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【第六章】姉と妹
58.姉と妹(8)
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「……つまり、ソフィアは賢者の石を使ってエドアルトを誑かした可能性があるということね?」
私はダージリンを飲みながら訊ねた。
昨日、私はカンパネラの首筋や胸元にキスマークがついていて、動揺して布団に籠もってしまった。
私だって誰にもキスマークをつけたことないし、つけられたこともない。
だから、年下のカンパネラが、私よりも一歩先に進んだことがムカムカするというか……ううん。年下だからじゃない。
ホーエンハイムとかが首筋にキスマークをつけてても何にも気にしない。でも、カンパネラだと――なんか胸がモヤモヤして仕方がなかった。
朝、起きた時はファウストの塗り薬で、どうやら跡は綺麗に消えてくれていた。
そして、ほっとして朝の紅茶を嗜みながら、今に至る。
「ねぇ、ファウスト。そんなことに賢者の石は使えるの?」
「まぁ、そのくらいなら簡単にできるぞ。でもそれなら国税に手を出さずに、賢者の石で金銀財宝を生み出すこともできるけど――」
「……そこは、あの女の性根だと思うわ」
昨日の出来事を思い出す。
『あぁ、あの時のあの女の顔、たまらなかったわ。大好きな王子を奪われて、たくさんの人の前で捏造した悪事を王子に語らせて……。ふふ、絶望する顔なんて最高だったわ。やっぱり人のものをとるのは最高ね』
彼女は奪い取りたい人間なのだ。
溢れてくる金よりも、誰が握っている金のほうが欲しい――そういう女なのだ。
「……ねぇ、ファウスト。あの女からファウストを取り上げることができるかしら」
「そうだな。8年も持ってるんだろう。賢者の石モドキは、その女を主として認識している」
「……手段はないの?」
「ある。盗まれた石は三つ。一つはソフィアが持っている。もう二つのどっちかを回収して、その女の賢者の石を消してくださいと願えばいい」
「……めちゃくちゃめんどくさいじゃない。誰が持っているかわからないし」
今まで賢者の石を持っていたのは、マルクとルイス。
共通しているところはまったくない。
――コンコン、とノックの音がした。
「お嬢様、お客人でございます」
メイドの声が聞こえる。
「どうぞ」
私が言うと、扉が開いた。
その先にいたのは――カーチェだった。
「昨日ぶり、アーニャ」
カーチェの顔色はとても悪かった。
「どうしたの? 温かいお茶を淹れるから、それを飲んで」
「え、えぇ……」
カンパネラがお茶を持ってきてくれた。
カーチェはそれを飲んで、はぁとため息をついた。
血色の悪くなっていた唇が、赤く染まる。
そして彼女は、今にも泣き出しそうな声で言った。
「アーニャ……たすけて……」
彼女の身体は震えていた。
カーチェは首の後に手を回し、ネックレスを外して机の上に置いた。
「私……これを貰ったの」
金色の細工で隠してあるが、赤い部分がちらりと見える。
これはもしかして――
「……賢者の石だな」
ファウストがネックレスを手にとって言った。
「あ、あの、この御方は?」
「私の知人です。きっとこの話題には役に立つと思いますわ。名はファウストと申します」
「よろしく、エカチェリーナ嬢」
彼がにやりと笑う。するとカーチェの頬はまた赤く染まった。
「ええっと、話を戻すけど、これは賢者の石で間違いないの? ファウスト」
「俺が作ったもんだ。見間違えるわけがねぇ」
「ねぇ、カーチェ、これはどこで手に入れたの?」
カーチェは泣き出しそうな目を浮かべていた。
「数日前、ペスト仮面をつけた男にもらったの。お姉ちゃんを殺したいって頼んだら、それをくれたの」
そういえば出会った時も、カーチェは姉のことを殺したいと言っていた。
けれど賢者の石のことは初めて聞いた。
「そのペスト仮面をつけた男からは、なんて言われたの?」
「……命を3つ集めろと言われたわ」
「まぁ、一番手っ取り早いからな」
そういえば、この間、ルイスに攫われた時も、生命力とやらを賢者の石に吸い取られていると言っていた。
「……あたしはお姉ちゃんを殺したいわ。でも、他の人を殺めてまで殺したくない。だから、どうすればいいかわからなくて……」
カーチェは涙を流していた。
姉のような演技の涙ではなく、本物の涙だった。
