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chapter one

1.始まりの扉を開ける時

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ある国のある街には、我儘で傲慢な伯爵がいた

その伯爵は、まだ若いのにもかかわらず失脚した父の代わりに当主としての役割を果たしていた

「なあ、アベル今度の使用人は虐めてやるなよ
また見つけてくるのが面倒だ」

アベル・サラステア・ローデンベルク伯爵

彼は、この街を治めている伯爵である

話しかけたのは、彼の護衛であるナキア・ウォルタ

「ふん、軟弱者が多過ぎるのだ
それと馴れ馴れしい口をきくな」

アベルは、ナキアをきつく睨む

まだ、幼いが黒い髪と鋭い目がその風格を際立たせていた

「そんなこと言って、お前の所為で貴族のやつらは、ここを怖がっちまって平民や身分の定かじゃないやつまで候補に入れなきゃならない」

それをどこ吹く風とナキアは、流す

ナキアも、アベル程ではないにしろまだ若く新兵に見えなくもない

地毛である派手な赤い髪がより、そう見せているというのもある

「どんな奴が入ってきてもしらねえぞ」

伯爵ともなれば、使用人も貴族やその配下の者など身分が保証された者が務める

しかし、そのほとんどが根をあげて辞めてしまう上にそれを聞いた者もと噂は鼠算式に広がっていた

「今回だって、そこまでして合格したのは、ひとりだけだぜ?」

しかも、この職場につくためにはそのための試験に合格しなくては、ならない

「…そんなんだからモテないんだよ」

ナキアがぼそりと呟く

「何か言ったか」

アベルの纏う空気が剣呑になった

「いえなにも」

ナキアは、明後日の方向を見る

「…まあ、いい
それでその使用人は、今日から働くのだろう?」

「そっすよ、そろそろ来るはず」

というところで都合よくノックの音がする

「なんだ」

「新しい使用人という者が見えております」

ナキアは、ちょうどきたようだなと呟いた

「通せ」
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