私の手にキスをする。
「そんなことをされるほど、無礼なことはされていないから安心して頂戴。あなたのマルクは、いま医者のところに預けているわ。この街で一番信頼できる医者だから安心して頂戴」
「……そう、ですか」
彼女はホッとしたような笑みを浮かべた。
「……少々聞きたいことがあるのですが、お時間はよろしいでしょうか? 結構夜分遅くなってしまい、申し訳ございませんが」
「あぁ、ボクは別に大丈夫です。明日は稽古だけですし。お連れの男性もどうぞ。楽屋で余った果物しか用意するものはありませんが」
カンパネラは果物と聞いて、嬉しそうに反応した。
◆
「……マルクがそんな状態に?」
一通りの流れの話をすると、ダリアは血相を変えた。
「つい最近まで、彼は元気そのものでした。なのに……どうしてそんなに弱って……」
「心当たりは有りませんか?」
「アーさん、この林檎、むっちゃおいしいです」
カンパネラが水を差してきたから無視をした。
「心当たり……それは山程あるのですが、やっぱりあれでしょうか。年を取りたくないという私の願望を叶えようとしたのでしょうか……」
「私は彼と一言二言話しただけの仲です。だから貴方達のお話をどうか聞かせてくれませんか?」
「……そうですね。それで彼の病が治るのなら」
ダリアはマルクとの出会いから話してくれた。
年をとることが嫌なこと。
中性的な今なら、彼と友達でいられること。
決して彼と恋仲になりたいわけではなく、生涯を通しての友達になりたいということ。
でもいつかマルクが結婚したら、きっと嫌なこと。
マルクはそんな彼女の想いを受け止めようとしたのだろう。
そして、呪いに近いなにかに手を出してしまった。
「……ひとつお伺いしたいのですが」
私は口元に人指し指を当てて尋ねる。
「なんですか?」
「……でもいつかマルクが結婚したら、きっと嫌だということは、それは恋に近い感情なのでは……?」
私が尋ねると、彼女は顔を真っ赤に染め上げた。
「い、いえ……友人でしたら一緒にいられますが……恋人となれば、いつか別れがくるかもしれません」
「でも一生傍にいられますよ」
「しかし……私は彼と恋仲になるイメージが湧かないのです……」
目の前にいる美青年――こと美少女は、困ったような表情を浮かべていた。
「さて、では話を戻しましょう。マルクが最近おかしなことをしませんでしたか?」
「そういえば、最近はよく薬をくれます」
「……薬?」
「何の薬? と聞くと、彼はよく眠りにつける薬と嘘を吐くのです。長い付き合いだから、彼の嘘くらい簡単に見破れるのに、彼は気づいていないと思っています」
「ダリア、あなたはその薬を飲んだの?」
「いいえ。飲んだふりをして隠しておりました」
彼女は机の下から、小瓶に入った薬を出してきた。
ちょうど一週間分。見覚えのない薬だ。
「これを少し預からせていただいても?」
「ええ。是非とも。魔女殿。どうか、マルクを助けてください」
「保証はできません。ですが、努力をします」
医学をかじっていても、絶対はない。
だから私はそう答えた。
カンパネラと一緒に、ホーエンハイムのもとへ戻る。
「……こりゃ、見たことのない薬だな。ちょっと解析してみていいか?」
「そのために持ってきたの。ふぁあ……私は少し寝るわ」
私はホーエンハイムの家にある病床で眠ることにした。
――そして一夜が明けた。
ホーエンハイムはまだ起きていた。
「どう? ホーエンハイム。何の薬かわかった?」
「わかった。けど……最悪だな」
ホーエンハイムの顔色は真っ青だった。
そして、言葉をひねり出すように吐いた。
「嬢さん。これは毒薬だ」
彼女は劇団員だ。
いろんなところを旅するから、定住は出来ない。
宿屋の女将に、宿に泊まっている者に会いたいと話すと、すんなり通してくれた。
彼女の名前と、連れ合いの名前、そして見た目がどうみても小綺麗だからか、女将は疑うこと無く通してくれたのだ。
「寝てますかね?」
カンパネラが尋ねてくる。
「どうかしら」
私は来客を告げるベルを鳴らす。
――りんりん。
――返答がない。
