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12 太陽と月
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『一回死んでこい』
一回本当に死んだことがあるから言えた。
変な椅子には縛りつけられるわ、目隠しされるわ、口元も塞がれるわ。
更に拷問器具を見せられた時は失禁してしまいそうだった。
生まれてから一番怖かった出来事だった。
「はぁー……はぁー……」
殴ってやった。目の前のクズ男を。
私の心の中では、恐怖よりも怒りが勝っていた。
だけど……リチャードの反応を見るのが怖い!
でも私は全力で自分の鬱憤を晴らした。
後悔はしていない。
彼の顔を見ようと、顔をあげる。
すると彼はとても驚いた表情を浮かべていた。
「……こんな空間の中で殴ってくるなんて思わなかったなぁ。怖くないの? エリザベスは」
「この空間は怖い。だけど散々泣きそうな目に遭わされたんだから、一発くらい殴らせなさい」
「そっか……あぁ……そっか」
リチャードは恍惚とした表情を浮かべていた。
「俺が貴方を愛してるって、信用してくれたんだね」
「信用って……」
リチャードはきっと報復してこないだろうと、勝手に思っていた。だから殴った。
「やっと、俺と向き合ってくれたんだね」
「くっ……」
今まで見たリチャードの中で一番さわかなスマイルを向けられて、つい私は一歩後ろに下がってしまった。
「もう逃さないよ。エリザベス。俺と結婚してくれる?」
「私は聖女じゃないけど、それでもいいの?」
「聖女なんてどうでもいい。俺はエリザベスだけに見てもらえたらそれで良い。いや、それがいいんだ」
きっとこれは彼の本心。
ずっと私は彼の言葉を信じていなかった。
胡散臭いとか、嘘ばかりとか……まぁ嘘つきなのは事実だけれど。
でも本当に好きな人に信用されていなかったリチャードは、本当は寂しかったのかもしれない。
彼の中にぽっかりと空いた穴を私が塞いだ。
恐怖で従順になったんじゃなくて、本心で全てを語ったのだと、拳で反抗することによって証明してやった。
ぐいっと腕を引っ張られ、抱き寄せられる。
彼の鼓動が聞こえてくる。どく、どくっと音を立てている。
「私の言葉、想い……ちゃんとリチャードに届いた?」
「あぁ、届いたよ。しっかり届いた」
強く抱きしめられる
だから私も強く抱きしめ返した。
ふと、ある疑問が浮かんだ。
「ねぇ、リチャード。私と結婚するなら、密偵スパイはどうなるの?」
「辞めるよ。元からそういう話だったんだ。汚れ役はエリザベスと結婚して身を固めるまでって……」
確かに他国の姫と結婚するのに密偵を続ける必要はない。むしろそんなことを続けていたら追放ものだ。
「じゃあ、もう他の女の人に愛してるって言わない?」
「言わない。これから先の一生、エリザベスにしか言わない」
「誓ってくれる?」
「もちろん」
彼からキスをされた。
唇を合わせるだけの優しいキスを。
今までどうやって彼を信用すればいいかわからなかった。
この世界をゲームの世界だと考え込んで。
リチャードを、アリアを、お兄様たちを、キャラクターとして扱って。
それぞれが抱える感情をすべておざなりにしてしまっていた。
リチャードに嫌われるのが怖い。
じゃあ、どうやったら嫌われないのか。
アリアを動かすんじゃない。自分が避けるんじゃない。
とても簡単なことだったんだ。
私が彼を信じればいい。
信じて、頼ればいい。
目の前にいる、私だけのヒーローを。
「ところでリチャード。ずっと疑問だったのだけど……」
「なんだい?」
「この部屋は何……?」
ずらりと並んだエリザベスの写真。
3メートルくらいありそうな肖像画。
「俺の秘密の部屋だよ。今まで誰にも見せたことのない部屋なんだ」
爽やかスマイル。
いや、爽やかに言われても!
リチャードは私のことを追跡の魔具(簡単に言えばGPS)で監視していた。
そしてこの隠し撮りの一覧。
「エリザベスの全てを知りたくて、つい」
「これってストーカーじゃない!」
「あ、バレた?」
密偵だから慣れているのだろうか。
紅茶を飲んでいるところの写真。
デートをしているところの写真もあった。
私は不自然なところに気がついた。
リチャードとデートしている写真があった。覚えがある。一緒にドレスを買いにいった時の写真だ。
私とリチャードの二人が映っているのに……
リチャードの部分だけ、ペンでグシャグシャに塗りつぶされていた。
「なんでリチャードが映っているところを塗りつぶしてるの……?」
「俺はエリザベスにしか興味ないからね」
リチャードはあっさりと言い退けた。
でも、それってつまり……。
グシャグシャに塗りつぶされたリチャードの姿。
私だけしか映っていない写真たち。
「リチャード、貴方は自分のことが嫌いなのね?」
「……うん。そうだよ。貴方といると強く実感する。俺は汚れきっている。エリザベスは俺にとって太陽なんだ。貴方に照らされると、自分がいかに小狡く生きてきたのか実感させられる」
「買い被りすぎよ。私は太陽なんて大袈裟なものじゃないわ」
「いいや。本気で俺はそう思ってる。だから貴方が誰かと交わったって聞いた時は、発狂しそうなくらい嫌だったんだ。でも嫉妬する資格は俺にはない」
「……それなら」
卑屈なリチャード。
彼の過去を知ってるからこそ言える。
「それなら、貴方が月になれば良いわ」
私は彼の頬に手を当てた。
「月は太陽の光を反射して輝くの。私が貴方を照らしてあげるから、自分のことを嫌いになんてならないで」
太陽と月。
地球はくるくると回る。
太陽は燃え続け、月はその光を反射して夜道を照らしてくれる。
そんな存在に、なってほしい。
もっと自分のことを好きになってほしい。こんな不甲斐ない私を太陽と喩えてくれるのなら。
リチャードを好きになることで、私は自分自身と向き合うことが出来た。
ここがゲームではないと実感できた。
だから、彼にも、どうか輝きを。
「……敵わないなぁ」
リチャードはそう言って、膝をついて、私の胸に頭を置いた。
「少しずつ、向き合っていくよ。俺も自分と」
「えぇ、そうね。時間はたくさんあるんだもの。リチャードが何かを背負うなら私も一緒に背負ってあげる。貴方のことが……好きだから」
ここはゲームの中じゃない。
だからハッピーエンドは、まだ何十年も先だ。
「……ははっ。なんだか将来はエリザベスに尻に敷かれそうだなぁ」
リチャードが笑う。
嘘つきの仮面をつけていない、本当の笑みで。
「ねぇ、エリザベス。そういえば仮面舞踏会でのことなんだけど」
「……何?」
「貴方は仮面舞踏会で、俺以外の男に貞操を捧げようとしてたんだよね。そこだけはどうしても許せそうにないんだ」
「あぁ……そのことね。えっと……そのね、私も必死だったのよ。リチャードにみっともなく捨てられたくなくてリチャードに捨てられるくらいなら、貞操くらい自分から捨ててやろうと思って……」
「あぁ、そう」
……ぐいっと手を惹かれる。
その先にあったのは大きなベッド。天蓋付きで豪華なキングサイズ。
リチャードはいつもここで寝てるの?
……え? いつも……?
この写真の中で?
――考えるのをやめよう。
とか考えていたら、私の手を握ったリチャードに押し倒されていた。
「……じゃあ、今、仮面舞踏会の続きをしようか」
「――ひっ! い、いや……あの、私達の結婚はもう決まったじゃない? だからそんない急がなくても」
「急ぐさ。エリザベスにもう逃げられないために」
「もう逃げないから……あ、あの……その……」
耳元に吐息をかけられる。
「……もう遅いよ」
――ぎゃーーーーー!
一回本当に死んだことがあるから言えた。
変な椅子には縛りつけられるわ、目隠しされるわ、口元も塞がれるわ。
更に拷問器具を見せられた時は失禁してしまいそうだった。
生まれてから一番怖かった出来事だった。
「はぁー……はぁー……」
殴ってやった。目の前のクズ男を。
私の心の中では、恐怖よりも怒りが勝っていた。
だけど……リチャードの反応を見るのが怖い!
でも私は全力で自分の鬱憤を晴らした。
後悔はしていない。
彼の顔を見ようと、顔をあげる。
すると彼はとても驚いた表情を浮かべていた。
「……こんな空間の中で殴ってくるなんて思わなかったなぁ。怖くないの? エリザベスは」
「この空間は怖い。だけど散々泣きそうな目に遭わされたんだから、一発くらい殴らせなさい」
「そっか……あぁ……そっか」
リチャードは恍惚とした表情を浮かべていた。
「俺が貴方を愛してるって、信用してくれたんだね」
「信用って……」
リチャードはきっと報復してこないだろうと、勝手に思っていた。だから殴った。
「やっと、俺と向き合ってくれたんだね」
「くっ……」
今まで見たリチャードの中で一番さわかなスマイルを向けられて、つい私は一歩後ろに下がってしまった。
「もう逃さないよ。エリザベス。俺と結婚してくれる?」
「私は聖女じゃないけど、それでもいいの?」
「聖女なんてどうでもいい。俺はエリザベスだけに見てもらえたらそれで良い。いや、それがいいんだ」
きっとこれは彼の本心。
ずっと私は彼の言葉を信じていなかった。
胡散臭いとか、嘘ばかりとか……まぁ嘘つきなのは事実だけれど。
でも本当に好きな人に信用されていなかったリチャードは、本当は寂しかったのかもしれない。
彼の中にぽっかりと空いた穴を私が塞いだ。
恐怖で従順になったんじゃなくて、本心で全てを語ったのだと、拳で反抗することによって証明してやった。
ぐいっと腕を引っ張られ、抱き寄せられる。
彼の鼓動が聞こえてくる。どく、どくっと音を立てている。
「私の言葉、想い……ちゃんとリチャードに届いた?」
「あぁ、届いたよ。しっかり届いた」
強く抱きしめられる
だから私も強く抱きしめ返した。
ふと、ある疑問が浮かんだ。
「ねぇ、リチャード。私と結婚するなら、密偵スパイはどうなるの?」
「辞めるよ。元からそういう話だったんだ。汚れ役はエリザベスと結婚して身を固めるまでって……」
確かに他国の姫と結婚するのに密偵を続ける必要はない。むしろそんなことを続けていたら追放ものだ。
「じゃあ、もう他の女の人に愛してるって言わない?」
「言わない。これから先の一生、エリザベスにしか言わない」
「誓ってくれる?」
「もちろん」
彼からキスをされた。
唇を合わせるだけの優しいキスを。
今までどうやって彼を信用すればいいかわからなかった。
この世界をゲームの世界だと考え込んで。
リチャードを、アリアを、お兄様たちを、キャラクターとして扱って。
それぞれが抱える感情をすべておざなりにしてしまっていた。
リチャードに嫌われるのが怖い。
じゃあ、どうやったら嫌われないのか。
アリアを動かすんじゃない。自分が避けるんじゃない。
とても簡単なことだったんだ。
私が彼を信じればいい。
信じて、頼ればいい。
目の前にいる、私だけのヒーローを。
「ところでリチャード。ずっと疑問だったのだけど……」
「なんだい?」
「この部屋は何……?」
ずらりと並んだエリザベスの写真。
3メートルくらいありそうな肖像画。
「俺の秘密の部屋だよ。今まで誰にも見せたことのない部屋なんだ」
爽やかスマイル。
いや、爽やかに言われても!
