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国立魔法兵士学園編
第9話 烈火猛将
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鋭い覇気を纏い、放たれた一閃を合図に決戦の狼煙が上がる。レオナによる一突きを顎先ギリギリでかわすと今度は鈴鹿のカウンター。左手に宿る火炎を正面向かって解き放った。
レオナは軽く後方にステップを踏むと、右手に握られた木刀を水平に振るって向かいくる火炎網を引き裂く。
「炎を切ったぞ!?」
その声は鈴鹿でも、もちろんレオナでもなく周囲でこの戦いの行方を見守っている訓練生から発せられたものだった。1人の訓練生が驚愕《きょうがく》すると伝染して周りの訓練性もガヤガヤと騒ぎ始める。
「なんだそりゃ。チートかよ」
愚痴をこぼすも怯むことなく鈴鹿は攻撃を続行する。今度は左手と右手、両手に込められた熱を球状に固形化し、およそ11発の火炎弾を放つ。しかしレオナの前に儚く散った火炎弾は灰となり風に流される。今のところ互いにダメージを交わすことはないものの、実力差という壁だけは明確となっていた。
「凄い、自分の権能をよく理解しているんだね。汎用的なものから応用的なものまで。流石健さんの息子さんだね」
「親父だぁ?テメェなんだその上からの物言いはよぉ。絶対殺す。俺が、殺す!!!!」
飛び道具による遠距離戦がきかないなら今度は近接線に。鈴鹿は戦闘中における取捨選択が迅速なのかすぐさまレオナの右頬狙って拳を放った。
「死ねやこらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「だよね。君ならそうくると思った」
レオナがコンクリートの床を踏み込むと地面が破裂し、その場に衝撃波が発生するほどの回し蹴りが鈴鹿を吹き飛ばしていた。爆風が会場内に巻き起こりカナタも全身で衝撃の余波を感じていた。
「すごい‥‥これが、強者の闘い」
「いやいやいやおかしいって。相手はあの龍平だぜ?なんであいつ押されてんだよ。てかレオナちゃんどんだけ強いだよ‥‥」
すぐ横ではハルクが両膝を床につきながら衝撃波から身を守っていた。ふと目が合うとハルクはゆっくりと立ち上がって僕に目を逸らしながら話を始めた。
「な、なぁカナタ。ごめんな、お前のこと散々馬鹿にして」
「え?」
「ほら、俺たちさ。よく龍平と一緒にお前のこと笑ってただろ?権能もねぇくせに兵士やってんの?とかさ」
「それは—————」
確かに鈴鹿君にハルク君にラム君はよく僕をからかっていた。いじめと呼ばれるくらいに発展してはないけど、心地よいものではなかった。そんな彼がこの場でいきなり謝罪してきたことに少し動揺している自分がいる。
「都合がいいことはわかってる。でも、でもさ‥‥気づいちまったんだよ俺。結局権能なんて関係ない。俺は戦えるだけの権能を持ってるのに龍平と対峙した瞬間、その場から逃げちまった」
「ハルク君‥‥」
「こんなんで俺。兵士なんかになれるのかよ‥‥」
本当はここで励ましの言葉をかけてあげるべきなのだろう。けど僕にはその言葉をかける権利を持っていなかった。資格がなかった。だって僕も、この戦場に置いてまだ一度も剣を交えていないのだから。
瓦礫の崩壊音が聞こえると、コンクリートの床にめり込んだ鈴鹿が現れた。飛ぶ弾丸のように吹き飛び直撃を喰らったものの、決定打にはならなかったようだ。だがレオナ・ペンドラゴンという1人の強者の存在に驚愕を受けていることは彼の表情を見て分かった。
「テメェ‥‥」
這い上がった鈴鹿は砕け散った石片を握りしめると、レオナの顔面目掛けて投げつける。まばらに散った石片は虚しく彼女の剣撃の前に消滅する。もはや彼女の反射神経と剣の技術の前では鈴鹿の力は及ばないのだ。
「降参して」
「————は?」
彼女から放たれた言葉に鈴鹿は一瞬思考が停止する。それは彼にとっても予想外の問いかけだったからだ。
「このまま戦いを続けても貴方が傷つくだけ。再来月には剣戟祭もあるし、お互いに無駄な消費はしない方がいいと思うの」
「テメェ何言ってん—————なッ!!」
怒りと共に激昂した火炎の一撃を見舞おうと右手を突き出すもその掌からは火炎が噴出しなかった。それどころか彼は喘息患者のように勢いよくその場に咳き込んだ。
「マナも尽きた。君にはもう戦う力が残ってない」
四肢を地につけその場にうずくまる鈴鹿に向かってレオナは木刀の切っ先を向ける。それは言わずもながな、チェックメイトのサインだった。
「だ、ま、れ‥‥俺はまだやれる。こんなところで負ける玉じゃ‥‥ねぇッッ!!」
「そう」
まるで獣、鋭く光る眼光はレオナを捉えて離さない。そんな鈴鹿を傍目にレオナは躊躇なく右手に握られた木刀を振り下ろし、意識を刈り取った。
「試合終了!鈴鹿龍平のダウンにより、レオナ・ペンドラゴンチームの勝利!!」
ゴーワンダ教官による勝利の軍配が上がると、観客は今までにないほどの歓声を会場中に響かせた。それは鈴鹿龍平という学園きっての猛者の敗北。そしてレオナ・ペンドラゴンという未知数の覇者の存在が明らかになったこと。それだけで彼らを熱狂させるには十分だった。
「お疲れ様」
砂埃を一つ浴びず、鈴鹿龍平に対して文字通りの完全勝利をもぎ取った彼女は僕とハルクに声をかけてくれた。
「あ、ありがとうございました」
深々とお辞儀を返す僕に対して、ハルクはとその場に立ち尽くしていた。
「レ、レオナさん!あの、マジかっこよかったです!」
「あ、ありがとう?」
積極的に距離を詰めると、ハルクは目をハートにしてレオナを見つめていた。
「今度お食事とかどうすか?ほら、俺レオナさんに助けてもらいましたし、お礼も兼ねてってことで!」
「え‥いや、そういうのは——————」
「おいそこ何をしている?早く隊列につけ、悪いが今日は剣戟祭ではなくあくまで授業の一環。時間は有限だぞ!」
まさしくベストタイミングでゴーワンダ教官の指令がかかる。一度ハルクを見つめ微笑むと、ハルクはおもちゃを貰った子供のように笑顔ではしゃいでいた。
「まず、今日素晴らしい試合を見せてくれた勇猛果敢な10名の訓練生に拍手!!」
教官の言葉を合図に僕たち10名の訓練生に対して栄誉が送られる。僕としてはレオナによる一方的な勝利だった。途中から鈴鹿による爆炎の煙であたり全体が見渡すことができなくなっていたため、僕が誰とも戦わず及び腰になっていたものなど知らない。だからこそ観戦していた訓練生はなんのしがらみなくこんな僕にも賞賛を送ってくれるのだろう。
「今回のMVPは間違いなくレオナ・ペンドラゴン。君だよ」
「ありがとうございます」
冷静に受け応える彼女は目の前の勝利に嬉々とせず、あくまで訓練生として、模擬戦として礼儀を弁えていた彼女ならではの対応なのだろう。
「鈴鹿訓練生もレオナ訓練生に対して猛攻する姿勢は素晴らしかった。今後も研鑽を重ねるといい」
「‥‥‥‥」
教官の介抱のもと意識を取り戻した鈴鹿は皆と同じように隊列に並んでいた。ゴーワンダ教官の言葉にも対して耳を傾けず、心ここに在らずといった状態だ。
「ゴーワンダ教官。少し質問よろしいでしょうか?」
それは僕たち訓練生ではなく、神林教官の質問だった。
「何かな?神林教官殿」
「この度の模擬戦。先ほどはいきなりクラス対抗でやると申し上げられたので迅速な対応を取ることができませんでしたが、もしかしてこれは学校主体としての動き‥ということでしょうか?」
