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アウヌラ宮殿へ
3.
* * *
夜更け。歩哨から隠れ暗がりをたどり、ピネッキ砦シーララ門へ続く障壁へ大きな人影が近づいていた。人影は背嚢、剣に弓、山刀や先が尖り湾曲した茶褐色の木の棒を携え、さらに背中に手足をぶらぶらさせた人型枕をくくりつけている。
ルドだ。
鋭く辺りを見回し障壁に登ろうと手をかけたとき
「待ちな、団長」
いつの間にか屈強な大女に背後をとられていた。
「先を急ぐので失礼――」
「待てって、いってるんだよ」
魔物狩人組合の長ティリーは呆れたように包帯まみれの太い腕を組んだ。左のこめかみに彫られた雷の入れ墨も今は左目ごと包帯で隠れている。
「状況が状況なんでピネッキ魔境は立ち入り禁止なんだが。団長のあんたが知らないとはいわせないよ」
「ぐぬ」
「どうやってあたしらを出し抜くつもりだったんだい」
ティリーが顎で示す先にシーララ門が見えた。
仮の門扉が設けられたシーララ門の前では篝火が煌々と焚かれ、厳しい目をした歩哨が辺りを警戒している。悲鳴をあげる暇もなく怪物級ゴーレムの蔓草で一網打尽にされた魔物狩人組合のハンターたちだ。シーララ門を破られた責任を感じているのだろう。怪我の重くない者は皆現場に復帰しているという。
「どうやって、ってその、隔壁を乗り越えて――」
「あんたならやりかねないんだよねえ。郭壁を乗り越えるのはいいとして魔境で足、どうするつもりだったんだい。まさか歩きのつもりじゃ――、歩くつもりだったのかい?」
ティリーが包帯に覆われていない右目を剥いた。
「歩きじゃ何日かかることか。呆れたね」
「すまん」
「で? あのオネェ言葉の大神官やチャラい副長に断って出てきてるんだろうね?」
「……」
「おいおいおいおい」
野太い溜め息をつき建物の影からシーララ門へ鋭く視線を投げる。
「呪具師殿は魔界の姫だったわけだが、――あんた、そこまで執着する理由なんて、あるのかい」
「理由」
同じくシーララ門を注視しながらルドは昏く溜め息をついた。
「皆、同じことを訊くのだな。理由や魔人の血の割合など、――どうでもよい。彼女を手に入れるためにここまできた。彼女とともに生きられないならここに居続ける理由も俺にはない。ステラは十年前から俺のステラだった」
「あんたわりとわけ分かんないこというね」
「分かってもらおうとも思わん」
「拗ねるんじゃないよ」
ティリーは右目を細めた。
「団長さんよ、あんたら武官と違ってうちらは狩人だ。戦略とか戦術とかね、そういうので動くわけじゃない」
掌がかざされる。ぴんと伸ばした中指から小指はそのままに、ティリーは親指と人差し指で円をつくった。
「シーララ門破りにいくら払う?」
「言い値で。――といいたいところだがすまん、金はぜんぶ置いてきた。今から俺が行くところではマウエン教界通貨は使えないから」
ひゅう。
ティリーは音を立てず口笛を吹く仕草をした。
「その意気や良し。では、出世払いしてもらおう。――オルガ」
「はいっ」
暗がりから滲むように小柄な女が姿を現す。
「くるっく」
石龍馬のケルリもいる。馬具だけでなくサドルバッグや砂避けゴーグルまで用意済みだった。
「門のほうは準備済みです。団長さん、エステルさんのこと諦めちゃったんじゃないかって、みんなで噂してたところなんですよ」
オルガがにっ、と笑う。ティリーとオルガの視線をたどると、シーララ門で警備をしているハンターたちが全員事務所の陰、ルドのほうを向いてにこにこしている。
「諦めるものか。俺はしつこい質なんだ」
「どうもそのようだね。呪具師殿と魔界の連中に思い知らせてやんな。――ひとつ、約束してもらおうか」
ティリーがルドの肩をがっしと掴んだ。
「ちゃんと生きて帰ってくるんだよ。呪具師殿とふたりで」
「もちろんだ」
シーララ門の仮設扉が開く。魔物狩人組合のハンターたちに見送られ、ルドは静かにピネッキ砦を発った。
* * *
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