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向背
13.
しおりを挟む診断道具とまじない素材の入ったポーチを鞄にしまった。手にゴーレムの角を握っている。
「まいりましょう」
魔人たちとともにエステルは医務室を後にした。
管理棟から外へ出て、シーララ門へ向かう。魔人ふたりとエステル、丘が歩いているようなゴーレムのクラディ、続いてなぜか厭がる衛生兵たちを急き立てて、医務室の枕をぎゅっと抱きかかえている大神官補佐ミヒルもついてきた。
「エステル?」
管理棟の窓からサイニとイロナが顔を出している。
「何してんの! 非戦闘員は避難命令、出てるよ!」
「うちらも逃げ遅れたんだけどねー。こっちおいでよ、早くー」
ふたりが手を振っている。
「こっ、こらっふたりとも、顔を出しては……、うわわっ、ら、ランキラさん、ななな、何してんの早く、早くこっちへいらっしゃいっ」
イロナとサイニに代わり顔をのぞかせたトロースト管理部長があわあわと狼狽えながらエステルを手招きした。
若い女と武官でない中年男と見るや、大神官補佐ミヒルは薄い胸を張り声を張り上げた。
「田舎者どもめ、教えてやる! この女は魔人混ざりなのだ。だからマウエン教界から追い出すのだ!」
「はあ?」
「うちら、だいたいが魔人混ざりですけどー」
「そういう、意味じゃ、ないっ! 口答えをするな! わたしは、偉いん、だっ!」
ミヒルがだすだすだすと地団駄を踏む。乾いた砂埃がもうもうと舞い上がった。
魔人たちは足を止めたミヒルを気にすることなくすたすたとシーララ門へ向かう。
「……」
ゴーレムのクラディがちょいちょい、と蔓草の指で前方を指し示した。
「ああ、井戸か。せっかく団長殿がお許しくださったのだ。――いいぞ、出発の前に存分に吸水してくるとよい」
タピオがうなずいてみせると、クラディはのったりと緑の山が何体か貼りついている井戸へ向かった。
シーララ門では、もがれた扉がぐんにょりへし折られて跳ね橋の下の涸れ谷に投げ捨てられていた。跳ね橋は途中まで上がった形のまま、鐘楼は鐘が傾いた形のまま蔓草で縛り付けられている。まるで刃が立たなかったのだろう。蔓草でぐるぐる巻きにされた魔物狩人組合のハンターたちが蓑虫のように門に吊されていた。下手に暴れて蔓草が切れてしまったら涸れ谷へ落ちてしまう。
門の前で、エステルは立ち止まった。
「さあ、行こう」
タピオ王子が手を差し出した。反対の手は手足をぶらぶらさせた抱き枕をかかえている。
破壊されたシーララ門の先は、ゴーレムたちが蔓草で橋を渡していた。その向こうに有翼狼、大きな蜥蜴のような魔獣数頭が牽く大きな車が見える。
「さっきの女たちも、神官服を着たいけ好かない団長とやらも薄情な兵たちも、人間だ。五十年も経てば皆、いなくなってしまう。年をとらないおまえひとりを残して。――エステル、おまえの居場所はここではない」
「耳を貸すな、ステラ!」
衛生兵たちをかき分けるようにして、ルドが駆け寄ってきた。突き飛ばされた大神官補佐ミヒルがきええええと叫びながら手足をばたつかせている。
10
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