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シーララ山の潜伏者
4.
灌木の間を縫い、三人は砦に一番近いキャンプ地「ピンチャブせせらぎ庵」を目指し石龍馬を走らせていた。
石龍馬とはマウエン教世界ではここシーララ山にしかいない、大きな蜥蜴のような鳥のような魔獣だ。
剣呑な姿のわりに黒々とした目に愛嬌がある。オリーブに似た緑色の羽根を生やし、目の周りは白い。蜥蜴のような頑丈そうな頭をしていて、口には果実の固い殻をばりばりと噛み砕く物騒な歯がずらりと並んでいる。前脚は短く退化し、背中に荷物や人を乗せ長い尾でバランスをとり後ろ脚二本で地を蹴り疾走する。人なつっこく、乾燥にも強い。が、せっかく家畜化の目処がついてもピネッキ魔境を超えて生息できず、ハンターの騎獣にするにとどまっている。
徒歩だとシーララ門周辺しか見て回れないが、石龍馬をつかえばキャンプ地をひとつふたつ見に行くことができる。しかし三人でシーララ山へ向かうのに石龍馬は二頭。街育ちのエステルでは乗りこなすことができようはずがない。秘書官を自分の石龍馬に乗せるとルドがああだこうだとごねるもオルガが
「未婚女性は、未婚女性同士で」
ぴしゃりとはねつけ、結果、エステルはオルガの石龍馬に乗ることになった。
灌木の茂る乾いた山道を、二頭の石龍馬が砂礫を蹴散らし猛スピードで走る。オルガはエステルを後ろに乗せ手綱を巧みに使った。
「お休みだってのに部下についてまわる上司ってどうなんです?」
「くるっくるー」
呆れ声でぼやくオルガに石龍馬のクルリが啼き声で応えた。
「子ども扱い、なんだと思、――んぐ」
エステルも応えたいのはやまやまだが舌を噛みそうでうかつに口を開けない。
「なるほどー。団長さんって過保護なんですね。って、エステルさん、どう見たって大人じゃないですかあ」
組合の事務員でハンターでもあるというオルガは石龍馬の揺れをものともせず機嫌良く話し続けた。
「ヴェーメル団長って、着任してすぐハンターの免許もとったんですよう」
「ん、ぐ」
「そ、ですね。珍しいと思いますよ」
呻き声しかあげられないエステルの答えを察したか、オルガは話を進める。
「やっぱりたいへんじゃないですか、『地下迷宮のお気に入り』って。前の団長さんはわたしが組合に入ったころにはもうお元気でなかったっていうか、人前に出ることもあんまりなかったっていうかあ」
「んっ、そこまで、――っぐ」
どうやら今までの団長は呪い吸引器扱いだったらしい。先日、ルドが数日砦を留守にしただけでたいへんな騒ぎになったことを考えると「地下迷宮のお気に入り」の役割は人の体に大きな負担をかけるのだろう。
「今までの団長が日に日に窶れていってたことを思うと、今度の団長はまだ着任したてとはいえ、だいぶ元気なんですね。枕盗まれたときはほんと、どうなることかと思いましたけど」
「くるっくくー」
――なるほど。必死にもなるわけだ。
エステルは異動を命じられた日の大神官を思い出していた。一文官の貞操など考慮しないといわんばかりの態度には今も腹を立てているが、ルドの人並み外れた呪い耐性の高さと優秀さを評価していることは理解できる。
ど、どどどど。
灌木を器用に避けながら斜め前を疾走するもう一頭の石龍馬、ケルリに乗るルドの後ろ姿へ目をやった。
「もうすぐ着きますよ! ――ん?」
オルガが石龍馬を止めたのと同時に、ルドも止まり、前方をうかがっている。二頭の石龍馬が静かに身を寄せ合った。
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