嵌められた侯爵令嬢

アクアマリン

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序章

禍々しい親子

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その日、ソフィアは母の葬儀に来てくれた友人たちに感謝の手紙を綴っていた。 
 
自室のドアがノックされ、父が「ちょっといいかな」と顔をのぞかせた。「紹介したい人たちがいる」と。

「どうぞ」

招き入れた父はひとりではなかった。
後ろに二人ひとを連れていた。

「今日からこの屋敷の女主人となるラヴェンダとその娘のルシーダだよ。ソフィア、挨拶しなさい」

( 女主人? )

父の言葉に戸惑い、ソフィアは親子をじっと見た。
はじめて見る顔だった。

真っ黒な巻き毛の目付きの鋭い女の人と、よく似た小さな女の子。ソフィアより小さい…五歳くらいだろうか。

「ソフィア?」

「あ…。こんにちは、ソフィアです」

スカートを少しつまみ会釈をした。

まだ母の喪に服しているため黒いドレスを着ていたソフィアと対照的に、親子は真っ赤なドレスを身に付けていた。
それだけでソフィアは二人に嫌な気持ちを持った。
弔意の欠片もなく、非常識ではないかと。

「お父様、女主人となる…って、どういう意味なの」

「もちろんそのままの意味だよ。ラヴェンダと私はマリッサの喪が明け次第、籍を入れる予定なんだ」

「………!」

あまりの衝撃に言葉がでなかった。
驚愕のまなざしを向ける娘に、父の口がニッコリと笑みを形作ったが、その目はなにやら不気味に濁っていた。

( お父様…? なんだか顔色が悪いわ )

「ラヴェンダを本当の母、ルシーダを本当の妹として大事にするんだよ。いいね?」

「でも…」

( お母様が亡くなってまだ三ヶ月なのよ… )
( そんな風には思えません…! )

心の中で父への戸惑いは徐々に嫌悪に変わっていった。

怒りのまま罵りたいけれど、淑女として育てられてきたソフィアはそれらの言葉を飲み込んでしまった。家長である父に逆らってはいけないのである。


その様子にラヴェンダがニヤリと笑うのを視界の端でとらえ、ソフィアは悪寒に身を震わせた。



これが彼女の受難の日々の幕開けだった。






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