18 / 18
国立魔法兵士学園編
第18話 終幕
しおりを挟む
銀製の槍の火力は恐ろしく、レオナの一撃に匹敵する。決して余所見《よそみ》のできない激闘が一瞬の緩みも与えられずに繰り広げられていた。
「その無駄のない所作嫉妬してしまうほどに美しいですね。八体の子供達(ジャバウォック)の力を借りても尚隙を作らない胆力さには参ってしまいます」
もはや自分よりも強者であることを認めてしまっている発言。本来ならばそれは負けを意味するものになるのだが、サガは至って自らのスタンスを変える姿勢を見せない。それはレオナが背後に控えているカナタとアカネを守るため、嵐のように迫り来る攻撃を防ぐ事で手詰まり状態だからだ。
故に今行われている闘いはレオナの体力が底をつくまで行われる消耗戦。サガの狙いは明確だ。
————しかしレオナも1人の人間。長時間何重にも同じ動作を繰り返すことを強制されれば、いつしか綻んでしまう。放たれた強靭な刃は僅かに狙いが逸れ、コンクリートの壁に衝突すると。死線を免れた3匹のジャバウォック達がレオナの背後を掻い潜る。
「しまっ—————」
急いで体を反転させて半月の斬撃を放とうとするも、残り5匹の黒狼とサガの猛攻は途切れることなくレオナに襲い掛かる。
「ようやく貴方から奪い取れた好機。逃しはしません」
本能的にサガ達による攻撃を防ぐも、その間にジャバウォック達はカナタとアカネに向かって猛進する。
「——————アル・ウィンド」
この場にいる全員が眩く光る白光に視界を遮られた瞬間、放たれたジャバウォック達は無惨な屍となってその姿を現した。
「なにが、起こって」
光源の先に立っていたのは先ほどまで血反吐を撒き散らしながら、その醜態を晒していたカナタ本人だった。
「え—————君‥‥その体」
青く痣になっていた腕も、顔中から爛《ただ》れていた血傷も。彼が今救世主としてここにきたと錯覚するほどに綺麗さっぱり消え失せていた。驚愕するレオナ、唖然とするサガに、呻めき声を鳴らすジャバウォック。しかしそれらの姿は捉えられても、声がカナタの耳に届くまではいかなかった。全身に熱を帯び、モスキート音のような耳鳴り、高速に刻まれる心臓。今カナタは自分自身の存在をこの身に感じ取るだけで精々なのだ。
身体中が痛い、今この場に倒れ込んでしまえば確実に気絶する。頭痛も酷い、今まで味わったことのない苦痛だ。
頭を抑え、心中で悶絶するカナタの頭に馴染みのある声が反響する。
—————気をしっかりもって
—————君の心がまだ加護の力を拒もうと反発してる。心を落ち着かせて、私に身体を委ねて。
カナタは瞼を閉じて、忠告通り全ての意識を心の中に集中させる。すると鼓動は少しずつ微弱になり、燃え尽きそうな体も鎮火されていく。
目の前の景色が、音が、カナタの意識が段々と覚醒していくと。新しい世界がカナタの前に広がった。
「カナタ、君?」
そこには体が埃まみれになっているペンドラゴンさんがいた。先ほどまで神々しかった彼女が少しだけ、僕と同じく血を通わせる人間に見える。
「ご迷惑をお掛けしました。レオナちゃん」
「え?」
「あ」
思わず口を手で抑える。極限の瀕死状態で頭が狂ったのか、ありえない言葉を口から走らせた。
「すみません。ペン‥‥ドッ‥‥レオナさん」
何故だろう。思ったように喋ることができない。やっぱりこれも死にかけたからなのか?いや、アカネが言っていた代償なのかもしれない。
「君大丈夫なの?さっきまで大怪我してたんじゃ。いやそれよりもさっきの技—————」
「継承の儀式‥‥‥何故それを君が?いや、彼女が」
今まで戦闘中においても冷静であったサガが珍しく動揺を見せていた。
「彼女の言っていた子とはあの子ではなくこの子だったのか?だとしても————」
—————放っちゃおう!
