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ヴェーメル団長の抱き枕に関する謎習慣
2.
しおりを挟む――困ったなあ。
ピネッキ砦にも第三聖騎士団の団員が、砦の隣にある宿場街グロムにも住民がいることはいる。しかしかれらはすでに枕をもっている。つまり、贔屓の呪具師がいる、あるいは汎用枕なりDIYキットなりでなんとかしている。「若いわりに腕がいいです」くらいでは新規の顧客は見込めない。ヴェーメル団長は顧客になってくれそうだがたったひとりでは呪具師として独立どころか、生活も成り立たない。まさか一夜にして呪具師としての基盤をまるごと失う羽目になるとは。
馬車ががたがた揺れながら道の脇へ横滑りしていく。
「あっ、危ない」
手綱を微妙に絞ったまま、ヴェーメル団長がぼんやりしている。このままだと馬車が路肩に乗り上げてしまう。エステルは驚かせないようそっと大男の腕に触れた。
「少し、緩めましょう」
「……っ、すまない」
「早めに野営の支度をしませんか」
「しかし砦に戻らねば……」
充血した目をしばたたかせ、ヴェーメル団長は
「分かった」
唇を噛んだ。
ぼろぼろよれよれのわりにヴェーメル団長はてきぱきと野営の準備を始めた。街道から少し外れた、木立が目隠しになるこぢんまりした空き地を選び、馬を休ませる。水場もある。手際がよい。エステルが感心するとヴェーメル団長はぽ、と頬を染めた。
「体に染みついているからだろう。聖騎士は皆そうだ」
「内勤なので存じませんでした」
しかしほぼ一週間不眠状態はやはりこたえるらしい。テントを一張り設営して水を汲んだところでヴェーメル団長はぐったりくずおれた。
「休んでください」
「そういうわけにも。薪を集めなければ」
「やっておきます。休んでください」
「見張りも……」
「いいから休んでくださいってば」
団長をテントに押し込み、エステルは木立へ向かった。食べられそうなきのこを見つけたが野営慣れしていて、且つ他人のやりかたを受け容れそうにない聖騎士が厭がるに違いないので採るのはやめておく。
「それよりも――あった、あった」
薪を集めるついでに足もとから香草や蔓を選り分け、摘んだ。戻ると、団長が石を積んで即席の竈をつくっている。じっとしていられないのだろうか。
「休んでいてくださいって、申し上げたじゃないですか」
「すまない……」
団長がしょんぼりうなだれ、どうせ眠れないし、とぽそぽそつぶやく。
「それをどうにかするためにいろいろ摘んできましたから」
「草?」
「ええ、草です」
あまりに強情なのでエステルは団長に火熾しを任せた。その間に木立とテントを往復してさらに薪と香草を集め、鉈で薪の先をちょいちょい削って杭をつくる。野営地を囲むように杭を打ち、香草の束を等間隔にくくりつけた蔓を張りめぐらせた。
「それは……?」
団長から声がかかる。
「獣除けです。効果はせいぜいひと晩、気休め程度ですけど」
杭の傍でひざまずいた団長が香草の束にそっと顔を寄せる。
「いい香りだ」
「呪具師がつくるのは枕だけじゃないんですよ」
「そうか。そうだったな」
頑固で気難しげな顔が笑みでかすかに和んだ。
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