傍目で聞いている僕たちには何を言っているのかわからない質問だが、先頭に立つレオナに関してはあまり動揺していなかった。それは鈴鹿も同じで‥
「ほぅ。流石は神林教官、その通りだよ。学年主任会議の結果、模擬戦形態の授業は学校全体として推進して行われることが決まった。それはクラス対抗のみならずクラス内対抗としてもな。狙いはどんな対象が相手になろうとも動じず冷静に立ち回る力や自分の持つ権能をどのように活かすかといった応用力を高めることにある。今や様々な形態の権能者は多い、銃や剣、弓といった武器オンリーの古典的な戦いはもはや絶滅ものだ。戦場では武器の技術よりも権能の力を高め、自由自在に扱える者こそが勝機を握る。実践的な教科を授業に織り交ぜることでより精度の高い兵士を我々は育成していく。全てはレオニド王国のために」
武器の技術よりも権能の強さ、か。改めて自覚させられる。この世界ではどんなに剣の技術を磨こうとも絶大な権能の力では無力だ。僕のような無権能者はそのうち排除されるだろう。
「ゴーワンダ教官‥‥ならそうと何故あなたは申し上げないのですか?毎回毎回貴方は言葉が足らない」
「む?そうか?ガッハッハッハッハ!!!」
反省の色が一色として見えないその態度に神林教官はため息を漏らすも、都合よく授業終了のチャイムが大広間内に響き渡りこの場は解散となった。残りの授業は兵法理論や武術における研究だった。先ほどゴーワンダ教官の言った通り、実践的な授業は1日に必ず一回行われるとのことだ。精神的にも肉体的にも疲労した僕は学校が終わるなり帰路に着いた。
鞄をソファに放り投げ、ベットに倒れ込むと今日1日を頭の中でリプレイ再生した。レオナ・ペンドラゴンというあの鈴鹿龍平を完封してしまう存在のこと。そんな鈴鹿龍平にも立ち向かう勇気もなく、ただクラスメイトがやられていく様を見ていた自分のこと。剣すら振るえず、兵士を名乗っている自分のこと。そうやって激しく自己嫌悪を続けていた。
「なんで俺、兵士目指してんだろ‥‥」
今思えば、とりわけ理由もなく僕は兵士を目指している。そんな理由で命をかけるお仕事に就くなんて馬鹿げてると思うけど、実際そうなんだからどうしようもない。僕は王国の少し外れた農村で育って、薪割りや牧畜とか手伝ったりして、平凡な生活を送ってたのにどうして兵士なんか目指してるんだ?村で過ごす子供たちを助けたいから?安定した職について豊かな生活を送りたいから?わからない。何か‥‥何か強い理由があったはずなのに、小さい頃から兵士を夢見てた。それしか覚えていない。なんで?どうして?そこらへんの記憶が、モヤがかかった見たいに曖昧だ。
「こんな気持ちでいるから‥‥俺は、兵士に‥」
瞼を閉じ、吐息が少しずつ深くなっていく。段々と意識が遠のいてくると、闇の世界へと吸い込まれていった。
——————
————
——
「やーい!カナタのお肉もーらい!」
そう言って赤毛で髪を二つに縛っている少女、アンは僕の皿から鴨肉を取り上げた。
「あ、ちょ!待っ————」
時すでに遅し、赤みを帯びた鴨肉はアンの口へと放り込まれ、モグモグと頬張っていた。
「んーーー!おいちい!!!!!」
「おいって、もう食ってんじゃねぇか‥‥」
「えへへ、カナタ!ご馳走様でした!」
そう言って礼儀だけはご丁寧にこちらは頭を下げた。いや、それがそれでムカつくんだけど。
「もう‥‥カナタは甘いんだから。はい、これ」
そう言って先ほどアンから取られた肉より一回り大きいものが俺の皿に盛られる。
「あ?いらねぇよ。毎度俺に何か食べ物献上してくるんじゃねぇよ!」
「でも、たくさん食べないとカナタが大きくなれない」
「別に肉一枚くらい————」
「じゃあ私が貰うーーー!!」
そう言ってさらに肉を貰おうとアンが手に持つフォークで俺の皿から肉を取ろうとすると、俺は急いで差し出された小腕を掴んだ。