「え?あ————アル・ウィンド!」
意図せず放たれた風刃はレオナの真横を通ってサガに直撃すると、握られた鉄槍が落ちるとともに、2本の片腕も千切れる。
「先ほどまで、あの少女にここまでの威力はなかった。なるほどつまり君が‥‥そうですか、尚更貴方を殺さなければなりませんね」
サガは即座に2本の腕を複製すると、レオナを無視してこちらに突撃する。
「待って」
しかしレオナも敵の自由勝手を許すわけもなく、鋭い斬撃をサガの背後目掛けてぶっ放した。
「—————ッ!」
「カナタ君、色々聞きたいことがあるけど。まずはこの化け物を始末しよっか。さっきの攻撃で狼たちは倒せられる?」
「は、はい!大丈夫ですっ!任せて下さい!」
ちらりとだけこちらを振り返ると、かすかに微笑みながら顎を引いて頷いた。
「怪物”六手のサガ”。本気で、貴方を殺す」
黄金の剣を天に掲げると、夜の月が彼女を祝福するかのように、月光がその身に集約される。
「————困りましたね。先ほどまで将棋で言う歩の駒にすらならなかった君が、いつのまにか金に匹敵する力を手に入れたことで。一気に詰みかけられてますよ」
サガは一度沈黙を決めると、青白に光輝く彼女の剣を凝視する。
「やはり力を抑えていましたか、最初から私に勝ち目はなかった。君の登場が全てを狂わせましたよレオナ・ペンドラゴン。いつか、またいつか。貴方と巡り合う時が来たら————その時は必ず」
極光が夜を一瞬にして世界を真昼に変えると同時に、大気が、地面が振動を帯びながら解き放たれる。
その剣撃にサガは一切の抵抗を見せずに飲み込まれると、路地一帯を—————否、街全体を暴風が吹き荒れる。
そしえたった今、永遠に思われた絶望は、雌雄を決してその幕を下ろす
「その無駄のない所作嫉妬してしまうほどに美しいですね。八体の子供達(ジャバウォック)の力を借りても尚隙を作らない胆力さには参ってしまいます」
もはや自分よりも強者であることを認めてしまっている発言。本来ならばそれは負けを意味するものになるのだが、サガは至って自らのスタンスを変える姿勢を見せない。それはレオナが背後に控えているカナタとアカネを守るため、嵐のように迫り来る攻撃を防ぐ事で手詰まり状態だからだ。
故に今行われている闘いはレオナの体力が底をつくまで行われる消耗戦。サガの狙いは明確だ。
————しかしレオナも1人の人間。長時間何重にも同じ動作を繰り返すことを強制されれば、いつしか綻んでしまう。放たれた強靭な刃は僅かに狙いが逸れ、コンクリートの壁に衝突すると。死線を免れた3匹のジャバウォック達がレオナの背後を掻い潜る。
「しまっ—————」
急いで体を反転させて半月の斬撃を放とうとするも、残り5匹の黒狼とサガの猛攻は途切れることなくレオナに襲い掛かる。
「ようやく貴方から奪い取れた好機。逃しはしません」
本能的にサガ達による攻撃を防ぐも、その間にジャバウォック達はカナタとアカネに向かって猛進する。
「——————アル・ウィンド」
この場にいる全員が眩く光る白光に視界を遮られた瞬間、放たれたジャバウォック達は無惨な屍となってその姿を現した。
「なにが、起こって」
光源の先に立っていたのは先ほどまで血反吐を撒き散らしながら、その醜態を晒していたカナタ本人だった。
「え—————君‥‥その体」
青く痣になっていた腕も、顔中から爛《ただ》れていた血傷も。彼が今救世主としてここにきたと錯覚するほどに綺麗さっぱり消え失せていた。驚愕するレオナ、唖然とするサガに、呻めき声を鳴らすジャバウォック。しかしそれらの姿は捉えられても、声がカナタの耳に届くまではいかなかった。全身に熱を帯び、モスキート音のような耳鳴り、高速に刻まれる心臓。今カナタは自分自身の存在をこの身に感じ取るだけで精々なのだ。
身体中が痛い、今この場に倒れ込んでしまえば確実に気絶する。頭痛も酷い、今まで味わったことのない苦痛だ。
頭を抑え、心中で悶絶するカナタの頭に馴染みのある声が反響する。