リチャードは私のことを追跡の魔具(簡単に言えばGPS)で監視していた。
そしてこの隠し撮りの一覧。
「エリザベスの全てを知りたくて、つい」
「これってストーカーじゃない!」
「あ、バレた?」
密偵だから慣れているのだろうか。
紅茶を飲んでいるところの写真。
デートをしているところの写真もあった。
私は不自然なところに気がついた。
リチャードとデートしている写真があった。覚えがある。一緒にドレスを買いにいった時の写真だ。
私とリチャードの二人が映っているのに……
リチャードの部分だけ、ペンでグシャグシャに塗りつぶされていた。
「なんでリチャードが映っているところを塗りつぶしてるの……?」
「俺はエリザベスにしか興味ないからね」
リチャードはあっさりと言い退けた。
でも、それってつまり……。
グシャグシャに塗りつぶされたリチャードの姿。
私だけしか映っていない写真たち。
「リチャード、貴方は自分のことが嫌いなのね?」
「……うん。そうだよ。貴方といると強く実感する。俺は汚れきっている。エリザベスは俺にとって太陽なんだ。貴方に照らされると、自分がいかに小狡く生きてきたのか実感させられる」
「買い被りすぎよ。私は太陽なんて大袈裟なものじゃないわ」
「いいや。本気で俺はそう思ってる。だから貴方が誰かと交わったって聞いた時は、発狂しそうなくらい嫌だったんだ。でも嫉妬する資格は俺にはない」
「……それなら」
卑屈なリチャード。
彼の過去を知ってるからこそ言える。
「それなら、貴方が月になれば良いわ」
私は彼の頬に手を当てた。
「月は太陽の光を反射して輝くの。私が貴方を照らしてあげるから、自分のことを嫌いになんてならないで」
太陽と月。
地球はくるくると回る。
太陽は燃え続け、月はその光を反射して夜道を照らしてくれる。
そんな存在に、なってほしい。
もっと自分のことを好きになってほしい。こんな不甲斐ない私を太陽と喩えてくれるのなら。
リチャードを好きになることで、私は自分自身と向き合うことが出来た。
ここがゲームではないと実感できた。
だから、彼にも、どうか輝きを。
「……敵わないなぁ」
リチャードはそう言って、膝をついて、私の胸に頭を置いた。
「少しずつ、向き合っていくよ。俺も自分と」
「えぇ、そうね。時間はたくさんあるんだもの。リチャードが何かを背負うなら私も一緒に背負ってあげる。貴方のことが……好きだから」
ここはゲームの中じゃない。
だからハッピーエンドは、まだ何十年も先だ。
「……ははっ。なんだか将来はエリザベスに尻に敷かれそうだなぁ」
リチャードが笑う。
嘘つきの仮面をつけていない、本当の笑みで。
「ねぇ、エリザベス。そういえば仮面舞踏会でのことなんだけど」
「……何?」
「貴方は仮面舞踏会で、俺以外の男に貞操を捧げようとしてたんだよね。そこだけはどうしても許せそうにないんだ」
「あぁ……そのことね。えっと……そのね、私も必死だったのよ。リチャードにみっともなく捨てられたくなくてリチャードに捨てられるくらいなら、貞操くらい自分から捨ててやろうと思って……」
「あぁ、そう」
……ぐいっと手を惹かれる。
その先にあったのは大きなベッド。天蓋付きで豪華なキングサイズ。
リチャードはいつもここで寝てるの?
……え? いつも……?
この写真の中で?
――考えるのをやめよう。
とか考えていたら、私の手を握ったリチャードに押し倒されていた。
「……じゃあ、今、仮面舞踏会の続きをしようか」
「――ひっ! い、いや……あの、私達の結婚はもう決まったじゃない? だからそんない急がなくても」
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