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国立魔法兵士学園編
第11話 黒き咆哮
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狭い路地を抜け、夥《おびただ》しい悲鳴が聞こえるもとへと進んで行く。道中転がる空き缶や砂利に足を取られ何度も転びそうになるも、壁を伝って体勢を整える。 そして次の曲がり角、そこを曲がれば全てが分かる。 出口が見えると、顔を青ざめる鈴鹿と手で口を覆うアカネが共通した方向を茫然《ぼうぜん》と見つめていた。 「みんな!一体何が————」 ———その時、カナタの呼吸が止まる。目に映ったのは黒く長身な化け物が30代半ばの女性の首を掴み、胴体を吊し上げていた光景だった。その女性はこちらに手を伸ばし、助けを求めている。 「ダ——ズゲ、デ————ダズッッ」 もはや女性特有の品性のある声とは程遠い。荒く、掠れ切った喉声が街頭路に響き渡る。 そして———— 膨れ上がった風船が割れたような破裂音がすると同時に、大量の鮮血が爆散し、電柱や木々に紅に染め上げる。 その光景を、僕たちはただ息を呑んで眺めることしかできなかった。 「まったく困りましたよ。あなたが騒いでくれたおかげで、お子さん見失ったじゃないですか」 化け物は格好に似つかない丁寧な言葉で、息絶えた女性に向かって語りかけていた。 「ん?」 堂々とその場に立ち止まっていたからか。当然と言うべきか。その化け物はこちらを振り向くと、喉の奥から音を鳴らした。 「おや?見られていましたか。それもこれまた3人に」 「——————ッ!!!」 誤魔化しが効かない。完全にカナタ達の存在がバレてしまったことによって、3人の硬直が解かれた。呼吸を忘れていたからか、ドッと疲労が押し寄せ、額に溜まった汗が噴き出す。 「アカネ、カナタ。テメェらはさっさと寮に帰れ」 「え?龍平君?————まさか!ダメだよ!」 何を察して感じたのか、アカネは左腕を龍平の前に出して行動を制する。 「やめろアカネ。このままコイツに背を向けて逃げたところで全員死ぬだけだ。足手纏いなお前らだけでもいなくなってくれた方が、俺の勝率が上がる」 既に鈴鹿の右手には炎が宿り。臨戦体勢を整えていた。 「炎ですか」 「いいからさっさと行けよ、死ぬぞ‥‥」 火力は時間が経つごとに激しさを増していく。いつ彼の炎が暴発するか、わからないほどに。 「だったら———私も闘う!!」 「あ!?バカ言ってんじゃねぇぞ!!これは模擬戦じゃねぇ!マジモンの殺し合いだ!下手すりゃテメェがッ!!」 「私も君も‥‥将来は兵士を目指す訓練生。どうせ数年後には命を賭ける戦場に立つんだもん。今やったって変わらない!!」 アカネは左手の掌を広げると、小規模の気流を生み出した。それは模擬戦で僕の前で披露した風の戦いを思い出させる。 「今度は風、ですか。それに話を聞けば訓練生。多勢に無勢でいじめじゃありません?」 ずっしりと響く重低音の声は確かに鈴鹿とアカネに聞こえているものの、それを無視して会話を進める。 「カナタ君は寮に戻ってこの事を伝えにいける?神林教官でも、寮長でもいい。とにかく、私たちがコイツを止めている間に!!」 「だからテメェも————いや、もういい。おいカナタ!!さっさと行け、邪魔だ」 アカネを追い出す事に観念したのか、鈴鹿はこちらに背を向けて化け物と正面向き合った。アカネも足を震わせ、冷や汗をかきながら覚悟を決めて鈴鹿の横に構えている。 「いややわぁ。最近の子は物騒で。おじさん悲しいわー」 顎を撫で、無い髭を逆立てるようにして化け物は嘆く。 「その訛りイラつくなぁ!二度と喋れねぇようぶっ殺してやる!!」 「行くよ!」 アカネの合図をキッカケに火蓋が切られる。まずは鈴鹿による猛攻。自身の権能である炎で体を浮かし、捻りながら殴りのモーションを取る。 「死ねッ!!」 「ちょいちょい!今の子ってそんな動きするん!?エグいって!!」 焦り散らす態度とは裏腹に、化け物は冷静に長い腕を巧みに動かして鈴鹿の拳を掌で押さえ込んだ。 「なッ!?」 「いやはやまったく恐ろしい。防御してもこの衝撃。結構鍛えてるでしょ?君」 「テメェ————変身系の権能か?人間の皮膚じゃねぇだろ」 突き上げた拳で確認するように、鈴鹿は化け物の手の感触を確かめると軽く笑みを浮かべる。それは何より、鍛え抜かれた一撃をこうも容易く受け止めた事実に対して、動揺を隠せていない証明だった。 「変身系‥‥それは違いますね。この姿は天然ものですので。君、自分の容姿を権能か?って疑われたことあります?」 「テメェと!一緒に!すんじゃねぇよ!!」 左手に込められた熱気を胴体目掛けて放出する。化け物は拳を掴んだ右手を瞬時に離し、龍平の頭蓋目掛けて拳を振り下ろす————が、その攻撃は突如として実行前に中止に追われる。背後から放たれるは無数の風の斬撃、細切れに刻まれた背部からは大量の黒い泥がぶちまけられたのだ。 「なるほど飛び道具ですか。これは一本取られましたね」 「おいどこ見てんだウスノロ!!」 今この闘いにおいて一瞬の隙を作ることは許されない。それを先に理解していたのは絶好の援護機会を伺っていたアカネ。そしてこれより攻撃を仕掛ける鈴鹿だった。化け物が爛《ただ》れた背中を確認した瞬間。左手と右手に宿した炎を一つに結集させ、超規模の火炎放射として顔面目掛けて解き放ったのだ。 猛火は爆音を上げて化け物に直撃し、破壊の力で黒き巨体を蹂躙する。
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