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向背
17.
「怖くなどないぞ、脳筋め! わたしは魔界の間者を追い出してやったのだ。感謝されてしかるべきだ。赦されると思うな! このわたしを罪人扱いなど――」
「分かってない」
呆れたようにドミニクスが溜め息をついた。
「自分がやらかしたことをよくよく思い出してみなさいよ」
第三聖騎士団団長とその秘書官を不十分な嫌疑で地下牢へ送り、成り代わって団長位につこうとしたが体が受け付けず、呪いの暴走を引き起こしかけただけでなく魔界アウヌラ国使者団への対応を怠り千年間堅守しつづけたシーララ門を破らせ、第三聖騎士団団長付秘書官を要求されるまま引き渡した。
「千年よ、千年。優位に立っていたってのにあんたのせいでマウエン教界は負けたのよ」
「負け、っ? 大袈裟だぞ、そんなわけが――」
「第三聖騎士団のやるべきだったことはシーララ門の堅守よ。自分から腹を出して『いわれるとおりに秘書官を差し出すからゆるして』って戦いもせず負けることじゃないわ」
「……っ」
「マウエン教界最強の守りを内側から崩した。あんたは声が大きいだけの莫迦よ」
「ち、違……っ」
「そうね。それだけじゃない。ミヒル、あんたはマウエン教世界の敵よ」
「わ、わたしの、長きにわたる今までの、献身がこんな、ことで……」
「自分でぶち壊したんだものね。それから――魔界の怪物級ゴーレム十体への吸水許可も与えたんだって?」
「そ、それが、どうした」
急に話題が変わったように感じられたのか、ミヒルがきょとんとした。
「ピネッキ砦の井戸はほとんど空よ。砂漠のほとりで暮らす民がどれだけ水を大事にしているか、――道中八つ裂きにされても文句はいえないわね。さあ、マウエン教国本山で査問が待ってるわよ」
「そんな莫迦な……!」
マウエン教会の神官にとって査問にかけられることは即ち神に仕える資格を失うこと、死と等しい。これまで査問をいいわたされた神官たちは自ら去って行った。ミヒルはそうしようと思ってもできない。逃げたとしてもミヒルは己が蔑み侮ってきた砂漠のほとりの民に赦してもらえず、助けも施しも与えられず乾いた原野に放り出されるに違いない。そして無事にマウエン教国へたどり着けばたどり着いたで査問の恥辱、破門宣告を甘んじて受け容れるほかない。
「すぐに出発なさい。――ああ、その枕は第三聖騎士団の備品だから置いていってね」
しがみつくように抱き締めていた医務室の枕を聖騎士に奪われ、ミヒルは血相を変えドミニクスを睨みつけた。
「か、返せ……っ」
「あんたのものじゃないでしょうに。泣きながら悔やんでた衛生兵たちによればあんたってばエステル・ランキラの処方を莫迦にしたらしいじゃない? あの娘は眠りの魔女よ。今となってはクショフレール大公国一番の呪具師だってのに、もったいないことしたわね。――連れていけ」
はくはくと声を失ったかのように唇をわななかせるミヒルを引っ立て、第一聖騎士団の団員が執務室から出て行った。
「――戻っても、よろしいですか」
ルドが立ち上がった。
「いいわよ」
ドミニクスにうなずき返すとルドは出て行った。
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