【完結】竜と悪役令嬢だった魔女

六花さくら

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【第六章】姉と妹

57.姉と妹(7) カンパネラ視点

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「一目見た時から、たくましく素敵な方だと思っていましたの」

 彼女は頬を赤く染めて、俺を見つめていた。
 アーさんも、カーチェさんもここにはいない。

 そして、俺だけここに残ってほしい――というのは、この女の罠だったのか……。

「ねぇ、素敵なお方。私とダンスは如何いかが? どこでも出来ますわよ。パーティー会場でも、ベッドの上でも、どこでも、どんな時でも」

 言っている意味がよくわからなかった。
 けれど彼女が俺を誘っているということはよくわかった。

 甘ったるい香水に、鼻がやられてくらくらする。

「ねぇ、コチラを見て」
 彼女は俺の顔を両手で掴んで、自分を見るように動かした。

「この宝石も、この容姿も、天から恵まれたモノなの。男はみんなとりこになるわ」

 そう言って、彼女はほぅっとため息を吐いた。

「そーですか」

 さて、この場合どう動けばアーさんが喜んでくれるのか、俺はそれだけを考えていた。

 正直、こんな女性には一切食指が動かない。
 性的にも、食材的にも、食べたいと全く思わない。気味が悪いとしか思えない。

 アーさんとは違う女。
 本来ならアーさんがこの女性の代わりに王妃としてここにいた。
 幸い、そうならなかったから、俺はアーさんと出会えたのだけれど。その意味では感謝したほうがいいのかもしれない。
 でも……アーさんの敵は、俺の敵だ。
 
 彼女は自分の服を脱いでいく。
 豊満な身体だった。胸と尻は大きく、ウエストは細い。

 人間の方では美人なんだろう。

 だけど、アーさんの方が何百倍、何千倍、何億倍もいい。
 アーさんが美少女なら、この人はワラジムシだ。
 いくら高い服で身体を見飾っていても誤魔化せない。
 彼女のどす黒い魂の色は。

 そういえば、石がうんたら……って言ってたよな。
 その情報を掴んだら、アーさんは喜んでくれるだろうか。

 ハニートラップ上等。
 引っかかったふりをして、情報をだまし取ってやろう。

 彼女はもう発情しているのか、身体をほてらせていた。

「はぁ……貴方の宝石のような瞳に見られると……身体の奥が……うずきますわ」
「そうですか」

 さいですか……。

「ねぇ、どうか貴方もお脱ぎになって、だいぶ温かくなったとはいえ、汗をかいたらあの子たちにバレてしまうわ」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「そう? それなら……」

 彼女の唇が俺の唇に近づく、
 咄嗟とっさに避けた。

「あら? キスはお嫌い?」
「そうだね。あんまり好きじゃないんだ」
「ふふ。子どもっぽぉい」
 ソフィアはそう笑った。

「本当はリードされるほうが好きなんだけど、今日は貴方を落としたいわ。リードしてあげる」
 そう言って、彼女は俺の首筋や、腹にキスを落としていった。

「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「なぁに? ちなみに私がいちばん感じるところは――」
「えっと、そうじゃなくて、魔法の石の件なんだけど……」

 俺は単刀直入に言った。
 すると彼女はくすくすと笑った。
 そして、首筋にかけてあるネックレスを持って、にやりと笑った。

「この石のこと?」

 その石は美しいとは言い難い色の石だった。
 血の色に似ている。
 鮮血ではなく、時間が経ち、黒くなりかけている血の色に。

「これはねぇ、8年前にある人から貰ったの。それで、条件を満たして、私は王子と結ばれることができたの……くすくす」

 アーさんが陥れられたのも、8年前。
 つまり、そのときに石を使って国王を操った……のだろうか。
 俺は国王のことを知らない。王妃と一緒に浪費をしている王だとしかわからない。
 
「石の魔力はすごいわぁ。国王は何でも買ってくれるし、騎士たちと致しても国王は怒らないから私はやり放題なの。みんな、みんな私の魅惑チャームにかけられているの。――そして、貴方もかかっておしまい」

 石が光りだした。
 眩しいと思った瞬間、頭の中から変な声が聞こえてきた。

『ソフィアのことを好きになれ』『ソフィアだけを愛せ』『ソフィアのためなら命も投げ捨てろ』『ソフィアを愛して、愛して、愛したまま死ね』

 声が頭の中で響き渡る。
 けれど、正直軽い頭痛に悩まされている気分だった。

 でも俺は竜だ。
 魔法なんて効かない。
 最初からこの女の虜になんてならない。

 そして、この情報は、きっとアーさんの役に立つ。

「すみません、俺、好きな人がいるんで」
「……は?」
 ソフィアは呆然とした顔で俺を見ていた。
 魔法が通じなかったことに驚いたのか、それとも自分の魅力になびかない俺に驚いたのかわからない。
 どんな女性が現れたとしても、どんな女性に誘惑されたとしても、俺はハッキリ言える。

『アーさんが一番大好きだ』と。


・・・

 そしてシャターリア家に戻った。
 アーさんとファウストさんに賢者の石について話そうとした時、俺はアーさんにシャツを掴まれた。胸元を掴んで、じーっと見てくる。

 そこには、ソフィアから付けられたキスマークがついていた。

「……カンパネラ、あなた」
 アーさんが冷たい目を更に冷たくして俺を見る。

「おう、カンパネラも大人の道を一歩進んだんだな。よかったよかった」
 ファウストさんはニヤリと笑っていた。全然おもしろくない。

「……」

 アーさんはそれから俺の話を聞くことなく、ベッドに潜り込み、何を言っても出てきてくれなかった。
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