「……寝てるのかしら」
「もう一回鳴らしてみましょうか」
――りんりん。
その時、部屋からドタバタと音がして、ドアが開いた。
そこにいたのはマルクとは違い、健康的で血色のいいダリアだった。
「マルク!?――じゃなくて、魔女殿でしたか。ご無礼を失礼いたしました」
彼は膝を床に付き、私の手にキスをする。
「そんなことをされるほど、無礼なことはされていないから安心して頂戴。あなたのマルクは、いま医者のところに預けているわ。この街で一番信頼できる医者だから安心して頂戴」
「……そう、ですか」
彼女はホッとしたような笑みを浮かべた。
「……少々聞きたいことがあるのですが、お時間はよろしいでしょうか? 結構夜分遅くなってしまい、申し訳ございませんが」
「あぁ、ボクは別に大丈夫です。明日は稽古だけですし。お連れの男性もどうぞ。楽屋で余った果物しか用意するものはありませんが」
カンパネラは果物と聞いて、嬉しそうに反応した。
◆
「……マルクがそんな状態に?」
一通りの流れの話をすると、ダリアは血相を変えた。
「つい最近まで、彼は元気そのものでした。なのに……どうしてそんなに弱って……」
「心当たりは有りませんか?」
「アーさん、この林檎、むっちゃおいしいです」
カンパネラが水を差してきたから無視をした。
「心当たり……それは山程あるのですが、やっぱりあれでしょうか。年を取りたくないという私の願望を叶えようとしたのでしょうか……」
「私は彼と一言二言話しただけの仲です。だから貴方達のお話をどうか聞かせてくれませんか?」
「……そうですね。それで彼の病が治るのなら」
ダリアはマルクとの出会いから話してくれた。
年をとることが嫌なこと。
中性的な今なら、彼と友達でいられること。
決して彼と恋仲になりたいわけではなく、生涯を通しての友達になりたいということ。
でもいつかマルクが結婚したら、きっと嫌なこと。
マルクはそんな彼女の想いを受け止めようとしたのだろう。
そして、呪いに近いなにかに手を出してしまった。
「……ひとつお伺いしたいのですが」
私は口元に人指し指を当てて尋ねる。
「なんですか?」
「……でもいつかマルクが結婚したら、きっと嫌だということは、それは恋に近い感情なのでは……?」
私が尋ねると、彼女は顔を真っ赤に染め上げた。
「い、いえ……友人でしたら一緒にいられますが……恋人となれば、いつか別れがくるかもしれません」
「でも一生傍にいられますよ」
「しかし……私は彼と恋仲になるイメージが湧かないのです……」
目の前にいる美青年――こと美少女は、困ったような表情を浮かべていた。
「さて、では話を戻しましょう。マルクが最近おかしなことをしませんでしたか?」
「そういえば、最近はよく薬をくれます」
「……薬?」
「何の薬? と聞くと、彼はよく眠りにつける薬と嘘を吐くのです。長い付き合いだから、彼の嘘くらい簡単に見破れるのに、彼は気づいていないと思っています」
「ダリア、あなたはその薬を飲んだの?」
「いいえ。飲んだふりをして隠しておりました」
彼女は机の下から、小瓶に入った薬を出してきた。
ちょうど一週間分。見覚えのない薬だ。
「これを少し預からせていただいても?」
「ええ。是非とも。魔女殿。どうか、マルクを助けてください」
「保証はできません。ですが、努力をします」
医学をかじっていても、絶対はない。
だから私はそう答えた。
カンパネラと一緒に、ホーエンハイムのもとへ戻る。
「……こりゃ、見たことのない薬だな。ちょっと解析してみていいか?」
「そのために持ってきたの。ふぁあ……私は少し寝るわ」
私はホーエンハイムの家にある病床で眠ることにした。
――そして一夜が明けた。
ホーエンハイムはまだ起きていた。
「どう? ホーエンハイム。何の薬かわかった?」
「わかった。けど……最悪だな」
ホーエンハイムの顔色は真っ青だった。
そして、言葉をひねり出すように吐いた。
「嬢さん。これは毒薬だ」
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