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【第三章】竜を想いし永遠に

26.竜を想いし永遠に(7)

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 ダリアの住処は小さな宿屋だった。

 彼女は劇団員だ。
 いろんなところを旅するから、定住は出来ない。

 宿屋の女将に、宿に泊まっている者に会いたいと話すと、すんなり通してくれた。
 彼女の名前と、連れ合いの名前、そして見た目がどうみても小綺麗だからか、女将は疑うこと無く通してくれたのだ。

「寝てますかね?」
 カンパネラが尋ねてくる。

「どうかしら」

 私は来客を告げるベルを鳴らす。

――りんりん。

――返答がない。

「……寝てるのかしら」
「もう一回鳴らしてみましょうか」

――りんりん。

 その時、部屋からドタバタと音がして、ドアが開いた。
 そこにいたのはマルクとは違い、健康的で血色のいいダリアだった。

「マルク!?――じゃなくて、魔女殿でしたか。ご無礼を失礼いたしました」

 彼は膝を床に付き、私の手にキスをする。

「そんなことをされるほど、無礼なことはされていないから安心して頂戴。あなたのマルクは、いま医者のところに預けているわ。この街で一番信頼できる医者だから安心して頂戴」
「……そう、ですか」

 彼女はホッとしたような笑みを浮かべた。

「……少々聞きたいことがあるのですが、お時間はよろしいでしょうか? 結構夜分遅くなってしまい、申し訳ございませんが」

「あぁ、ボクは別に大丈夫です。明日は稽古だけですし。お連れの男性もどうぞ。楽屋で余った果物しか用意するものはありませんが」

 カンパネラは果物と聞いて、嬉しそうに反応した。


「……マルクがそんな状態に?」
 一通りの流れの話をすると、ダリアは血相を変えた。

「つい最近まで、彼は元気そのものでした。なのに……どうしてそんなに弱って……」

「心当たりは有りませんか?」

「アーさん、この林檎、むっちゃおいしいです」
 カンパネラが水を差してきたから無視をした。

「心当たり……それは山程あるのですが、やっぱりあれでしょうか。年を取りたくないという私の願望を叶えようとしたのでしょうか……」

「私は彼と一言二言話しただけの仲です。だから貴方達のお話をどうか聞かせてくれませんか?」

「……そうですね。それで彼の病が治るのなら」

 ダリアはマルクとの出会いから話してくれた。

 年をとることが嫌なこと。
 中性的な今なら、彼と友達でいられること。
 決して彼と恋仲になりたいわけではなく、生涯を通しての友達になりたいということ。
 でもいつかマルクが結婚したら、きっと嫌なこと。

 マルクはそんな彼女の想いを受け止めようとしたのだろう。
 そして、呪いに近いなにかに手を出してしまった。

「……ひとつお伺いしたいのですが」

 私は口元に人指し指を当てて尋ねる。

「なんですか?」
「……でもいつかマルクが結婚したら、きっと嫌だということは、それは恋に近い感情なのでは……?」

 私が尋ねると、彼女は顔を真っ赤に染め上げた。

「い、いえ……友人でしたら一緒にいられますが……恋人となれば、いつか別れがくるかもしれません」
「でも一生傍にいられますよ」
「しかし……私は彼と恋仲になるイメージが湧かないのです……」

 目の前にいる美青年――こと美少女は、困ったような表情を浮かべていた。

「さて、では話を戻しましょう。マルクが最近おかしなことをしませんでしたか?」

「そういえば、最近はよく薬をくれます」

「……薬?」

「何の薬? と聞くと、彼はよく眠りにつける薬と嘘を吐くのです。長い付き合いだから、彼の嘘くらい簡単に見破れるのに、彼は気づいていないと思っています」

「ダリア、あなたはその薬を飲んだの?」

「いいえ。飲んだふりをして隠しておりました」
 彼女は机の下から、小瓶に入った薬を出してきた。

 ちょうど一週間分。見覚えのない薬だ。

「これを少し預からせていただいても?」

「ええ。是非とも。魔女殿。どうか、マルクを助けてください」
「保証はできません。ですが、努力をします」

 医学をかじっていても、絶対はない。
 だから私はそう答えた。

 カンパネラと一緒に、ホーエンハイムのもとへ戻る。

「……こりゃ、見たことのない薬だな。ちょっと解析してみていいか?」
「そのために持ってきたの。ふぁあ……私は少し寝るわ」

 私はホーエンハイムの家にある病床で眠ることにした。


――そして一夜が明けた。
 ホーエンハイムはまだ起きていた。

「どう? ホーエンハイム。何の薬かわかった?」
「わかった。けど……最悪だな」

 ホーエンハイムの顔色は真っ青だった。
 そして、言葉をひねり出すように吐いた。

「嬢さん。これは毒薬だ」
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