「おめぇはさっき食ったろ!!これはもう‥‥俺の肉だ!」
「えっ—————」
今までの明るい表情からは想像できない今にも泣き出しそうな顔が現れる。目は充血して、目頭をうるうると潤していた。
「‥‥あーもういいよ!!ほらよ!!」
「あ!」
俺は自身のフォークで肉を刺すと、アンの口に差し出した。
「せめて半分こな。もうこれでおしまいだぞ?」
「うん!!ありがと!カナタ兄ちゃん!!あ!そうだ!今度私の風の力で面白いことしてあげる!フワフワしてて楽しいよ!!!」
キャッキャと上機嫌になるコイツを見てると自然に笑みが綻ぶ。俺はそっと、アンの頭を撫でた。
「あぁ、楽しみにしてるぜ」
「えへへ」
「もう‥‥カナタはアンに甘いんだから」
——
—————
————————
「‥‥ん」
不意に意識が覚醒すると、部屋のドアの向こうでドンドンと音を立てていることに気づいた。
「誰?」
「私だよ!わーたーし!」
え?誰だ?全然わからない。
「いや、あの。誰ですか?本当に」
「えー?私だよ?」
「いや誰ですか!?」
すると木の軋む音を立てながら扉を開け、ひょっこりと顔を出したのはアカネだった。
「もうー、声だけで私の声がわからないなんてカナタはまだまだだね」
「何がまだまだなんだよ‥‥それで?どうしたの?」
「今日ね!模擬戦あったでしょ!?クラス対抗な!!それでね!クラスのみんなでお疲れ会しよーって話になってね!それでカナタを呼びにきたの!カナタも一緒に戦ったもんね!」
こんな僕にも分け隔てなく優しくしてくれる。だからこそアカネはクラスメイト全員に好かれる存在なんだろうな。
「僕も参加していいの?」
「もちろん!ほら!みんな待ってるよ!!」
そして僕はアカネに連れられるがままに部屋を出て、寮内の食堂へと向かった。
レオナは軽く後方にステップを踏むと、右手に握られた木刀を水平に振るって向かいくる火炎網を引き裂く。
「炎を切ったぞ!?」
その声は鈴鹿でも、もちろんレオナでもなく周囲でこの戦いの行方を見守っている訓練生から発せられたものだった。1人の訓練生が驚愕《きょうがく》すると伝染して周りの訓練性もガヤガヤと騒ぎ始める。
「なんだそりゃ。チートかよ」
愚痴をこぼすも怯むことなく鈴鹿は攻撃を続行する。今度は左手と右手、両手に込められた熱を球状に固形化し、およそ11発の火炎弾を放つ。しかしレオナの前に儚く散った火炎弾は灰となり風に流される。今のところ互いにダメージを交わすことはないものの、実力差という壁だけは明確となっていた。
「凄い、自分の権能をよく理解しているんだね。汎用的なものから応用的なものまで。流石健さんの息子さんだね」
「親父だぁ?テメェなんだその上からの物言いはよぉ。絶対殺す。俺が、殺す!!!!」
飛び道具による遠距離戦がきかないなら今度は近接線に。鈴鹿は戦闘中における取捨選択が迅速なのかすぐさまレオナの右頬狙って拳を放った。
「死ねやこらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「だよね。君ならそうくると思った」
レオナがコンクリートの床を踏み込むと地面が破裂し、その場に衝撃波が発生するほどの回し蹴りが鈴鹿を吹き飛ばしていた。爆風が会場内に巻き起こりカナタも全身で衝撃の余波を感じていた。
「すごい‥‥これが、強者の闘い」
「いやいやいやおかしいって。相手はあの龍平だぜ?なんであいつ押されてんだよ。てかレオナちゃんどんだけ強いだよ‥‥」
すぐ横ではハルクが両膝を床につきながら衝撃波から身を守っていた。ふと目が合うとハルクはゆっくりと立ち上がって僕に目を逸らしながら話を始めた。
「な、なぁカナタ。ごめんな、お前のこと散々馬鹿にして」