—————気をしっかりもって
—————君の心がまだ加護の力を拒もうと反発してる。心を落ち着かせて、私に身体を委ねて。
カナタは瞼を閉じて、忠告通り全ての意識を心の中に集中させる。すると鼓動は少しずつ微弱になり、燃え尽きそうな体も鎮火されていく。
目の前の景色が、音が、カナタの意識が段々と覚醒していくと。新しい世界がカナタの前に広がった。
「カナタ、君?」
そこには体が埃まみれになっているペンドラゴンさんがいた。先ほどまで神々しかった彼女が少しだけ、僕と同じく血を通わせる人間に見える。
「ご迷惑をお掛けしました。レオナちゃん」
「え?」
「あ」
思わず口を手で抑える。極限の瀕死状態で頭が狂ったのか、ありえない言葉を口から走らせた。
「すみません。ペン‥‥ドッ‥‥レオナさん」
何故だろう。思ったように喋ることができない。やっぱりこれも死にかけたからなのか?いや、アカネが言っていた代償なのかもしれない。
「君大丈夫なの?さっきまで大怪我してたんじゃ。いやそれよりもさっきの技—————」
「継承の儀式‥‥‥何故それを君が?いや、彼女が」
今まで戦闘中においても冷静であったサガが珍しく動揺を見せていた。
「彼女の言っていた子とはあの子ではなくこの子だったのか?だとしても————」
—————放っちゃおう!
「え?あ————アル・ウィンド!」
意図せず放たれた風刃はレオナの真横を通ってサガに直撃すると、握られた鉄槍が落ちるとともに、2本の片腕も千切れる。
「先ほどまで、あの少女にここまでの威力はなかった。なるほどつまり君が‥‥そうですか、尚更貴方を殺さなければなりませんね」
サガは即座に2本の腕を複製すると、レオナを無視してこちらに突撃する。
「待って」
しかしレオナも敵の自由勝手を許すわけもなく、鋭い斬撃をサガの背後目掛けてぶっ放した。
「—————ッ!」
「カナタ君、色々聞きたいことがあるけど。まずはこの化け物を始末しよっか。さっきの攻撃で狼たちは倒せられる?」
「は、はい!大丈夫ですっ!任せて下さい!」
ちらりとだけこちらを振り返ると、かすかに微笑みながら顎を引いて頷いた。
「怪物”六手のサガ”。本気で、貴方を殺す」
黄金の剣を天に掲げると、夜の月が彼女を祝福するかのように、月光がその身に集約される。
「————困りましたね。先ほどまで将棋で言う歩の駒にすらならなかった君が、いつのまにか金に匹敵する力を手に入れたことで。一気に詰みかけられてますよ」
サガは一度沈黙を決めると、青白に光輝く彼女の剣を凝視する。
「やはり力を抑えていましたか、最初から私に勝ち目はなかった。君の登場が全てを狂わせましたよレオナ・ペンドラゴン。いつか、またいつか。貴方と巡り合う時が来たら————その時は必ず」
極光が夜を一瞬にして世界を真昼に変えると同時に、大気が、地面が振動を帯びながら解き放たれる。
その剣撃にサガは一切の抵抗を見せずに飲み込まれると、路地一帯を—————否、街全体を暴風が吹き荒れる。
そしえたった今、永遠に思われた絶望は、雌雄を決してその幕を下ろす
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?
サクラ近衛将監
ファンタジー
神様の眷属の過失が原因の事故に遭って死んだ桜庭雄一が異世界に転生したら、とある国の忌避すべき王子として幽閉されていた。
転生にはチートがつきもののはずだが、事故で死んだ者が300名を超えるために、個別にチートは与えられず、転生先の者の能力を生かせと神に告げられている。
「神の加護」ではないけれど、「恩寵」が与えられているので、当該異世界では努力を為した分、通常に比べると成果があるらしい。
これはとある国の幽閉王子に転生した男の冒険譚である。
原則として、毎週月曜日20時に投稿予定です。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる