聖騎士と眠りの魔女 ―ダブルワーク女子は抱き枕の身代わり―

uca

文字の大きさ
33 / 87
十年待ったといわれても

2.


「主も非があると思っているのだろう。こうして外国にまで連れてきてくれた」
「もしかしてルドんとこの主、競技会におまえの見合い相手を探しに来てんのか」

 テイメンは呆れ声を抑えられなかった。
 騎士の交流の場というと競技会か、あるいは社交だ。シーズンまでまだ間がある社交の場には結婚相手を探す若い男女が集うものの、主家の令嬢と新しい婚約者もまた人脈を広げるべく参加するわけで、「うちの娘が捨てた男なんだが拾っちゃくれんかね」などと運動してまわるわけにいかない。ルドの主としては娘の新しい婚約者をお披露目することになる社交シーズン到来前に片をつけたいのだろう。

――悪手が過ぎるというものだろう。

 背は高いものの、ひょろひょろのルドはいかにも弱そうに見えるし実際腕っ節はからっきしだ。腕自慢の騎士が集う競技会に連れてこられては見劣りしてしまう。結婚適齢期の娘があり、且つ跡取り息子のいない騎士に見初められる可能性は皆無といっていい。

「ルド、オレといっしょに聖騎士目指そうぜ。叙任は教会だから領地だの人脈だののしがらみが少ないし」

 聖騎士団は教会に属する領地に縛られない武官組織だ。武術のみならず神学や教法など幅広く高度に修める必要があり、狭き門となっている。
 一から聖騎士を目指すには幼いころから聖地で修練と奉仕に励む必要があるが、幸いなことにルドもテイメンと同じく従騎士としてのこれまでを基礎ができていると認めてもらえる。ルドの主としては「娘も悪かったが、ルドも心変わりしたのだ」と事後承諾で無理くりルドの実家に飲み込ませ、ついでに婚約破棄の違約金だの何だのもしらばっくれるつもりだろうが、一転聖騎士を目指すとなれば実家の許しが必要となり、うわばみ娘の愚行により割を食うルドの不幸が露呈されることになる。

「主に申し訳ないから……」
「ぜんっぜん、そんなことないんだぞ?」

 むしろ困らせてやっていい。一人娘かわいさに騎士と騎士の約定やくじょうたがえたルドの主には相応の制裁が科されて当然だ。

「そういうわけにもいかない」

 ルドは大儀そうにふらつきながら馬車の荷台から降りた。

「競技会の不眠相談窓口へ行くようにいわれている。主なりに気を遣ってくれているんだ」

 クショフレール大公国は変わった国だ。マウエン教世界の敵、魔界の防衛拠点として建国に至った特殊な経緯もさることながら、国土が魔界の呪いに覆われ、国民だけでなく外国人も滞在三日目から不眠に苛まれる。
 ルドの健康を損ねているのは呪いよりうわばみ娘の愚行に違いないとテイメンは見ているが、たとえ数日であってもこの国に滞在するならば確かに呪具師に相談するのが良策だ。何度かこの地を訪れたことのあるテイメンは不眠が命を脅かしかねないことを厭というほど思い知らされている。

「行ってくる」
「お、おう」

 テイメンは競技会場の窓口へとぼとぼ向かうルドの後ろ姿を見送るほかなかった。


 競技会場の受付近くに設けられた不眠相談窓口には天幕が並んでいた。受付をすませると呪具師が待機する天幕へ順番に案内されるようだ。まわりは若い騎士や従騎士で混雑している。ほとんどがルドと同じく初めて不眠の呪いに苛まれるとあって、競技会前の緊張も相俟って不安と焦燥で空気がぎすぎす荒んでいた。

「順番を守れよ」
「横入りするな」

 普段から荒んでいるわけではないのだろうが、いらいらが募って騎士の誓いなど消し飛んでしまっているようだ。

――怖い。

 ルドはおどおどと行列の末尾を探したが、あちらでもこちらでも若者たちが角突き合わせているのを避けるうち隅っこへ押しやられてしまった。
 古びた天幕の前で神官と老婆が立ち話をしている。

「――どうだろうか。耐性の高い若者は見つかりそうかね」
「そんなこと訊かれてもね。まずここまで辿りつく子がいないのでは、――おやおや」

 老婆がルドを振り返り目を瞠った。

「お客さんがいらっしゃったよ」
「邪魔をした。――眠りの魔女殿、わたしはこれで」

 礼服の裾を優雅に捌いて神官がまず老婆に、次いでルドに会釈をして去った。

「お入り、若いお人」

 導かれ、ルドは身をかがめて天幕に入った。
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される

日下奈緒
恋愛
敵国との戦に敗れた皇女リゼリアは、すべてを失い、命すら奪われるはずだった。 だが彼女の前に現れたのは、敵国の皇太子アルヴィオン。 「その方に手を出すな」――彼はそう命じ、リゼリアを花嫁として連れ帰る。 両国の友好のための政略結婚。けれどリゼリアは、祖国を滅ぼした男に心も体も許すことができず、初夜を拒み続ける。 それでもアルヴィオンは怒ることなく、花園へ連れ出し、町の視察に同行させ、常に隣で守り続けた。 「君は俺の妻だが、何か?」と堂々と庇う姿に、閉ざしていた心は少しずつ揺らぎ始める。 そんな中、祖国再興を目指す家臣が現れ、彼女に逃亡を促す。 民のため、皇女としての責務を選び、城を抜け出すリゼリア。 だが追ってきたアルヴィオンに捕らえられた彼女に向けられたのは、怒りではなく、切実な想いだった。 「放さない。君を愛しているんだ。一目惚れなんだ」――その言葉に、リゼリアの心はついにほどける。 敵として出会い、夫婦となった二人が選ぶのは、過去ではなく、共に築く未来。 これは、初夜を拒んだ皇女が、溺れるほどの愛に包まれていく物語。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる

今泉香耶
恋愛
王女エレインは隣国との戦争の最前線にいた。彼女は千人に1人が得られる「天恵」である「ガーディアン」の能力を持っていたが、戦況は劣勢。ところが、突然の休戦条約の条件により、敵国の国王の側室に望まれる。 敵国で彼女を出迎えたのは、マリエン王国王弟のアルフォンス。彼は前線で何度か彼女と戦った勇士。アルフォンスの紳士的な対応にほっとするエレインだったが、彼の兄である国王はそうではなかった。 エレインは王城に到着するとほどなく敵国の臣下たちの前で、国王に「ドレスを脱げ」と下卑たことを強要される。そんなエレインを庇おうとするアルフォンス。互いに気になっていた2人だが、王族をめぐるごたごたの末、結婚をすることになってしまい……。 敵国にたった一人で嫁ぎ、奇異の目で見られるエレインと、そんな彼女を男らしく守ろうとするアルフォンスの恋物語。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました