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向背
14.
しおりを挟むシーララ門の前へやってきたルドが、ゴーレムの角を握りしめるエステルの手を取った。
「俺は、五十年後もきみと生きる。年をとり毛が抜けようと歯が抜けようと、きみと生きる! 行かないでくれ、ステラ!」
「小童、手を離せ!」
もう片方の手をタピオが取った。
「わたしはあと二百年は軽く生きるし毛も歯も抜けない。エステルを大事にできるのは小童、貴様ではない! 祖父たるこのわたしだ!」
「タピオ、図々しいにもほどがあるぞ。いきなり現れて何が祖父だ。それに五十年後、俺の毛と歯の全部が全部抜けているとは限らない」
「ふたりとも、放してください。あと、毛と歯の話からからも離れて」
「大事なことだぞ」
「重要なことなんだ」
「あー、そうですか」
エステルはふたりの手を振り解いた。
「では好きなだけ毛と歯の話をすりゃあいいじゃないですか。私抜きで」
「すまない。ステラ、きみがいなければ毛と歯が残ったところで意味がない」
「悪かった、エステル。わたしの毛と歯はあと二百年は確実に安泰だ」
「貴様の毛と歯が安泰かどうかなど、誰も気に留めていないぞ」
「小童、二百年後に貴様は間違いなく生きていないだろうからな。確かめようがない。それはさておき――クショフレール大公国第三聖騎士団の」
タピオは大きく息を吸い込み胸を張った。
「団長を名乗る男が、エステルを連れていけと抜かしおったのでな、ありがたく連れて帰るところだ」
「クショフレール大公国第三聖騎士団団長は、俺だ」
「指揮系統に混乱があるようだな、小童。しかしもう言質はとった」
「ステラは渡さない」
ルドがエステルを抱き寄せた。
す、するる。
背後から緑の蔓がルドの首に巻きついた。
「……っ、ぐ」
白い肌が赤黒く染まる。井戸から門へ戻ってきたゴーレムが蔓草を伸ばしルドの首を絞めていた。ゴーレムの角が一本欠けている。
「やめて、クラディ! この人を傷つけないで」
蔓草が緩み、ゆっくりと退いていく。げほげほと咳き込むルドの背中をさすりながら、エステルはタピオを振り返った。
「逃げません。ですから上司との最後の業務連絡を、させてください」
「いいだろう」
タピオとゴーレムのクラディが距離を取り、蔓草まみれのシーララ門の前でエステルはルドとふたりきりになった。
「魔界へ行くつもりか」
「はい」
諦めるために必要だから。
エステルは顔を上げルドを見つめた。
「すみません。手紙に書いてあったこと、言い出せなくて」
「俺が何とかする。信じてもらえないか、ステラ」
「あなたのお心を疑っているわけではありません。私が、駄目なんです。私が側にいたらあなたの築いてきた地位も力も信用も、これまでの努力もぜんぶ、駄目にしてしまう……」
言葉に詰まる。
砂漠の入り口なのにシーララ門がゴーレムの蔓草に彩られて、視界も匂いも森のように緑に滲む。エステルの頬を涙が伝った。
「短い間でしたけど、幸せ、でした……」
「行かないでくれ、ステ――」
「おい、まだか。早くしろ。わたしは忙しいのだ。魔人どもを追い出したらど田舎ながら栄えているとかいうサルケ市場の視察に取りかかりたい」
いつの間にか、すぐ近くに埃まみれの礼服に身を包み医務室の枕をひしと抱えた大神官補佐ミヒルがにやにやしながら立っていた。
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