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chapter two

14.送られてきた手紙

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アベルが攫われた翌日

疲労は、残るもののそれ以外に損傷はなく

無事に職務を果たしていた

今は、昨日やるはずであった机にうず高く積まれた書類を片付けている

すると扉を軽くノックする音が聞こえる

「入れ」

入って来たのは、シャリオにティーセットを乗せて来たミリアだ

ミリアが、適度なタイミングでやって来るのはいつものことなのでアベルも気にした様子はない

それに便乗してナキアまで参加しているのは、護衛としてどうかと思うが

「なあ、ミリアなんでポットが2つもあるんだ?」

確かにティーカップだけでなくポットまで、2つ置いてある

「右側が、ご主人様
左側がナキア様のものになります」

どうやら、2人用に別々のものを用意したらしい

「中身が違うのか?」

「はい、ご主人様はロブスタのコーヒー
ナキア様は深蒸し煎茶です」

どちらにしても年にしては、渋いチョイスだ

「へー、お前そんなもん飲んでたんだな
確かロブスタて相当苦いよな」

それをアベルは、ストレートで飲んでいる

「あーだから、菓子も2種類あったのか」

アベルには、チョコとバターのフィナンシェ

ナキアには、いちごの大福

「…貴様、少しは静かにできんのか」

無言でコーヒーを飲んでいたアベルは、呆れたように言った

「なんだよ、少しくらいいいじゃねーか」

ナキアもぶつぶつと文句を垂れ始める

「良かったなそんな無口で仏頂面なおまえでも顔色読んで好みのコーヒー淹れてくれる使用人ができて」

と皮肉をこぼす

「…ふん」

ここで怒らなくなったのもミリアによる影響だろうと思う

がそれを言ったら今度こそ腰に挿してあるものを抜かれかねないので黙っておく

「ご主人様先程執事長の方から手紙を預かっております」

取り出したのは黒い封筒に鴉の描かれた赤い封蝋が押されていた

「……」

眉間のしわを濃くしたアベルは、黙ってそれを受け取る

読み終わる頃にはより機嫌を悪くしていた

「どうしたんだ、そんなおっかない顔して」

ナキアは、大福を頬張る手を止めずに聞く

「メリストから…この屋敷に来るそうだ」

「…今なんつった」

パリンと音がした

それは、ナキアがもつカップが粉々に割れた音だ

「ナキア様お怪我は、ございませんか」

「あ、ああ
悪いな、せっかく淹れてもらったのに」

はっとして、生気を失いかけていた目に光が戻る

「…なあ、アベル
俺長期休暇とってもいいか?」

「許さん」

即答だった

「…で、いつ来るんだ?」

「明日だ」

「…アベル、頭が痛くなってきた
休みをくれ」

「心配するな、それは精神からくるものだ
よって、お前には明日も働いてもらう」

どうやら、ナキアを逃す気はないらしい

そもそもなぜふたりがこんなに不快気なのかがわからない

「…ご主人様、お客様がいらっしゃるのでしたら色々と準備がございます
席を外してもよろしいでしょうか?」

なんにせよ、明日と言うならばいち早く始めねば

「…ああ、たのんだ」

そう告げた時のふたりの顔が余命宣告を受けた時のような顔をしていてミリアはお客様への対応を入念に考えることにした
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