「え?」
「ほら、俺たちさ。よく龍平と一緒にお前のこと笑ってただろ?権能もねぇくせに兵士やってんの?とかさ」
「それは—————」
確かに鈴鹿君にハルク君にラム君はよく僕をからかっていた。いじめと呼ばれるくらいに発展してはないけど、心地よいものではなかった。そんな彼がこの場でいきなり謝罪してきたことに少し動揺している自分がいる。
「都合がいいことはわかってる。でも、でもさ‥‥気づいちまったんだよ俺。結局権能なんて関係ない。俺は戦えるだけの権能を持ってるのに龍平と対峙した瞬間、その場から逃げちまった」
「ハルク君‥‥」
「こんなんで俺。兵士なんかになれるのかよ‥‥」
本当はここで励ましの言葉をかけてあげるべきなのだろう。けど僕にはその言葉をかける権利を持っていなかった。資格がなかった。だって僕も、この戦場に置いてまだ一度も剣を交えていないのだから。
瓦礫の崩壊音が聞こえると、コンクリートの床にめり込んだ鈴鹿が現れた。飛ぶ弾丸のように吹き飛び直撃を喰らったものの、決定打にはならなかったようだ。だがレオナ・ペンドラゴンという1人の強者の存在に驚愕を受けていることは彼の表情を見て分かった。
「テメェ‥‥」
這い上がった鈴鹿は砕け散った石片を握りしめると、レオナの顔面目掛けて投げつける。まばらに散った石片は虚しく彼女の剣撃の前に消滅する。もはや彼女の反射神経と剣の技術の前では鈴鹿の力は及ばないのだ。
「降参して」
「————は?」
彼女から放たれた言葉に鈴鹿は一瞬思考が停止する。それは彼にとっても予想外の問いかけだったからだ。
「このまま戦いを続けても貴方が傷つくだけ。再来月には剣戟祭もあるし、お互いに無駄な消費はしない方がいいと思うの」
「テメェ何言ってん—————なッ!!」
怒りと共に激昂した火炎の一撃を見舞おうと右手を突き出すもその掌からは火炎が噴出しなかった。それどころか彼は喘息患者のように勢いよくその場に咳き込んだ。
「マナも尽きた。君にはもう戦う力が残ってない」
四肢を地につけその場にうずくまる鈴鹿に向かってレオナは木刀の切っ先を向ける。それは言わずもながな、チェックメイトのサインだった。
「だ、ま、れ‥‥俺はまだやれる。こんなところで負ける玉じゃ‥‥ねぇッッ!!」
「そう」
まるで獣、鋭く光る眼光はレオナを捉えて離さない。そんな鈴鹿を傍目にレオナは躊躇なく右手に握られた木刀を振り下ろし、意識を刈り取った。
「試合終了!鈴鹿龍平のダウンにより、レオナ・ペンドラゴンチームの勝利!!」
ゴーワンダ教官による勝利の軍配が上がると、観客は今までにないほどの歓声を会場中に響かせた。それは鈴鹿龍平という学園きっての猛者の敗北。そしてレオナ・ペンドラゴンという未知数の覇者の存在が明らかになったこと。それだけで彼らを熱狂させるには十分だった。
「お疲れ様」
砂埃を一つ浴びず、鈴鹿龍平に対して文字通りの完全勝利をもぎ取った彼女は僕とハルクに声をかけてくれた。
「あ、ありがとうございました」
深々とお辞儀を返す僕に対して、ハルクはとその場に立ち尽くしていた。
「レ、レオナさん!あの、マジかっこよかったです!」
「あ、ありがとう?」
積極的に距離を詰めると、ハルクは目をハートにしてレオナを見つめていた。
「今度お食事とかどうすか?ほら、俺レオナさんに助けてもらいましたし、お礼も兼ねてってことで!」
「え‥いや、そういうのは——————」
「おいそこ何をしている?早く隊列につけ、悪いが今日は剣戟祭ではなくあくまで授業の一環。時間は有限だぞ!」
まさしくベストタイミングでゴーワンダ教官の指令がかかる。一度ハルクを見つめ微笑むと、ハルクはおもちゃを貰った子供のように笑顔ではしゃいでいた。
「まず、今日素晴らしい試合を見せてくれた勇猛果敢な10名の訓練生に拍手!!」
