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chapter four

34.3度目の侵入

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「さて本日は、どのような御用でしょうか」

その言葉にふたりはらごきゅりと喉を鳴らして身構える

居住まいを正し深呼吸してから口を開く

「まず最初に…悪かった!!」
「ごめんなさい」

ふたりして頭を下げる

「全部オレ達の勘違いだった」

「…その返答は、私にではなくご主人様にお聞きください
私が簡単に答えていいものではありませんので」

まあ、それはそうだとふたりも頷く

「…それを承知で頼みがあるんだ」

「頼み事ですか?」

続きを言おうとするカイルをソラが止める

「ボクが言う…ボクが言い出したことだから」

「…わかった、けどオレも納得してここに来た
怒られんならオレも一緒だ」

「…うん」

もとより、話すことがあまり得意ではないソラ

一言をひとつひとつ選んで口にする

「…ボク達の母さんを、助けてください」

まずはこれを言わなければと思った

彼等の一番の望みはこれだから

そこから拙いけれど精一杯の言葉で事情を説明する

それを急かすこともなくミリアは話を聞く

「…やはり、その件に関してもご主人様とエリス様にお伺いしないことには」

それを聞いてふたりの目は不安そうに揺らぐ

「ご安心ください
ご主人様との面会の場は私がご用意しましょう」

その言葉に驚き下げていた頭をばっと上げる

「…いいのか?」

「もちろんです」

そんなこと、してもミリアにとってなんの得もない

彼等には、ここまでしてもらえる理由が浮かばなかった

「どうして…」

「そうですね、お客様には最大の礼儀をというのが使用人の心得ですから」

少し茶化したようにミリアは言う

その後に声のボリュームを下げて

「それに、ご主人様もそろそろ前を向かなければなりません」

ふたりには、その意味がわからず首をかしげる

アベルは、いまだ父のことを引きずっている

小さな子供になぜお前だけと嫉妬で駄々をこねてしまうほどに

だが、いつまでも過去にしがみついてはいられないのだ

恐らく今回のふたりの事情に過去を重ねるだろう

それを聞き入れることができれば過去を乗り越えるきっかけは得られるはずだ

「お気になさらず
私は、私の事情で動いているだけということです
…そろそろ仕事がひと段落つくころです
頃合いをみて伺いましょう」

いまだ理解のできていないふたりだがそれより今は優先すべきことがあるため素直に頷く
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