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【第五章】革命家と反逆者
41.告白の練習
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「好きよ」
「は?」
ホーエンハイムがぽかんと口を開ける。
「だから好き。大好き」
「嬢さん、頭打った?」
「愛してるわ」
「やべぇ薬キメたのか?」
ホーエンハイムの心に、私の告白は全く響かなかった。
「だめね。そもそもホーエンハイムにときめかないもの。まぁ、王子にもときめかないけど……」
「……なぁ、カンパネラ。嬢さんどうしちまったんだ?」
「んー。色々ありまして」
カンパネラは困った表情を浮かべていた。
「昨日、パーティに行った時に気づいたのよ。いまのジークフリード殿下は愛に飢えてると。だから父親の馬鹿国王のみたいに、変な女に捕まる前に、告白しておこうと思って……」
「そんな、俺のもんだから唾つけとくみたいな感じで……」
ホーエンハイムは頭を抱えていた。
「というわけで、愛の告白の練習をしてみたの。どう? ときめいた?」
「嬢さんの正気を疑った」
私は無言で関節技をかけた。
「いででででっ! 正直に言っただけじゃねぇか! 相変わらず大人気ねぇなぁ!」
「……」
私の姿は12歳の少女。彼は20代中盤。
「あぁ、くそ。もう嬢さんの前だと疲れる、で、どういう告白だとぐっと来るかアドバイスを聞きに来たってことか」
「お前はこの間、女性を連れ込んでいたでしょう? だから、愛の告白の言葉くらい知ってるかと思って」
「……この間のことは、もう忘れてくれよ」
ホーエンハイムは心底疲れたような顔で言った。
「告白の練習をするなら、とっておきの相手がいるじゃないか。カンパネラってやつが」
と、ホーエンハイムはカンパネラを指差す。
「……この子は、だめよ」
彼には一度告白をされている。
――……アーさん。好きです。一緒に生きてください。
だから、練習の相手なんかにしてはいけない。
それは彼の尊厳を傷つけることに繋がるから。
「で、お前はどうやって告白をするの? ホーエンハイム」
「そりゃ、まず容姿を褒めて性格を褒めて……ってこりゃナンパか。本命への愛の告白ねぇ……。そもそも嬢さんの言葉には心が籠もってねぇんだよ。棒読みで好きや愛してるなんて言われてもぐっとこねぇ」
「そう言われても、お前のことを愛しても好きでもないんだもの」
「……心にくる言葉をいきなりぶちこんでくるなぁ」
ホーエンハイムは胸をかかえていた。なんだろう。不整脈かしら。
「あ、ライクという意味では好きよ。話しやすいし」
「あんがとよ。……そうだなぁ、手をとって、上目遣いで、潤んだ瞳で好きですって言ったら大体落ちるんじゃねぇか。嬢さんの容姿なら」
「残念ながら私のほうがジークフリード王子よりもちょっと背が高いの」
「屈め」
「……ちょっと待ってて」
私はホーエンハイムに背を向けて、目薬をうった。
そして彼の手を掴んで――
「……好きよ。ホーエンハイム。貴方のことが、大好き」
「……お、おぅ……」
ホーエンハイムの頬が少し赤く染まった。
私はハンカチで目薬を拭った。
「どう? ときめいた?」
「……幼女に言われてもなぁ」
そしてまた私はホーエンハイムに関節技をかけた。
◆
「好きよ」
「あん?」
「貴方のことが好き。初めて会った時から好きだったの」
「お、おぅ……」
次の練習相手はファウストにした。
ファウストは最初、驚きの表情を浮かべていた。
そして、ちょっとずつ頬が赤く染まる。
「っていう練習をしてるんだけど、どう? ときめいた?」
「――だと思ったよッ! 熱かと思って体温計用意しかけたぞ」