教官の言葉を合図に僕たち10名の訓練生に対して栄誉が送られる。僕としてはレオナによる一方的な勝利だった。途中から鈴鹿による爆炎の煙であたり全体が見渡すことができなくなっていたため、僕が誰とも戦わず及び腰になっていたものなど知らない。だからこそ観戦していた訓練生はなんのしがらみなくこんな僕にも賞賛を送ってくれるのだろう。
「今回のMVPは間違いなくレオナ・ペンドラゴン。君だよ」
「ありがとうございます」
冷静に受け応える彼女は目の前の勝利に嬉々とせず、あくまで訓練生として、模擬戦として礼儀を弁えていた彼女ならではの対応なのだろう。
「鈴鹿訓練生もレオナ訓練生に対して猛攻する姿勢は素晴らしかった。今後も研鑽を重ねるといい」
「‥‥‥‥」
教官の介抱のもと意識を取り戻した鈴鹿は皆と同じように隊列に並んでいた。ゴーワンダ教官の言葉にも対して耳を傾けず、心ここに在らずといった状態だ。
「ゴーワンダ教官。少し質問よろしいでしょうか?」
それは僕たち訓練生ではなく、神林教官の質問だった。
「何かな?神林教官殿」
「この度の模擬戦。先ほどはいきなりクラス対抗でやると申し上げられたので迅速な対応を取ることができませんでしたが、もしかしてこれは学校主体としての動き‥ということでしょうか?」
傍目で聞いている僕たちには何を言っているのかわからない質問だが、先頭に立つレオナに関してはあまり動揺していなかった。それは鈴鹿も同じで‥
「ほぅ。流石は神林教官、その通りだよ。学年主任会議の結果、模擬戦形態の授業は学校全体として推進して行われることが決まった。それはクラス対抗のみならずクラス内対抗としてもな。狙いはどんな対象が相手になろうとも動じず冷静に立ち回る力や自分の持つ権能をどのように活かすかといった応用力を高めることにある。今や様々な形態の権能者は多い、銃や剣、弓といった武器オンリーの古典的な戦いはもはや絶滅ものだ。戦場では武器の技術よりも権能の力を高め、自由自在に扱える者こそが勝機を握る。実践的な教科を授業に織り交ぜることでより精度の高い兵士を我々は育成していく。全てはレオニド王国のために」
武器の技術よりも権能の強さ、か。改めて自覚させられる。この世界ではどんなに剣の技術を磨こうとも絶大な権能の力では無力だ。僕のような無権能者はそのうち排除されるだろう。
「ゴーワンダ教官‥‥ならそうと何故あなたは申し上げないのですか?毎回毎回貴方は言葉が足らない」
「む?そうか?ガッハッハッハッハ!!!」
反省の色が一色として見えないその態度に神林教官はため息を漏らすも、都合よく授業終了のチャイムが大広間内に響き渡りこの場は解散となった。残りの授業は兵法理論や武術における研究だった。先ほどゴーワンダ教官の言った通り、実践的な授業は1日に必ず一回行われるとのことだ。精神的にも肉体的にも疲労した僕は学校が終わるなり帰路に着いた。
鞄をソファに放り投げ、ベットに倒れ込むと今日1日を頭の中でリプレイ再生した。レオナ・ペンドラゴンというあの鈴鹿龍平を完封してしまう存在のこと。そんな鈴鹿龍平にも立ち向かう勇気もなく、ただクラスメイトがやられていく様を見ていた自分のこと。剣すら振るえず、兵士を名乗っている自分のこと。そうやって激しく自己嫌悪を続けていた。
「なんで俺、兵士目指してんだろ‥‥」
今思えば、とりわけ理由もなく僕は兵士を目指している。そんな理由で命をかけるお仕事に就くなんて馬鹿げてると思うけど、実際そうなんだからどうしようもない。僕は王国の少し外れた農村で育って、薪割りや牧畜とか手伝ったりして、平凡な生活を送ってたのにどうして兵士なんか目指してるんだ?村で過ごす子供たちを助けたいから?安定した職について豊かな生活を送りたいから?わからない。何か‥‥何か強い理由があったはずなのに、小さい頃から兵士を夢見てた。それしか覚えていない。なんで?どうして?そこらへんの記憶が、モヤがかかった見たいに曖昧だ。
