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シーララ山の潜伏者
2.
「不作不猟は今回が初めてではありません」
魔物狩人組合は六十年ほど前に起きた魔物絶滅の危機に対処するためにつくられた。
ピネッキ砦ができて以降、魔獣や魔植物の蔓延や襲来に手を焼いていたはずが狩猟や採取の方法が確立し、剥製やら薬やまじない素材として利用価値が生じるとハンターが殺到した。むちゃくちゃに狩りをするわ挙げ句死者が多発するわで魔物が絶滅に瀕するころには魔物はクショフレール大公国での不眠症対策に必須であるだけでなく、重要輸出品として無視できない利益を生むようになってしまった。絶滅しては取り返しがつかない。そこでピネッキ砦に設けられた魔物狩人組合に管理が一元化されることになった。密猟が全くないとはいわないが、そもそも魔物の狩りや採集が危険でもあるため現在はほぼなくなっているという。
「これだけ数が減るということは、ニムーブ涸沼から魔物が漏れてこないからじゃないかな、って――」
「えっ、魔物って漏れ、るものなんですか? 不眠の呪いだけでなく?」
エステルは驚いた。
長い時間をかけて少しずつ漏れた魔物たちが周辺の環境を変えていったということらしい。放置しておけば蔓延につながりかねず、かといって地下迷宮から魔物がまったく漏れなければだんだんと魔物に適した環境でなくなっていく。
「魔物って本来、地下迷宮の外では生き延びられないはずなんですよ」
市場にまじない素材が出回っていない理由はこれだ。そもそももとの生きものがいないのではどうしようもない。
「そんなわけで呪具師のみなさんには申し訳ないんですが、持続的な調達が可能になるまで素材を出荷しないことになったんです。そのうち公式に発表する予定らしいんですけど。で、ちょうど今、魔物が少なくなって危険も減っていることですし、いかがでしょう。ちょっと魔境見物、していきませんか?」
「いいんですか?」
「かまいませんよ。定期的に見回りをするくらいで誰も狩りに出ていませんし、ご覧のとおり暇なんです。どこがいいでしょうねえ。エステルさん、乗馬は?」
「できません……」
「動物が駄目ってことは」
「それはないです。乗馬の経験がないだけで」
「いかがでしょう。二人乗りで魔境散歩としゃれこむのは。わたし、こう見えて組合でもトップランクのハンターですよ。長とか団長さんとか、規格外レベルの人たちには及びませんが」
愛らしい目をきらめかせオルガが見上げてくる。
「ぜひお願いします」
「よかったあ。徒歩だと砦のまわりしか見られないんですけど、馬を使えばけっこう遠くまで行けます。どこがいいかなあ」
ふたりはうきうきとピネッキ魔境拡大地図へ視線を戻した。
「お勧めはどちらですか」
「ここまで行けると楽しいんですけど」
オルガが指さした場所には「優雅な猫足亭」と書き込まれていた。シーララ山の砦と反対側の奥、ムビ砂漠近くにある。
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