「あらごめんなさい」
ファウストはちょっと怒っていた。
「アーさん、そろそろやめません? 他の人で試すのは」
「でもいきなり王子に告白するなんて、恥ずかしいし、ちょっと怖いわ。そもそも作法的に女性から告白するなんて、あまりよろしくないのよ?」
「じゃあ、もう告白なんてやめちゃいましょうよ」
「……いいえ。それはやめないわ」
「おい、そこのババアと竜。イチャコラしてないで、趣旨を話せ趣旨を。俺を置いていくな」
ファウストは偉そうにソファーにふんぞり返って座った。
「……ばばあ?」
「悪い。口が滑った。ごめん、俺が悪かったから、その竜まで怒るのはやめてくれねぇか?」
私がババアと呼ばれ、カンパネラも怒ったらしい。
本当に優しい子だ。
「告白の練習をしているのよ。どこかの泥棒猫にとられる前に、王子に告白しておこうと思って」
「先に婚約者になっておこうって魂胆か。でも前みたいに婚約破棄される可能性もあるぜ? その王子は国王の実の息子だろう? 子は親をみて育つって言うしなぁ」
「それは……」
私が一番恐れていること……。
婚約者になっても、婚約破棄をされるかもしれない。
前回はいいところまでいけていたのだ。王子はちょっと馬鹿だったけど、でも努力家で、話が上手だった。
彼が18歳を迎える時、結婚をする予定だった
なのに――ソフィア男爵令嬢がいつの間にか現れて、王子の心を陥落させたのだ。
「本当に王子と結婚したいなら、正攻法でいくな。小狡くなれ。他の女なんて見させないくらい愛の言葉を送れ。なんだかんだで自分を好きと言ってくれるヤツを嫌いになるヤツはあまりいない」
「貴方もそうなの?」
「俺は関係ねぇだろう」
ファウストは若干怒っていた。
でも彼の言う通りだ。
正攻法でいけば、また横から掻っ攫われるかもしれない。
――ハッと私は思いついた。
「……公衆門前で押し倒して、キスして既成事実をつくるとか……?」
「やめとけ」「やめてください」
ファウストとカンパネラ、同時に怒られた。
恋愛ってすごく難しいわね。
「は?」
ホーエンハイムがぽかんと口を開ける。
「だから好き。大好き」
「嬢さん、頭打った?」
「愛してるわ」
「やべぇ薬キメたのか?」
ホーエンハイムの心に、私の告白は全く響かなかった。
「だめね。そもそもホーエンハイムにときめかないもの。まぁ、王子にもときめかないけど……」
「……なぁ、カンパネラ。嬢さんどうしちまったんだ?」
「んー。色々ありまして」
カンパネラは困った表情を浮かべていた。
「昨日、パーティに行った時に気づいたのよ。いまのジークフリード殿下は愛に飢えてると。だから父親の馬鹿国王のみたいに、変な女に捕まる前に、告白しておこうと思って……」
「そんな、俺のもんだから唾つけとくみたいな感じで……」
ホーエンハイムは頭を抱えていた。
「というわけで、愛の告白の練習をしてみたの。どう? ときめいた?」
「嬢さんの正気を疑った」
私は無言で関節技をかけた。
「いででででっ! 正直に言っただけじゃねぇか! 相変わらず大人気ねぇなぁ!」
「……」
私の姿は12歳の少女。彼は20代中盤。
「あぁ、くそ。もう嬢さんの前だと疲れる、で、どういう告白だとぐっと来るかアドバイスを聞きに来たってことか」
「お前はこの間、女性を連れ込んでいたでしょう? だから、愛の告白の言葉くらい知ってるかと思って」
「……この間のことは、もう忘れてくれよ」
ホーエンハイムは心底疲れたような顔で言った。
「告白の練習をするなら、とっておきの相手がいるじゃないか。カンパネラってやつが」
と、ホーエンハイムはカンパネラを指差す。
「……この子は、だめよ」
彼には一度告白をされている。