「こんな気持ちでいるから‥‥俺は、兵士に‥」
瞼を閉じ、吐息が少しずつ深くなっていく。段々と意識が遠のいてくると、闇の世界へと吸い込まれていった。
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「やーい!カナタのお肉もーらい!」
そう言って赤毛で髪を二つに縛っている少女、アンは僕の皿から鴨肉を取り上げた。
「あ、ちょ!待っ————」
時すでに遅し、赤みを帯びた鴨肉はアンの口へと放り込まれ、モグモグと頬張っていた。
「んーーー!おいちい!!!!!」
「おいって、もう食ってんじゃねぇか‥‥」
「えへへ、カナタ!ご馳走様でした!」
そう言って礼儀だけはご丁寧にこちらは頭を下げた。いや、それがそれでムカつくんだけど。
「もう‥‥カナタは甘いんだから。はい、これ」
そう言って先ほどアンから取られた肉より一回り大きいものが俺の皿に盛られる。
「あ?いらねぇよ。毎度俺に何か食べ物献上してくるんじゃねぇよ!」
「でも、たくさん食べないとカナタが大きくなれない」
「別に肉一枚くらい————」
「じゃあ私が貰うーーー!!」
そう言ってさらに肉を貰おうとアンが手に持つフォークで俺の皿から肉を取ろうとすると、俺は急いで差し出された小腕を掴んだ。
「おめぇはさっき食ったろ!!これはもう‥‥俺の肉だ!」
「えっ—————」
今までの明るい表情からは想像できない今にも泣き出しそうな顔が現れる。目は充血して、目頭をうるうると潤していた。
「‥‥あーもういいよ!!ほらよ!!」
「あ!」
俺は自身のフォークで肉を刺すと、アンの口に差し出した。
「せめて半分こな。もうこれでおしまいだぞ?」
「うん!!ありがと!カナタ兄ちゃん!!あ!そうだ!今度私の風の力で面白いことしてあげる!フワフワしてて楽しいよ!!!」
キャッキャと上機嫌になるコイツを見てると自然に笑みが綻ぶ。俺はそっと、アンの頭を撫でた。
「あぁ、楽しみにしてるぜ」
「えへへ」
「もう‥‥カナタはアンに甘いんだから」
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————————
「‥‥ん」
不意に意識が覚醒すると、部屋のドアの向こうでドンドンと音を立てていることに気づいた。
「誰?」
「私だよ!わーたーし!」
え?誰だ?全然わからない。
「いや、あの。誰ですか?本当に」
「えー?私だよ?」
「いや誰ですか!?」
すると木の軋む音を立てながら扉を開け、ひょっこりと顔を出したのはアカネだった。
「もうー、声だけで私の声がわからないなんてカナタはまだまだだね」
「何がまだまだなんだよ‥‥それで?どうしたの?」
「今日ね!模擬戦あったでしょ!?クラス対抗な!!それでね!クラスのみんなでお疲れ会しよーって話になってね!それでカナタを呼びにきたの!カナタも一緒に戦ったもんね!」
こんな僕にも分け隔てなく優しくしてくれる。だからこそアカネはクラスメイト全員に好かれる存在なんだろうな。
「僕も参加していいの?」
「もちろん!ほら!みんな待ってるよ!!」
そして僕はアカネに連れられるがままに部屋を出て、寮内の食堂へと向かった。
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目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
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