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転勤しました
3.
しおりを挟む管理部の窓口でエステルが遅れて経費精算書類を提出しようとしている聖騎士と受理をめぐりやいのやいの言い合っていると
「ほんとに来た……」
ヴェーメル団長が姿を現した。汗を流して隊服に着替え、さっぱりしたいでたちだが眉間に深く皺が寄り不機嫌そうだ。窓口の中へ入ってくると
「交代しよう。きみは提出書類の確認を頼む」
エステルから書類を受け取り、窓口の席に着いた。座っても大きい。大きすぎて圧が強い。
「次の者はランキラ殿に書類を渡せ。呼ばれるまで待機だ」
てきぱきと捌く。そしてざっと提出書類に目を通すと、先ほどまでエステルと言い合っていた聖騎士を窓口に呼んだ。
「修正の上で再提出しろ」
「お、お言葉ですが団長、今まではこれで受理されていたんです。どっ、どこがいけないのでしょうかっ」
窓口の奥で次の書類を確認しつつ要修正箇所に付箋を貼っていたエステルは呆れてがっくり椅子から落ちそうになってしまった。
――どこがいけないって、どこもかしこもでしょうが。
適当に書き殴っただけのその精算書は添付の領収書と日付も品目も単価も店名も何もかも合っていない。ちゃんと所定の位置に正しく書き込めているのが所属と名前だけという体たらくだ。くだんの聖騎士はエステルにそのめちゃくちゃな精算書の修正が管理部の仕事だと主張していたんである。
「開き直られても困るな」
ヴェーメル団長が小さく笑った。不機嫌な表情のまま唇を歪ませるのでだいぶ迫力がある。
「俺はいきなり聖騎士になったのではない。修練と勉学と研修を経てここまで来ているのだ。もちろん経費精算の手順も知っている。書類作成を人任せにしていると思ったら大間違いだぞ」
「しかし……っ」
「仮にこのまま提出するとして」
こつ、こつ。
指先でカウンターの上の書類を突く。
「きみは管理部の手伝いに駆り出されている俺の秘書官に文書偽造をしろというのか。しかしもへったくれもない。修正の上で再提出しろ。期限は明日の朝だ。次も修正箇所が残っているようであれば人事考課の査定に反映させるようきみの上長に申し送りしておく。読み書き足し算引き算もまともにできない者など聖騎士団に必要ない」
管理部の窓口前がしん、と静まり返った。
潮が引くように行列が解け、聖騎士たちがとぼとぼと戻っていく。列の二番目に並んでいた男だけが残っていた。書類がエステルのもとにあるからだ。
「えっとですね、こちらとこちらとこちら――記入漏れです」
「はい」
「記入して、明日の朝に再度提出してください」
「は、はいいぃいっ」
先ほどまでと打って変わっておっかなびっくり書類を受け取り、男は脱兎のごとく管理部から出て行った。閑散とした窓口の内側でエステルはぽかんと呆れた。
「いったい何なの……」
「何だろうな。――さて、定時過ぎている。窓口を閉めよう」
扉の外に受付終了の札を出すと、ふたりで片づけを始めた。よその部署だからということもあってさわっていい場所は多くない。さして時間をかけることなく片づけ終わり、引き継ぎのメモを置いて施錠し、管理部を後にした。
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