――……アーさん。好きです。一緒に生きてください。
だから、練習の相手なんかにしてはいけない。
それは彼の尊厳を傷つけることに繋がるから。
「で、お前はどうやって告白をするの? ホーエンハイム」
「そりゃ、まず容姿を褒めて性格を褒めて……ってこりゃナンパか。本命への愛の告白ねぇ……。そもそも嬢さんの言葉には心が籠もってねぇんだよ。棒読みで好きや愛してるなんて言われてもぐっとこねぇ」
「そう言われても、お前のことを愛しても好きでもないんだもの」
「……心にくる言葉をいきなりぶちこんでくるなぁ」
ホーエンハイムは胸をかかえていた。なんだろう。不整脈かしら。
「あ、ライクという意味では好きよ。話しやすいし」
「あんがとよ。……そうだなぁ、手をとって、上目遣いで、潤んだ瞳で好きですって言ったら大体落ちるんじゃねぇか。嬢さんの容姿なら」
「残念ながら私のほうがジークフリード王子よりもちょっと背が高いの」
「屈め」
「……ちょっと待ってて」
私はホーエンハイムに背を向けて、目薬をうった。
そして彼の手を掴んで――
「……好きよ。ホーエンハイム。貴方のことが、大好き」
「……お、おぅ……」
ホーエンハイムの頬が少し赤く染まった。
私はハンカチで目薬を拭った。
「どう? ときめいた?」
「……幼女に言われてもなぁ」
そしてまた私はホーエンハイムに関節技をかけた。
◆
「好きよ」
「あん?」
「貴方のことが好き。初めて会った時から好きだったの」
「お、おぅ……」
次の練習相手はファウストにした。
ファウストは最初、驚きの表情を浮かべていた。
そして、ちょっとずつ頬が赤く染まる。
「っていう練習をしてるんだけど、どう? ときめいた?」
「――だと思ったよッ! 熱かと思って体温計用意しかけたぞ」
「あらごめんなさい」
ファウストはちょっと怒っていた。
「アーさん、そろそろやめません? 他の人で試すのは」
「でもいきなり王子に告白するなんて、恥ずかしいし、ちょっと怖いわ。そもそも作法的に女性から告白するなんて、あまりよろしくないのよ?」
「じゃあ、もう告白なんてやめちゃいましょうよ」
「……いいえ。それはやめないわ」
「おい、そこのババアと竜。イチャコラしてないで、趣旨を話せ趣旨を。俺を置いていくな」
ファウストは偉そうにソファーにふんぞり返って座った。
「……ばばあ?」
「悪い。口が滑った。ごめん、俺が悪かったから、その竜まで怒るのはやめてくれねぇか?」
私がババアと呼ばれ、カンパネラも怒ったらしい。
本当に優しい子だ。
「告白の練習をしているのよ。どこかの泥棒猫にとられる前に、王子に告白しておこうと思って」
「先に婚約者になっておこうって魂胆か。でも前みたいに婚約破棄される可能性もあるぜ? その王子は国王の実の息子だろう? 子は親をみて育つって言うしなぁ」
「それは……」
私が一番恐れていること……。
婚約者になっても、婚約破棄をされるかもしれない。
前回はいいところまでいけていたのだ。王子はちょっと馬鹿だったけど、でも努力家で、話が上手だった。
彼が18歳を迎える時、結婚をする予定だった
なのに――ソフィア男爵令嬢がいつの間にか現れて、王子の心を陥落させたのだ。
「本当に王子と結婚したいなら、正攻法でいくな。小狡くなれ。他の女なんて見させないくらい愛の言葉を送れ。なんだかんだで自分を好きと言ってくれるヤツを嫌いになるヤツはあまりいない」
「貴方もそうなの?」
「俺は関係ねぇだろう」
ファウストは若干怒っていた。
でも彼の言う通りだ。
正攻法でいけば、また横から掻っ攫われるかもしれない。
――ハッと私は思いついた。
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