「この石を完全にして、姉を殺したいってんなら……別に人を殺さなくても完全にすることはできるぜ」
と、ファウストはあっさりと言いのけた。
私はダージリンを飲みながら訊ねた。
昨日、私はカンパネラの首筋や胸元にキスマークがついていて、動揺して布団に籠もってしまった。
私だって誰にもキスマークをつけたことないし、つけられたこともない。
だから、年下のカンパネラが、私よりも一歩先に進んだことがムカムカするというか……ううん。年下だからじゃない。
ホーエンハイムとかが首筋にキスマークをつけてても何にも気にしない。でも、カンパネラだと――なんか胸がモヤモヤして仕方がなかった。
朝、起きた時はファウストの塗り薬で、どうやら跡は綺麗に消えてくれていた。
そして、ほっとして朝の紅茶を嗜みながら、今に至る。
「ねぇ、ファウスト。そんなことに賢者の石は使えるの?」
「まぁ、そのくらいなら簡単にできるぞ。でもそれなら国税に手を出さずに、賢者の石で金銀財宝を生み出すこともできるけど――」
「……そこは、あの女の性根だと思うわ」
昨日の出来事を思い出す。
『あぁ、あの時のあの女の顔、たまらなかったわ。大好きな王子を奪われて、たくさんの人の前で捏造した悪事を王子に語らせて……。ふふ、絶望する顔なんて最高だったわ。やっぱり人のものをとるのは最高ね』
彼女は奪い取りたい人間なのだ。
溢れてくる金よりも、誰が握っている金のほうが欲しい――そういう女なのだ。
「……ねぇ、ファウスト。あの女からファウストを取り上げることができるかしら」
「そうだな。8年も持ってるんだろう。賢者の石モドキは、その女を主として認識している」
「……手段はないの?」
「ある。盗まれた石は三つ。一つはソフィアが持っている。もう二つのどっちかを回収して、その女の賢者の石を消してくださいと願えばいい」
「……めちゃくちゃめんどくさいじゃない。誰が持っているかわからないし」
今まで賢者の石を持っていたのは、マルクとルイス。
共通しているところはまったくない。
――コンコン、とノックの音がした。
「お嬢様、お客人でございます」
メイドの声が聞こえる。
「どうぞ」
私が言うと、扉が開いた。
その先にいたのは――カーチェだった。
「昨日ぶり、アーニャ」
カーチェの顔色はとても悪かった。
「どうしたの? 温かいお茶を淹れるから、それを飲んで」
「え、えぇ……」
カンパネラがお茶を持ってきてくれた。
カーチェはそれを飲んで、はぁとため息をついた。
血色の悪くなっていた唇が、赤く染まる。
そして彼女は、今にも泣き出しそうな声で言った。
「アーニャ……たすけて……」
彼女の身体は震えていた。
カーチェは首の後に手を回し、ネックレスを外して机の上に置いた。
「私……これを貰ったの」
金色の細工で隠してあるが、赤い部分がちらりと見える。
これはもしかして――
「……賢者の石だな」
ファウストがネックレスを手にとって言った。
「あ、あの、この御方は?」
「私の知人です。きっとこの話題には役に立つと思いますわ。名はファウストと申します」
「よろしく、エカチェリーナ嬢」
彼がにやりと笑う。するとカーチェの頬はまた赤く染まった。
「ええっと、話を戻すけど、これは賢者の石で間違いないの? ファウスト」
「俺が作ったもんだ。見間違えるわけがねぇ」
「ねぇ、カーチェ、これはどこで手に入れたの?」
カーチェは泣き出しそうな目を浮かべていた。
「数日前、ペスト仮面をつけた男にもらったの。お姉ちゃんを殺したいって頼んだら、それをくれたの」
そういえば出会った時も、カーチェは姉のことを殺したいと言っていた。
けれど賢者の石のことは初めて聞いた。
「そのペスト仮面をつけた男からは、なんて言われたの?」
「……命を3つ集めろと言われたわ」
「まぁ、一番手っ取り早いからな」
そういえば、この間、ルイスに攫われた時も、生命力とやらを賢者の石に吸い取られていると言っていた。
「……あたしはお姉ちゃんを殺したいわ。でも、他の人を殺めてまで殺したくない。だから、どうすればいいかわからなくて……」
カーチェは涙を流していた。
姉のような演技の涙ではなく、本物の涙だった。
「この石を完全にして、姉を殺したいってんなら……別に人を殺さなくても完全にすることはできるぜ」
と、ファウストはあっさりと言いのけた。
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