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十年待ったといわれても
5.
しおりを挟むなんといえばいいのだろう。エステルは困惑していた。
十年前のその日のことを、ぜんぶがぜんぶではないが、覚えている。当時、エステルはまだ口にしては駄目なタイミングで口にしてはいけない魔人風ジョークを思いつきぺらぺらしゃべってしまう悪癖を制御できていなかった。「みょうなまじないを依頼されてどうせお客は来やしないから暇だって、おばあちゃんいってたし」と思いついた魔人風ジョークの話をしにいったら若い男の客がいた。優しそうで繊細そうで、背が高いというよりひょろひょろと長いという印象のその人の前で思いついたばかり、ほやほやのゼボデムイルのネタを披露したら泣き出したんだった。
――魔人風ジョークがくだらな過ぎて泣かせてしまったんだと思ってた……。
実際は初恋の衝撃に耐えきれず落涙したということらしい。
――十九歳の男のひとってそんなに繊細なのか。
エステルも一年前は十九歳だったわけだが、同じように繊細だったかどうか、分からない。それより目の前の世話好きでやたらぐいぐいくる巨漢上司が十年前の繊細男子と同一人物ということが信じられない。さらに
――十年前って私、十歳なんだけど……。
このことである。嬉しい、と手放しに喜ぶことははばかられ、しかし呆れたと斬り捨てるにしのびない。
「ええっと……」
「うむ。祖母君、キヴァリ殿もだいぶ困っておいでだった」
団長はうなずいた。
「きみは当時十歳、いとけない少女だった。結婚は早い」
「そりゃ、まあ……」
「その顔はアレだ、俺が小児性愛者ではないかと疑っているのだろう」
「う、……ええ、まあ」
当時エステルは十歳である。美少女であったかどうか以前に十歳の少女に十九歳の青年がガチ恋となると子ども好きの範疇を大幅に逸脱している可能性を無視できない。
「自分でもそこ、どうかと思った……。でも、子どもであれば誰でもよかったわけじゃない。きみだけなんだ」
「はい。ええっと、よかった、……のでしょうか」
熱烈な愛の告白なのにどうにもこうにも乗り切れない。乗っていいのかどうかすら分からない。
「結婚を申し込もうにもそもそも当時俺は一介の従騎士に過ぎなかったわけで」
しかも婚約者のやんちゃの煽りを喰らって騎士叙任が遅れ気味の上に、当の婚約者からも主からも捨てられた身である。他の娘、しかも年端もいかない子どもに執心している場合ではない。
「そこにやってきたのが大神官ドミニクスさまだ」
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「もう、いない」
団長は肩を落とした。
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