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アウヌラ宮殿へ
1.
エステルは恐る恐る車窓の外へ目を向けた。
そこは深い洞穴だった。底がどれほど先にあるかまるで分からない。
有翼狼や蜥蜴の魔獣が牽く竜車二台がすべてひとつの大きな光の術式陣に載り、ゆっくりと闇の中を降下している。見上げると、怪物級ゴーレムのクラディが光を照射している。その光が描く術式で魔法を発動しているようだと察しはつくが、どんな仕組みなのかまでは理解が及ばない。
「すごい……」
つぶやいたエステルをタピオが
「しっ」
唇に人差し指をあて窘めた。
「静かに。ここは大砂龍縲緤獄だ」
「だい? るいせつ、――何ですって?」
しいいい、とさらに強く制止される。
やがて光の陣に載った一行は巨大な洞穴の途中につくられた扉の前で宙に浮いたまま停止した。クラディが手をかざすとゆっくりと軋みながら扉が開く。その軋みに応えるように
ぞ、ぞごご……。
洞穴のはるか下のほうから巨大な何かが蠢く気配が伝わってくる。
ぞ、ぞぞ、ご……。
何かの気配がのぼってくる前に、一行は扉の奥、横穴へ吸い込まれた。ぎちぎちと軋みながら扉が鎖される。
ずぶ、ぶぶ、ぶ……。
向こう側で、扉を巨大な何かが撫でさすっている。
――違う……。
得体の知れない大きな何かが扉をこじ開けようとしている。
「……っ」
エステルは悲鳴を飲み込んだ。隣の席に戻ってきたクラディが蔓草でできた手でそっとなだめるように背中を撫でる。
初めのうちそろそろと辺りをはばかっていた竜車が、やがてごとごとと軽やかに進み始めた。
「ふう」
タピオが安堵の溜め息をついた。
「ここまで来れば安心だ」
「さっきのあれ、……何だったんですか」
「大砂龍縲緤獄さ」
緊張を解いたシピが「息がつまるようだったね」と笑い、タイを緩める。
「われら魔人が数で圧倒的に不利であるにもかかわらず、千年の間無事に過ごせている理由のひとつがさっきのあれというわけだ」
地下迷宮――魔人にとってはアウヌラ宮――はムビ砂漠の地下、東西に細長くつくられている。空気穴は随所に設けられているが、門は西端の西幽門と東端のニムーブ門のふたつのみ。
ニムーブ門は誰もその底を知らないほど深い縦穴に設けられ、通り抜けるには魔術師あるいは鍵となるゴーレムを伴う必要がある。この深い縦穴が大砂龍縲緤獄だ。底に巨大な砂龍が住みニムーブ門を守っている。
「魔人も油断すれば喰われてしまうくらいだ。人間どもの侵入はいっさい許さない」
安心していい、とタピオがうなずいた。
その夜はニムーブ砦で休むことになった。
人の気配は感じられず砦はしん、と静まり返っている。
「われらを除けばゴーレムと騎獣、輓獣しかいない。静かなだけが取り柄の味気ないところだ」
「お嬢ちゃんを迎えて祝勝会と洒落込みたいところだが明日も急ぐし、今夜は休もう」
エステルよりいくぶん背が高い程度の大きさのゴーレムたちと廊下ですれ違った。蔓草でできた片手をうやうやしく胸にあて道を空ける。やはり木でできた牛頭をしていて角はクラディより短い。
「かれらは妖精級のゴーレムだ。まだまだつくられて間がないから少し不器用なところもあるけれど頼りになるよ。困ったことがあれば声をかけるといい」
寝室の用意から着替えの手伝いまでかいがいしくゴーレムが世話をしてくれた。戸惑っていたはずなのにエステルは寝心地のよいベッドでぐっすりと眠った。
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